悪い酒を食ってしまった
悪い酒を食ってしまった。悪い文章を書く。こんな文章を好き好んで読む最低限文化的な読者同志諸君であればお分かりいただけると思うが、酒は感情の増幅装置である。いい仲間と楽しく飲めばより楽しく酒が飲めるし、独りダウンに飲めば底なし沼の底ってやつを見つけてやろうじゃないかという具合に落ち込んでいける。
前回のホラーの話で僕は反省した。いくらなんでもダラダラとまとまりのない牛の腸なみに長い文章、いや牛の腸の方がまだ消化器官として立派なものだ、現に牛は現代まで絶滅せずに生き延びているのだから、を書いてしまった。おまけにしっかりスクリプトまで切ったうえでの体たらくである。本来この場所は(まさしく今僕がしているように)スクリプトもクソもなくダラダラキーボードをたたくだけの場所であったはずだ。だからもっと短く軽やかな文章を書こうとネタをあらってすでに2つばかり書き始めていた。でもそんなものがすっとぶくらいの底の底だ。僕はもう嫌になった。
僕は現在、いわゆる飲食で日銭を稼ぎつつスペースの運営を「本業」としている。「本業」、とわざわざカギカッコをつけるのは僕の実存としての生がそちらに比重を置いているからで、金銭的な意図は一切ない、というかむしろ飲食で稼いだ金をガボガボスペースの方に放り込んでいる具合だ。そのことに別段文句も悔いもない。
共同体において我々はある種の役割を得る。クラフト的技術に長けた者。宣伝広告に長けた者。理念を語るのに長けた者。雑多な事務作業に長けた者。自ら望んで立ち上げた共同体において役割を得るのは決して嫌なことではない。そして、このスペースにとって僕の役割は「潤滑油」だ。人々の利害を調節する。誰もが納得するような合意点をすり合わせる。人間同士のバランスをとる。そして少なくとも今のところ皆、うまいこと仲良くやっている。僕がスペースにいる限りは。
家賃。食費。光熱費。酒代、煙草代。その他あらゆる雑費。こいつらをマカナわねばスペースの運営に割けるような資金はない。いや、このご時世に仕事があるどころかスペースの運営なんてクソほどの役にも立たないゴミのようなトコロにつぎ込むだけの余裕があるだけありがたい。ただ、それだけの資金を得るために僕は基本的に平日は朝から夜まで働いている。スペースにいられるのは週末か、極々限られたタマの休みだけだ。
「潤滑油」がさされないスペースは突然軋んだ音をたてる。ギシギシガリガリ不快な音。僕が現れれば油がさされ、その音は消える。スムースに歯車は回り、カッチカッチと快い音が鳴り響く。
クソったれのクソジレンマだ。スペースがうまく回るためには僕がその場にいて「潤滑油」の役割を果たさなければならない。しかしスペースの運営に割くだけの余裕を得るためには平日朝から晩まで働かなければならない。スペースに在駐しながら日銭を稼ぐ。はっきり言ってこれが理想だろう。しかし大学を出てからこの歳まで職探しをしたことがない。なりゆきで飲食を始め、店を変えつつ今の今まで来てしまった。改めて自分の人生を1枚の書類に落とし込んでみると自らが志向するものとのあまりのカイリに吐き気がする。自分のタイダが招いたものとは言え、果たしてどこから手をつけていいのかすらわからない現状だ。「とにかく動いてみたら?」「いくらでもあるでしょ、頑張れば」ペンギンにまあ飛んでごらんよ、魚に歩き出せばどこかにつけるよ、と言っているようなものだ。目指すべきゴールはおろか、スタートラインすらわからず僕は途方にくれている。誰に相談すればいいのかもわからないのでこんなところに吐き出してみた。半分ほど残った悪い悪い酒を飲み干したら寝ることにする。
どうだ同志諸君。短い文章も書けるだろう。ざまあみろ。