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実践!地頭トレーニング#4 ビニール傘 (解答編)

こんにちは、はりぼーです。本連載では2019年に会社の若手3人と一緒に行った地頭トレーニングの内容を公開していきます。初めての方はこちらの本連載の趣旨をご参照いただけると幸いです。

登場人物
はりぼー(私):地頭トレーニングの指導者、元外資系戦略コンサルタント
まひる (ま):若手同期3人組のリーダー的存在の女性、思考は少し苦手
良太  (良):入社3年目の営業マン、考えながら走るタイプの切れ者
修   (修):控えめな性格の開発者、時々独創的なアイディアを出す

(私)「3人とも課題の解答を考えてくれたかな?誰から発表しますか?」
(ま)「はい!私から行きます!」
(私)「おっ流石まひるちゃんは勢いがあるね。それではビニール傘の市場規模の推定のロジックをホワイトボードに書いてみてください」


ビニール傘解答例1 (地域分類型)

(ま)「前回のロジックをベースに、人口のところをジメジメ地域普通地域カラカラ地域に住むグループにセグメンテーションして考えてみました。結果、市場規模は年間510億円になりました」

(ま)「具体的には下記のウェブサイトから全国都道府県別の年間降水量を参考にして、上位10地域をジメジメ地域、下位10地域をカラカラ地域、それ以外の地域を普通地域としました」

全国都道府県別 年間降水量ランキング

(良)「地域によってビニール傘の所有率や数量、交換サイクルが異なるということだね。交換サイクルがジメジメ>普通>カラカラの順番に高くなるのは分かるけど、所有率や平均所有数がカラカラ>普通>ジメジメになってるはどうしてなの?一般的にはジメジメ地域の方が雨多いからみんな傘をたくさん持ってるでしょ」
(ま)「私も最初は良太と同じように考えたの。でも身内にヒアリングしたら、普通地域に住む私達は家族5人で3本ぐらいビニール傘を持っていて、カラカラ地域に住むおばあちゃん達はなぜか家族全員が1人1本以上ビニール傘持っているの。逆に親戚の海ちゃんのお家はジメジメ地域なのに6人家族で2本しかビニール傘を持ってないことがわかったの」
(良)「たまたまじゃないの?普通地域でビニール傘を持っている人の割合が60%なのは分かるけどカラカラ地域で80%、ジメジメ地域で30%はしっくりこないな」
(ま)「失礼ね💢おばあちゃんや海ちゃんのお家の周りの人にも聞いてもらったのよ。そしたら概ね同じような傾向だったのよ!」

(私)「まぁまぁ、実際に正確な調査したわけではないから、数字の精度はいったん脇に置きましょう。ただし良太君の指摘の通りなぜカラカラ>普通>ジメジメの順でビニール傘の所有率や所有数が下がるのか?まひるちゃんが調べた事実の背景にあるロジックを考えないといけないね。誰かアイデアあるかな?」

(修)「ジメジメ地域は雨が多いからみんなビニール傘じゃなくて常に一般傘や折りたたみ傘などのこだわりのマイ傘(?)を持って歩いているんじゃないかな?逆にカラカラ地域はたまに雨が降るからみんな傘にこだわりがなくビニール傘ですますし、雨降ったら買い足すから一人当たりの所有数も増えるのでは」
(私)「うん、説得力のあるロジックだね。おそらく雨具全部を考慮するとジメジメ>普通>カラカラだろうね。でもビニール傘になると修君のロジックからカラカラ地域の方がジメジメ地域より所有率や所有数が高いという仮説が成立するね
(ま)(修〜ありがとう💛おばあちゃんや海ちゃんを守ってくれたのね)

ファクト、仮説、検証

まひるちゃんは地域を切り口にしてセグメンテーションを行い、ビニール傘の市場規模を算定しました。地域を切り口に選んだ背景には、親族のヒアリングを通じて以下の事実を発見し、そこを起点に発想を広げたからです。

・降水量が多い地域(ジメジメ地域)と少ない地域(カラカラ)地域においてどうやらビニール傘の所有している人の割合や本数が異なりそうだ
・しかも、感覚とは異なり、ジメジメ地域よりもカラカラ地域の方がビニール傘を所有している割合や本数が多そうだ

このように実際の現場の声をヒアリングしたり調査を通じて入手した事実(ファクト)をベースに思考を広げることはとても良いことです。というのも、頭の中で色々と想像するよりも現場を見た方が早いし、正確だし、説得力があるからです。「百聞は一見に如かず」ですね。

ただし、現場で得られたファクトが従来の考えと異なるような結果になった場合は少し注意が必要です。そのようなファクトは「これまでに気が付かなかった大発見の事実」か或いは「たまたまの事例で特殊なケース」かのどちらかの可能性があるからです。

それを見極めるためには、ファクトという一つの事例の背後にあるロジックを考え仮説を立て、その仮説を検証することが必要です。

まひるちゃんのケースで言うと、親戚のヒアリングのファクトから、修君が「カラカラ地域の人の方が傘に対するこだわりが少ないので、ビニール傘を所有する割合が多く且つ気軽に何本も持つ傾向にある」という仮説を立てました。今回はトレーニングなのでここまでで終了ですが、実際のビジネスにおいてはこの仮説がまひるちゃんの親戚以外にも当てはまるかどうか?検証を行う必要があります。

前回紹介したアスクルの例においても、顧客の行動調査報告書を通じて、彼らは「エレベーターのない雑居ビルにある小さな事務所で働く何でも屋的な存在の総務の女性」というターゲット顧客を発見しました。ただしその時点において上記はあくまで仮説です。このようなターゲット顧客が本当に全国に存在するのか?それはビジネスとして成立するくらいの規模の収益を生んでくれるのか?等々検証を行って初めてサービスを開始するのです。

ビニール傘解答例の続き

(私)「まひるちゃんの良い点は現場の声を先ず集めた上でセグメンテーションを考えたことだね。このフットワークの良さはビジネスにおいてとても重要なことです。次からは更に一歩踏み込んで、現場で得たファクトの背景にあるロジックを見抜き、汎用的に展開できるよう仮説を立てることに挑戦してみてください。この意識を持つことで地頭が鍛えられていきます」
(ま)「はい、分かりました。頑張ります!」

(私)「さて、他の人の解答はどうかな?次は誰が発表する?」
(良)「それでは、次は私が発表します」
(ま)(ふーん。お手並み拝見ね!)

さて今回はここまでとしましょう。
次回も続けてビニール傘の市場規模算定の解答例について紹介します。まひるちゃんは比較的オーソドックなロジックでしたが、良太君や修君は少し視点を変えたロジックを展開します。3人が選んだロジックの違いが最終的にビニール傘を増やす施策の打ち手にも影響していきます。

それではまた次回お会いしましょう!

(表紙写真:ドイツ ケルン ) 

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