未達成の脳内アチーブメント

人生は運ゲーでクソゲーである。
ただし、いくらクソゲーとは言え、プレイせざるを得ない状況において、このまま未達成のアチーブメントや未回収のトロフィーにしておくには、いちゲーマーとして少し後悔が残りそうなコンテンツがいくつか脳内に存在する。

そのうちの代表的な物の1つが、以前に記事で書いた
「20代のうちに、今お金で変える幸福を無くす」というものだ。

ゲーム風にわかりやすく示すなら

ミッション期限ー20代終了まで
達成済み
☑お金で買える幸福の達成
☑ちょっとした料理を作れるようになる

といった感じだろうか。

僕の頭を悩ませているのは、人生というクソゲーには取得期限付きアチーブメントや取得期限付きトロフィーが数多く存在することだ。
それらは指定された期間や、限られた期間にしか入手できず、
逃してしまった場合は、そのストーリーの周回ではもう入手することができない。

本当にゲームならば、逃してしまったアチーブメントを手に入れるためにはシナリオをもう1周すれば良い。
しかし人生というクソゲーにおいては、周回要素は存在しない。
強くてニューゲームも存在しないし、仏教徒でもないので輪廻転生は存在しない。あったとしてたぶん僕は猫とチンチラといっしょに畜生道に行く。

既に10代で取り逃してしまったアチーブメントは、ミッション未達成の文字と共に、灰色で塗りつぶされ、項目だけが残り、達成報酬は未獲得のまま、今も残り続けている。
もう入手することは叶わないのに、おそらく人生が終わるその時まで頭の片隅に表示され続け、残り続ける。

ミッション期限ー10代終了まで
ミッション未達成
☒放課後に友達と寄り道して帰る
☒部活動に打ち込む
☒アルバイトをする

特にその10代のアチーブメントの中には、
20代のアチーブメントの「前提クエスト」となっていて、10代で取り逃したことによって、その後の人生でその系統のアチーブメントが一生入手できないことが確定してしまうものが多く存在する。

あえてわかりやすい例を上げるなら、

20代アチーブメント
ー10代前提をクリア済みの場合のみ遂行可能
未達成
☒良い大学を卒業する
☒政治家を目指す
☒大手会社に入り良い給料を貰う
☒プロ野球選手になる
☒絵描きとして飯を食う
☒ミュージシャンとして活躍する
☒初恋の相手と結婚して家庭を持つ

等である。

それら"10代前提をクリアした場合に発生する20代限定アチーブメント"は10代でなにかを選択した、あるいは選ばなかった時点で、可能性として切り捨てていたものでもある。

ほとんどが今さら達成したいとも思わないし、元々達成したいと思ってすらいなかったものでもある。諦めたものもあるし、現実として達成不可能なものが多い。

問題なのは、あとたった数ヶ月しかない20代で、まだ間に合ってしまう小さな20代アチーブメントが存在することである。

30代を射程に捉えるにつれて、
"今からでも間に合う20代で入手したほうが良いアチーブメントの一覧"
頭の片隅にデカデカと表示されるようになってきたのだ。

☐花火を見に行く
☐お祭りに行く
☐スノボをしてみる
☐劇団四季を見てみる
☐バンジージャンプをする
☐吐く寸前まで食べ放題で食べる
☐ディズニーランドに行く
☐USJに行く
☐資格を1つ取る

パッと浮かんだものを並べてみると、30代でも40代でも問題なく進行可能に見えるものばかりに見えるが
「20代のうちにやったほうが絶対楽しいだろうな」
と思えるようなアチーブメントばかりだ。
20代で達成しておくことで、その後の人生で永続的なバフ効果が得られるトロフィー効果を持つ実績たち。

さらに今、達成済みにしておくことで、30代、40代、あるいは50代になった時に「20代はあんなことしたなぁ」とトロフィーをコレクションとして眺めて、ちょっぴり懐かしくも幸せな気分になれそうなものも多い。

そして現在、僕は20代のうちに取っておいたほうが良いいくつかのトロフィーを、多少強引な方法であっても、あと半年以内に獲得すべきではないかと思っている。少しでも後悔を残さないように。

あとでそれらを見返した30代、40代……の僕が、ふと思い返した時に「バカな方法でトロフィー取ったんだったな」と笑ってくれればそれでいい。

例えば、一人で川沿いをチャリで走り、人の邪魔にならない場所にチャリを停めて、横浜の花火大会をちらりと見ながらレッドブルを飲んで、帰る。
近所の公園で町内会がやっている小さなお祭りでかき氷をアホみたいに食べる。
最寄りのしゃぶ葉で昼から食べ放題でしゃぶしゃぶと野菜を食べる。
キングダムハーツをプレイしてディズニーランドに1人で夕方頃から特攻し、疲れたら遅くなる前に帰ってきても良いかもしれない。

そうやって残り僅かな20代を小さな達成済みアチーブメントで埋めていく。

そして来年の3月に30歳になる。
きっと実際に30歳を過ぎたからといって、今更それをきっかけに、個人としての価値観が急激に変動するわけじゃない。

せいぜい書類に記載する年齢の項目にしばらくゲンナリしたり、近所のおばちゃんに「もう30なの!?」と言われる程度だろう。

でも、そうやって、"20代のうちになりたい小さな自分"をあと半年積み重ねて後悔なく30代になりたい。

この脳内アチーブメントシステムは息苦しく思えるかもしれないし、普通という概念に無意識に縛られて存在するものだと思う。

でも脳内アチーブメントには良い面もある。
10代や20代で「取り逃さないと」発生しない、レアなアチーブメントも存在する。
そのことが「まだ死ねない」「こんなクソゲーでも捨てゲーはいけない」と思える理由にもなっていると思う。

学校に行かなかったから、恋愛経験が無いから、就職活動をしなかったから、ゲームばっかりしていたから、転職をしたから、離婚経験があるから、だからこそ発生する貴重なアチーブメントやトロフィーも中には存在するのだ。
だから、稀に人生は面白い。ほんと稀にだけど。

30代まであと約半年。
今は、手の届く範囲のアチーブメントを消化しながら、取り逃したアチーブメントに後悔を重ねて、レアアチーブメント獲得に胸を踊らせ、まだ見ぬ30代のアチーブメントの発生に備えるだけだ。


そういえば、土曜日にインターネットフレンズ達とBBQをした。
あまりにも暑い日で意識が飛びかけたけど、湿った芝生の匂いを嗅ぎながら、自分の紙コップに印をつけて、ハーブソーセージが焼けるのを待ちながら、炎天下でビールを飲んだ。
クーラーボックスで冷え切らなかったぬるいビールが、いつかもっと大人になった時に、大人の夏休みの象徴として思い出す味になった気がした。
そして、まだ僕の人生に"夏"があったんだ、と思った。

ヘトヘトになって帰宅して冷水シャワーを浴びてる時、Goldランクくらいのトロフィーの入手音がテロリンと脳内に響いた気がした。

20代アチーブメント
達成済み
☑友達とBBQをする

次は何を埋めてやろうか。

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