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事業責任者就任〜委譲における心境変化のリアル


2021年12月末をもって、3年間務めた事業責任者の役割を新責任者に移譲した。

事業責任者を引き継いでから、売上は約10億円規模、ざっくり7倍くらいには成長した。組織も7倍くらいの規模となった。

これからは、新たに新規事業部を立ち上げ、新規サービスの立ち上げ、事業責任者の輩出の2つにコミットする。

非連続で、それでいて継続的な成長を続けることが求められるスタートアップでは、事業責任者の輩出は重要なイシューである。そんな責任者に必要なスキルや経験は数多あるが、必要不可欠なのはマインド面(オーナーシップや覚悟)だと思う。

また、そのマインドをどのように醸成すべきか、というのは各責任者(マネージャーやリーダー含む)当事者からしても、経営者からしても、非常に重要なテーマである。

そのような方々にとって何らかの示唆があればと、責任者になってからの心境の変遷や、数多ある懺悔の一部をリアルな言葉にし、"引き継ぎの書"としてnoteに記す。

責任者やマネージャーなどの管理職、各マネージャーを採用・支援したい経営者、などの皆様にとって、少しでも参考になれば嬉しいです。


事業責任者 就任時


自身のリアルなマインド

遡ること、3年。
カンボジアのプノンペンにいた自分に、日本に帰ってきて事業責任者をやってくれないかとROXX 代表の中嶋から連絡がきた。その時のROXXの仕事は、リモートでオウンドメディアの立ち上げをやっていた。カンボジアでは(個人的な活動として)Co-living事業の立ち上げをやっていた。

できるだけ小さな組織で、事業変数に向き合いながら、形がないものを形にしていくことで、喜びと成果を削り出すタイプの自分にとって、拡大見込みが高い事業の事業責任者は、正直なところ向いていないなと考えていた。

また、当時は今以上に距離があったCOO 山田からの引き継ぎであり、自分では言語化できないほどの不足があることも明らかだったので、最初は断ろうと考えた。

ただ一方で別の捉え方もあった。スタートアップに転職してきて、早2年。大きな成果は残せていない自分にとっては、チャンスとも捉えられた。殻に閉じこもったままコンフォートゾーンに居座る道を選ぶことも考えながらも、最終的には「やれるだけやってみます」と答えていた。

今振り返るとこの時は、「やるからには責任持ってやり切る」というマインドだけしか持ち合わせていなかった。自身の不足も正しく認識できないまま、理由なき覚悟だけが先行している状態だった。さらに言ってしまえば、これをやり切った先に何があるのかも明確にイメージはできていなかった。

あらゆる要素が不安すぎて、不安にすらも実感がないという、自身の心境状態すらを正しく説明できない状況だった。掠れた不安と、独特の高揚感、気合いと覚悟だけを携えて、全員の場で「やるからには全力でやりきります」と挨拶したのはいまだに覚えている。


これから責任者を引き継ぐ皆様へ

先は見えない。そんなもんだ。

今は覚悟さえあれば十分だ。今までの役割と責任を全うしていればしているほど、責任範囲が広がる役割を担う前に、その役割を全うできると思えることなんて、むしろあり得ない。だから、自分の中でとりあえず、どんな困難があっても、立ち向かい、真摯に対応しよう、という覚悟さえあれば、あとはなんとかなる。

自分になんか務まらない、誰々の方が良いんじゃないか、そんなことを思う必要はない。自分よりも、責任を持って、権限を委譲しなければならない前任者が、あらゆる角度から検討を行った結果が、あなたへの指名である。

中には、「〜さんには無理でしょ」という第三者からの声が上がるケースもあるかもしれない。第三者からの声は、各個人の主観100%であり、そもそもその責任者に必要な要素すらも言語化できていない、あなた自身のことも正しく見えていないケースがほとんどなので、全く気にする必要はない。

辛いことがあってもやり切る理由が1つでもあれば、真っ直ぐに受け止めた上で、やり切る覚悟を、できるだけ多くの人に表明しよう。


経営者や周囲の支援者へ

身の回りに、新たに責任者になろうとしているorなったばかりの人がいて、その人を応援したい気持ちが少しでもあれば、「〜さんなら大丈夫、応援してます」と一言 声をかけよう。表面的に不安を表現しない人でも、皆さんが思う以上に、不安なものだ。

