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『福田村事件』のここがスゴい!

森達也監督の歴史劇

『A』や『FAKE』など現代の「社会から【悪】と認定され、はみ出してしまった人」と「それを取り巻く人々とメディア」をドキュメンタリーで描いてきた森達也監督が、大正時代の事件を題材に劇映画を撮ったのだから意外と思われるかもしれない。

だが、森監督は著作では『下山事件(シモヤマケース)』『ベトナムから来たもう一人のラストエンペラー』など、傑作ノンフィクション本をいくつも出している。
歴史を題材にするのはむしろ得意だ。
また森監督は著作『ドキュメンタリーは嘘をつく』では、ドキュメンタリーは撮影の切り取り方や編集で「制作者の意図」が入り込み、一種の嘘をついてしまうことがある点で、ドキュメンタリーもフィクションも本質的には同じところがあると指摘している。

今回の『福田村事件』は、森監督もインタビューでフィクションの方が伝わる題材だと思ったというようなことを言っている。それに大正時代とはいえ「社会から【悪】と認定され、はみ出してしまった人」と「それを取り巻く人々とメディア」という森監督のテーマは今回も同じだ。


森達也監督の演出スタイルは、人間中心・芝居中心で、映像的なケレン味などは抑え、気を衒わないスタイル。
カメラの距離は人物と近づきすぎず、神の目線になりすぎず、同じ高さの目線を心がけているように見える。

そして脚本だが、特筆すべきはこの映画が8割くらい時間を割いて描いているのが『福田村事件』が起こるまでの部分で、普通の生活してる人を丁寧に丁寧に描いている。豆腐売りや薬売りなど職業も丁寧に描いている。部落の出身者の普通の生活も平熱で描いている。
その全ての場面が素晴らしい。
この時代の地方の村の暮らしや悩みや欲望などが私たちと地続きの実感としてスッと胸に入ってくる。
似ていると思ったのが片渕須直監督の『この世界の片隅に』と、黒木和雄監督の『TOMORROW 明日』。どちらも戦時中の生活を丁寧に描き、戦争の悲劇がやってくる終盤と強いコントラストを生んでいた。

役者は全て素晴らしいのではないか、というくらい、全員がこの世界に溶け込んでいる。全員が泥臭く、全員がカッコ悪い姿まで晒している。
特に、普段は職業俳優ではないコムアイさんと、水道橋博士さんが、表面的ではない内側からくる感情が表情や体全体から滲み出ていてビックリした。

森達也監督がずっと描いてきた「優しい心の持ち主が集団になると外側の人間に残酷な仕打ちができてしまう」という題材の集大成のような傑作ドラマだった。

『福田村事件』のここがスゴい!

なぜ韓国人虐殺が描かれてないのか?
森達也という人の意外な面、などなど30分ほど一気にしゃべっております。


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