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実践!地頭トレーニング#7 ビニール傘 (解答編続き)

こんにちは、はりぼーです。本連載では2019年に会社の若手3人と一緒に行った地頭トレーニングの内容を公開していきます。初めての方は本連載の趣旨をご参照いただけると幸いです。

登場人物
はりぼー(私):地頭トレーニングの指導者、元外資系戦略コンサルタント
まひる (ま):若手同期3人組のリーダー的存在の女性、思考は少し苦手
良太  (良):入社3年目の営業マン、考えながら走るタイプの切れ者
修   (修):控えめな性格の開発者、時々独創的なアイディアを出す

プロアクティブ・ラーニング

(私)「さて先ずは3人それぞれが検討したビニール傘の市場規模算定のロジックを改めて見てみましょう」

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(私)「3人の推定した市場規模は360億円〜900億円だね。平均単価が異なるのですが、傘の本数で言うと0.7億本〜1.8億本になるね」
(ま)「結構差があるのでしょうか?」
(私)「いや、3人とも幾つか想像で仮定を置いているからこの程度の差はでます。そもそもきちんと調査をした訳でないので。桁が2桁異なるならともかく、この範囲なら数字自体には拘らなくてOKです。寧ろ大事なのは…」
(良)「数字を出す過程で考えたロジックですよね」
(私)「その通り。先ず3人に覚えておいて欲しいことは、知恵を絞ってロジックを考え抜いたという経験。そして他人のロジックを見て、自分以外にもこんな視点があるんだという気づき。これらを今後もトレーニングを通じて多く経験してください」
(良)「確かに修のロジックを聞いた時、あっなるほどそんな視点もあるんだと思ったな」
(修)「僕もその後はりぼーさんからカスタマー・ジャーニーの話しを聞いて、なるほど僕の考えたことはこうやって応用できるんだと逆に自分自身が気がつきました」
(ま)「加えて、そもそもこの課題を通じて自分の力で考え抜いた経験を経たからこそ、気づきを得られたと思うわ。そもそも深く考えてなければふーんで終わっちゃうもんね」
(私)「皆さんいい感じだね。そうやって気づきの経験をすると、多様な考えの引き出しが増え、地頭が鍛えられていきます。そして、そもそも気づきを得るためには自分の力で考える過程を踏まなければなりません。アンテナを貼るイメージですね。このように主体的に学びを得るやり方をプロアクティブ・ラーニングと言います」
(ま)(プロアクティブ・ラーニング!いい響きだわ)

売上アップ施策1 (類似商品からの切り替え)

(私)「それでは具体的にビニール傘の社長になったつもりで、売上アップの施策をみんなでディスカッションしましょう」
(私)「先ずは市場を推定した時のロジックをベースにアイディアを出してみることです。その上でシンセサイズを活用しながら一連の売上アップ戦略に仕上げていきましょう。先ずは誰から先陣切りますか?」
(良)「それでは自分からいきます。自分の発表の時に少し触れましたが、ビニール傘の競合となる商品は一般傘や折り畳み傘になります。それらの傘からビニール傘へと購入を切り替え(コンバージョン)できれば売上アップになると思います。具体的にはコンバージョン・レートが70〜90%と既に高い100円ショップやコンビニ・スーパーよりも10%と低いファッション系のお店のチャネルで売上アップ施策を展開します」
(私)「うん、良太君の売上アップ施策のポイントは類似商品からの切替だね。特にファッション系のお店のチャネルにおいて類似商品に負けているので、そこを改善しようという発想だね。具体的にはどんな施策を打つことでコンバージョン・レートアップできるかな?」
(良)「実はそこが一番悩んでいるところです。類字商品と比べてビニール傘の特徴は安いコストとお手軽に買い替える点だと思うのですが、デザインが画一的でつまらないので。例えばファッショナブルなビニール傘を販売するとか…」
(ま)「或いは幼児や小学生をターゲットにするとかどうかな?キャラクターデザインを全面に出して。その頃って数ヶ月単位で成長し興味も変わるから、色々なサイズやデザインのビニール傘を500円以下の値段で用意すれば気軽に交換してくれるかも」
(修)「いいアイデアだね。加えて、今流行りのサブスクリプションを導入してみるとかどうかな?例えば入会時に1000円ぐらい払って一本ビニール傘を選び、あとは100円出せば好きな時にビニール傘を交換できるようにするとか。もちろん無くしたり壊したりしたら300円ぐらいで新品をもらえるようにして」
(ま)「面白いわね。そしたら、季節ごとにビニール傘を交換できるから子供以外にも受け入れられるかも。例えば梅雨時は大きめのビニール傘で、夏とかは紫外線対策してあるのに交換するとか」
(良)「なるほど、確かに交換需要+サブスクリプションを組み合わせることで、ファッション系のお店のチャネルで一般傘や折り畳み傘に対抗できるかもしれないね。二人ともすごいや」
(私)「うん、いい議論だね。良太君のロジックによって攻略すべきポイント(=ファッション系のお店で一般傘や折り畳み傘からのコンバージョン)が明確になったからこそ、まひるちゃんや修君のアイデアが生まれてきたとも言えるね。このように何かアイディアを出すときは、あえて論理的に考えるポイントを狭めていき、そこから集中して発想を引き出す方が良いアイデアが出ることが多いです。もちろん直感や思い付きも大事ですが、両方使えるとより柔軟な発想ができるようになります。発想のコツについてはまた改めて詳しく説明していきますね」

売上アップ施策2 (機会損失をなくす)