「心の中では応援してるけど、声かけるほどでは…」という方もいるかもしれない。心に留めているメッセージを届けるだけでも、本人はより良いスタートを切れる。同じ組織であれば、小さな良い循環が始まる。


事業責任者 就任直後

自身のリアルなマインド

就任直後に苦労したのは下記の2つだった。

1つは人間関係。今まで同じチームとしてやってきた仲間との関係性が変わる。上司部下という概念自体は古いかもしれない&そこに優劣はないが、意思決定権者、評価者であり、最終責任者という関係性である以上、双方の関係性における意識は、今までとは確実に変わる。

中には同ポジションを志しており「なんで自分じゃないんだ」というような想いを持っている人もいるかもしれない。少なくとも前任者と比較する人は確実に現れる。

そもそも前任者とは全く違う人間であり、全く違うバリューの出し方を期待されての権限委譲にもかかわらず、変化への順応が苦手な人からは、「〜さんは〜をもっとうまくできたのに」というような趣旨の発言を言われたりすることは少なくともある(直接的に言われることはなかったが)。

わかってはいるけど、意外とへこんだりする。

2つは、現状のキャッチアップ。過去と未来、という時間軸においてはもちろんだが、責任範囲となる部署やチームが増える分、思考領域が広がる。自分自身が全く詳しくない職務範囲のチームに対して、目標設定やフィードバック、評価をする必要が出てくる。

責任者に関して3ヶ月くらいは正直、現状のキャッチアップで苦労し続ける。実際に責任者をやっていた人やそれ以上の責任範囲の経営者からすると、そんなに大したことないよ、と思ってしまうのだが(自分も引き継ぐ際には思ってしまっていた)、大したことがない訳が無い。

どれだけドキュメンテーションや打ち合わせ、順を追った権限委譲を経て引き継ぎを行ったとしても、言語化されないコンテキストは無数にあるし、事業計画の数値と現場仕事を完全同期させるにはそれなりに時間がかかる。また、それぞれの仕事を動かすのは人であり、人の数だけ複雑に感情も絡み合っている。(この感情を無視して組織運営はできないが感情だけで意思決定もできない)

全体像が見えない状態においては、暗闇で右往左往しているような状態に見える。同レイヤー以上の人間からすると、暗闇でもがく人の様子を暗視カメラで見ているような状態だ。全体像が見えない状態で、何をどこまでやって良いのかが、わからないので、当たり前とも言える。

この期間は周りからのプレッシャーに耐えつつも、キャッチアップに努めた。


引き継ぎ直後の責任者の皆様へ


最初の3ヶ月は、とにかく早くバリューを出したい、と焦る気持ちはあるが、コツコツとやるべきことをやりながらも耐える3ヶ月だと割り切ろう。

1つ目の人間関係については、自分自身の特性やバリューの出し方を理解してもらうにはどうしても時間がかかるので、特に気にしない。ただとにかく真摯に向き合う、わからないことはわからない、と言って、教えてもらうという姿勢を大切にする。

たまに責任者になった瞬間に傲慢な態度をとってしまうケースもあるみたいだが、その失敗さえしなければ問題はない。

2つ目の現状把握については、真摯にキャッチアップに努める。とにかく真摯に周りに教えを乞うて、インプットとアウトプットを繰り返し、フィードバックをもらう。徐々にスループットが上がってくる感覚を持てるまでは下手に大きなことを成し遂げようとしない。

キャッチアップができていない段階で、責任感や焦りから何かを意思決定をしたり、大きな戦略を打ち出したりすると、必ず失敗する。想像以上に事業は複雑に要素が絡み合っている。

最初の3ヶ月は、派手なことをやろうとせず、しかし萎縮して停滞するわけではなく、真摯にやるべきことをコツコツと進めるのが良い。

経営者や周囲の支援者へ

上記のような状況なので、周りから見ると少し不安になるかもしれない。
しかし、焦って介入したり、頭ごなしのフィードバックをしてはいけない。任せると決めた以上は、最初の3ヶ月は耐えて見守る必要がある。

そしてこの期間に、責任者と仕事をするようになったメンバーから、新責任者の悪い部分についてコメントをもらう機会があるかもしれない。その時に同調してネガティブな発言をするのではなく、新責任者を信じ、彼を信用している、という趣旨の発言に徹する方が良い。

