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見ぬこと清し

 先日、昨年の夏以来、初めて某ハンバーガーショップで遅い昼食を済ませた。夕方に近かったせいか、十代の学生や大学生が店内の座席を陣取っていた。

 カップルでいちゃついているのもいれば、赤点を取ったのか友達に勉強を教えてもらっている微笑ましい子たちもいた。
 夕方、学校帰りにこんなところで油を売っていられるということは、家庭の懐事情もそれなりに良いのだろう。中には親の病気の面倒を診たり、家の仕事を手伝ったりと、時間的経済的にそんな余裕などなく、何かしら理由をつけて友達の誘いを断り一人で頑張っている子も、ここにはいないがいるのかもしれないと思うと、ちょっと胸が痛くなった。
 その中に混じって、一人で肘をついてテーブルに置いてあるスマートフォンだか本を見て、下を向いていた大学生らしき男がいた。

 男が注文していたドリンクを店員が運んで来て、何か一言「お待たせしました」とかその男に言ったのだろう。けれど、その男はずっと下を向いたまま、会釈をすることもなく、それどころか店員に目をやることもなく、勿論、「ありがとう」の一言さえなかった。

 私は何だか酷く嫌な気持ちになった。 見なけりゃいいだけのこと、見ぬこと清しなのだが、私はついつい、周りの人間を見渡しては色々と観察をしてしまう、悪い癖がある。そのせいで良くも悪くも、随分と人間の本質的なものを目にして来たような気がする。

 店員に挨拶をしようがしまいが、はっきり言ってどちらでもいいと私は思うのだが、何様でもあるまいし、やはり何か一言、何か一つ、その行為に対して反応は示すべきではないかと思う。そういう反応を示さない人間に限って、自分が逆の立場になったら酷く憤慨するのが世の常であるのだから。

 きちんと礼儀を示した方が、その人にとっても非常に人生が豊かになるものだと私は思うので、誰に対してもそうするようにしている。勿論、失礼で嫌いな奴にはしないがそれは例外として、どんな人にもそうしている。 
 相手にされたことは私も覚えているし、逆に私が したことを相手も覚えていると私は思っている。だから、自分が客だからと言って横柄な態度を取ることはない。

 人間どこで立場が逆転するか分からないのである。だから、いつも謙虚でいなくてはと思うのである。

2023年11月22日 書き下ろし

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