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絵画において、ファムファタルな女性は存在するのか?

 こちらの記事で本来のファムファタル像(=性的魅力を用いて男を破滅に追いやる女)に該当しない主題が多くあるのではないかと提示した。サロメは性的魅力でヨハネを誘惑した記述はないし、ユディトは街を守る英雄的行動にその称賛の声が集まる。しかし、時代を経るにつれ彼女らのイメージは変容し、女性性のある行動、すなわに性的魅力で男を殺害へと追いやったように印象付けられ、今日まで続いている。では、絵画における真のファムファタル像は存在するのだろうか。今回は多くの人がイメージするファムファタル像に該当する人物を紹介する。

【メディア】

 自らの土地にとある使命を果たすべく現れた青年に恋をしたメディア。彼女は魔術を使い青年の使命遂行を助け、やがて結婚を条件に彼に立ちはだかった難題すら解決してしまう。その後、青年とメディアは二人の子供をもうける。

 そんな折、青年はある土地の王から王の娘との結婚話を持ちかけられる。王の娘と結婚することは、すなわち次期王の座を獲得できる好機であり、地位と名誉、それに付随する富を得る機会であった。それらの欲望に魅せられた青年は、王の娘と結婚し、一方的にメディアと別れる。それに怒った彼女は、王とその娘を毒殺し、挙げ句の果てにイアソンとの間にもうけた二人の子供を殺害するのであった。

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ドラクロワ『我が子を殺すメディア』1862年

【キルケ】

 ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』の主人公オデュッセウスは、トロイア戦争からの帰路とある島に滞在する。その島を部下たちに探索させると、あろうことか彼らが家畜である豚に変貌しているではないか。そこで、オデュッセウスが島を調べ見つけたのが、島の主キルケだ。彼女はその魅惑的な容姿を武器に部下たちを魅了し、ある杯を飲ませていた。この杯はキルケの魔術によって生み出された毒であり、人を豚に変えてしまうのである。オデュッセウスもこの誘いを受けるが、杯を飲まず、彼女が放つ魔術も退き勝利するのである。

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ウォーターハウス『オデュッセウスの杯を差し出すキルケ』1891年

【彼女たちはファムファタルか、、、否!?】

 メディア、キルケ共に魔術使いであり、そのスキルを活かし男を誘惑しているのではないか。よって身体ひとつを武器に性的魅力で誘惑するファムファタルではないと考える。書きながら思った。ファムファタルって狭義の意味で考えると存在しないのではないか。つまり、18世紀中頃に出来たこの概念は、この時代以降の作品のアイデンティティになってしまっている為、18世紀より前の概念を適用するべきではないのではないか。そうなると、サロメもオスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』以降はファムファタルだし、中世はファムファタルではないと考えれば良いと言うことになる。うん、それで良い気がしてきた。


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