中には、その相談や批判に迎合してしまうケースがある。それは、権限委譲が失敗する一因となる。

とにかく周りは見守る。相談やキャッチアップがしやすい場づくりに徹する。できることはそれくらいだと割り切る。

事業&組織成長期

自身のリアルなマインド

キャッチアップ期を乗り越え、事業と組織は順調に拡大した。事業規模や組織規模が大きくなればなるほど、事業のアップサイドを生み出す仕事以外に、事業の維持・運営のための仕事も増えてくる。平日の日中はほとんどが内外問わず打ち合わせで、隙間なく埋め尽くされていく。

このタイミングでは、時間の使い方に苦労した。拡大期は事業メンバーは増加するが、新たなマネジメントメンバー採用や育成を再現性高く実現することは、事業運営の中でも非常に難易度が高い。そうなると、ヒューマンマネジメントのための時間が爆増する。短期と長期で価値を生み出すための時間投下を意図してできなくなる。この時が一番苦しい。

目の前の問題解消や組織維持に時間が精神が消費され、事業進捗をつくる仕込みができていない現状にさらに精神が摩耗していく。時間だけが瞬時に過ぎていき、その焦りを表現するわけもいかず、思考と精神がどんどん分離していく。

事業の手綱を握っているはずの自分の時間が、目に見えない誰かによってコントロールされ尽くされ、身動きが取れなくなる。

責任者の皆様へ

一度上記のような状態に陥ってしまうと、できることは少なくなってしまう。そして、このフェーズに陥ってしまうと、高い確率で、後述するさらに地獄のタイミングに陥る。

だからこそ、責任者になってからの第一プライオリティーは、自分を支えてくれる幹部(マネージャー・リーダー)との信頼関係、そして組織規模の拡大を見越した、幹部候補の採用と育成である。ここはどうしても後回しにしてしまいがちだが、最初にやらないと事業拡大と共に、上記のような状態に陥ってしまう。(私自身 非常に苦労した)

その上で、事業拡大が見えない事業状態であれば、事業のキードライバーを見つけること必要がある。そのキードライバーに対して、自分自身の性質から最もレバレッジの効くバリューの出し方&時間の使い方を思考し実行する。

現状把握後にやることは、おそらくこの2つである。事業であれば、一つのチームであれ、責任者の性質によってバリューの出し方は全く異なる。責任者-事業フィット(PMF的な)という概念は実際にあると思う。そのフィット無くして、事業成長はないとも言える。事業のキードライバーと、自分自身の性質の深い理解が必要不可欠となる。

経営者や周囲の支援者へ

このタイミングでできる後方支援は間違いなく採用だ。経営者が最もレバレッジが効くのは採用だし、周りのメンバーでも支援できるのが採用である。

とにかく周りができる支援は採用支援である。採用広報のブログを書くことかもしれないし、できるだけ多くの人と話して口説くことかもしれない。

事業停滞期

自身のリアルなマインド

上記のまま、時間の使い方を変えられないと事業停滞期がやってくる。コロナの影響もあり、非常に難しい時期だった。あらためて成長軌道に乗ってきた今だからこそ、冷静に振り返ることができるが当時の記憶はほとんどないくらいに目まぐるしかった。

事業の成長が横ばいになると、とにかく焦る。少しでも成長させようと、短期の事業変数に向き合ってしまう。そうすると、次の成長の種をつくることができずに、停滞から抜け出せなくなる。

実際にこのタイミングで事業責任者を交代することも考えた。その時は周りからの支援もあり、この状況を脱するまではなんとか踏ん張ろうと思い留まった。

また、事業進捗が鈍化すればするほど、組織状態も良くなくなる。停滞を抜け出すために伝えたいことが伝わらなくなる。もちろん自分のプレゼン力であったり、組織に対して物事を伝達、シェアする仕組みが欠如していたかもしれないが、それ以上に事業進捗は組織状態にダイレクトに影響する。(事業進捗に影響しない組織は本当に強い組織だと思うので、そういう組織をつくっていきたいとも思う)

届いた批判まじりの意見を見て、伝えられなかった悔しさや自身の不足を感じるとともに、顧客に価値を届けるために向けられたはずのパワーが違うところに投下されている現状に絶望を感じる。

歯車は一度狂うと、正常に戻すまでに非常に時間を要することを見にしみて学んだ。

責任者の皆様へ

このタイミングでは、自分自身で抱え込み、卑屈になりがちだが、できるだけ多くの人に助けを乞うべきである。卑屈になればなるほど、深みにはまっていく。(自分がそうだった)

経営者はもちろん、他事業部の同レイヤー、そして一緒に仕事するメンバー、できるだけ多くの人に悩みを打ち明け、相談し、一緒に解決策を考えてもらう。

直に相談すると、批判していたメンバーも、全面的に協力してくれたりする。このタイミングで、自分がなんとかしなければ、という思考はほぼ意味を持たない。責任者として、責任を全うするために、この状況を脱するためにフォーカスすべき事項を探し、周りに協力を依頼する。これに尽きる。

周りはこういう時こそ、全力で助けてくれる。みんなで助け合えれば、抜け出し方が想像できないような状況でも必ず抜け出せる。

経営者や周囲の支援者へ

事業が伸び悩む時期は事業TOPの責任が大きいことは間違えないが、その責任者がファイティングポーズを降ろさない限りは全力で支援してあげてほしい。


退任時とこれから


最後に、退任理由とこれからについて、決意表明も兼ねて記す。

主な退任理由は、ROXXのミッションである「時代の転換点をつくる」ために、自分が得意なことにフォーカスするため、である。

ちなみに、「時代の転換点をつくる」というミッションはROXXらしく、人の言葉でモチベーションが変わったりしづらい自分でも、驚くほど気に入っている。自分もどうせ仕事に心血注ぐのであれば、時代の転換点となるようなサービスをつくりたいと本気で思っている。

また、組織規模が拡大するに連れて、自分のバリューが出づらくなってきていると感じていた。自分の特性とは違う素質や視点が重要なフェーズにきていると感じていた。一方で徐々に権限委譲を進める中で、自身とは全く違う強みを持った心強いメンバーが増えてきた。よりこの規模での事業運営を得意なメンバーに任せた方が事業を伸ばせるのではないかと考えるようになった。そして信頼できる新たな責任者に任せることになった。ざっくりいうと、そんな背景である。

自分といえば、まだ何もないところに、問いを立て、それを最短で仮説検証していく。仮説が外れていたとしても、そこから得られる新たな学びや、要素同士の結合(要素同士の抽象レイヤーを変えないと結合しないような結合が好き)、に心からの快感と喜びを覚えるタイプの自分。正直、Netflix見てるくらいなら、人同士の摩擦なく仮説検証を行なっている方が楽しい、と言えるくらい、0→1の検証は遊ぶように仕事ができる。四六時中考え悩み、結合や接続に邁進できるので、成果を出す自信もある。

そんのような背景から、新規事業にコミットした方が、"時代の転換点をつくる”角度が上がるだろうと考えた。

誰がなんと言おうと、長いスパンで見たらROXXは時代の転換点を生み出す会社になると思う。そのためには、時代の転換点となる事業が必要だ。良い事業には良いリーダー、良いチームが必要だ。この生産活動のおいて、可能な限り、不確実性を減らす、再現性を出すことが自分のミッションだ。今水面下で2つのサービスの検証を進めている。2つとも時代の転換点となる可能性がある事業だと信じている。そして、評論家や傍観者がいない真っ直ぐにコト(顧客や事業)に向き合える最高のチームが出来つつある。

もちろん不確実な未来に毎日不安は尽きないし、毎日新たな課題が生まれ、それに向き合い、手を動かし続けているが、そんな毎日が非常に楽しい。

超スゲー事業を、(外から見たら)遊ぶように生み出し続ける、変人たちのカッケー集団をつくりたい

最後に

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

このnoteを読んで少しでも共感した方がいらっしゃれば、ぜひ一緒に立ち上がったばかりの新規事業という組織づくりと、新たな事業を一緒につくっていきましょう。

新規事業に興味がある、という方や、このnoteを読んで植木に興味を持っていただいた方がいらっしゃれば、ぜひお話ししましょう!meetyで雑談のカジュアル面談つくりました。ご連絡お待ちしています。


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