(私)「それでは二番手はまひるちゃん?それとも修君?」
(修)「それでは、僕がいきます。僕のロジックをもう一度簡単に説明すると、大雨の日に傘を忘れて外出する機会が全国で年間4億回あり、その内1.8億回においてビニール傘が購入されるという考えでした」
(修)「前半の部分である、外出率や大雨発生率あるいは傘を忘れる確率はコントロールできないので4億回の機会については一定と考えました。そうなると、後半部分である大雨に遭遇した時、如何にして雨宿りする或いは濡れる覚悟で走るを選択する人達をビニール傘購入にスイッチできるか?が売上アップ施策の肝だと考えました」
(私)「いいね。ある一定の人はなぜビニール傘買わず、雨宿りしたり濡れる覚悟で走るという行動をとるかだね?」
(良)「ビニール傘を購入する場所が近くになかった、或いはあったけどお金出すのがもったいないから購入しなかった、ということかな」
(修)「さすが良太君、早いね。僕も同じように考えたんだ。じゃあそれを解消するためにはどうしたらよいのか?先程の良太君のところでも話した、サブスクリプションの考えの適用してビニール傘をシェアする施策を思いついたんだ。具体的には…」

ビニール傘のシェアリングサービス
・駅やビルやコンビニに設置した専用の傘立にあるビニール傘を共用できるサービス
・携帯アプリをダウンロードし、入会金1000円を支払って会員になれば、専用の傘立にあるビニール傘を一回(24時間)あたり100円で使用できる
・QRコード通じてロック解除し、傘を取り出して、使用後傘立に戻す(専用の傘立ならどこに戻してもOK)
・傘をなくしたり、一日を過ぎて使用したら追加で300円かかる

(修)「上記のようなサービス設計のもと、専用の傘立をまずは駅の構内から設置を開始します。その後オフィスビルやコンビニへ展開することで、利用者がいつでも・どこでも・低コストでビニール傘を共用できる環境を作り、サブスクリプション・フィーで売上アップを狙います」
(ま)「面白いサービスね。ちょうど中国で流行っている自転車のシェアリングサービスみたいだわ」
(修)「そうなんだ。その記事を読んだことがあって、そのサービスをビニール傘に応用すれば、これまで雨宿りor濡れる覚悟で走るを選択していた顧客を取り込めると思ったんだ」
(私)「修君のアイディアはまさに機会損失をなくすことで売上アップを狙うという考え方だね。ビニール傘の購入確立が高い環境にいる場面において、購入を選択しない機会(雨宿りや濡れる覚悟で走る)をいかにして減らすか?がポイントになります。そこにシェアード・サービスの考えを取り入れた点はとても良いですね」

〜余談~ 傘のシャアリングサービスについて

現実の勉強会において、上記ビニール傘の課題を議論したのは2018年12月頃でした。そのころは中国で自転車のシェアリングサービスがビジネスとして大きな話題となっていて(その後失速しましたが…)雨大国である日本ではこれをビニール傘に応用できるね、という話をしていました。そしたら、ちょうど時を同じくして以下のアイカサという会社がまさに同じような発想で傘のシェアリングサービスを開始しました。

アイカサ|傘のシェアリングサービス

一日70円で傘のシェアリングサービスを提供しています。修君のアイディアがどれだけ世の中に通用するのかについては、このサービス普及動向を見ればわかっていきますね。非常に楽しみにしています。

売上アップ施策3 (ユニバースを広げて考える)

(私)「それでは最後はまひるちゃんの番だね」
(ま)「はい…ただ私の場合、地域毎に需要を見積るロジックだったので、そこから売上アップ施策を検討するとなると、良太が指摘したようにコントロールできないところが多く難しいと感じています…」
(良)「うーん、ジメジメ地域の攻略がカギだと分かったので、自分や修のロジックに組み入れることで活用はできると思いますが…」
(私)「ふむ、このままでは少し行き詰まりそうだね。こんな時はユニバースを広げて考えてみると上手くいく場合があります」
(ま)「ユニバース?宇宙ですか?」
(私)「ははは、そうだね。ただ思考の範囲や境界という意味での宇宙ですね。宇宙が広がっているように思考の境界を広げ、よりマクロな視点から物事を俯瞰することで新しい発想を生み出します」
(私)「具体的にビニール傘を買う顧客ユニバースを例にとってやってみましょう。まひるちゃんのロジックで想定している顧客はどんな人物像ですか?」
(ま)「えっ、えーと、日本の各地域に住んでいる一般的な消費者を想定しています」
(私)「うん。それではそのユニバースを広げることはできるかな?」
(ま)「えっ、えーと、例えば日本以外の地域を対象にするとかですか?」
(私)「たしかにユニバースが広がるね。ただし今回のお題は輸出は無しという前提だったね。地域以外の視点でユニバースを広げられないかな?」
(ま)(地域以外だと一般的な消費者しかないわ。一般的な消費者って私達自身よね、一般的でない消費者っていうと……)
(ま)「あっ、B2Bカスタマーってことですか?」
(私)「いいね!具体的に言うと?」
(ま)「法人向けの顧客、つまり業務用途向けの市場を考えてみるということですか?」
(私)「その通り。3人とも一般消費者を前提にロジックを組み立てていたけど、そもそもどの消費材でも家庭用と業務用があるよね。当然傘にも同じことが言えるわけです」

ビニール傘09

(私)「では業務用の傘ってどんな用途があるか思いつきますか?」
(修)「ある程度のランク以上のホテルには宿泊客用の傘が置いてありますね。あとゴルフ場とか?そのような施設で提供する傘でしょうか?」
(良)「確かに家庭ではなく企業や施設が傘をまとめて購入し、利用者に提供すると考えると業務用途ですね。でもビニール傘って言われると…」
(ま)「うん、確かに。業務用途だとしっかりとした傘を使うから通常は一般傘を使用するよね。ビニール傘の販売は難しいかも…」
(私)「ふむ、たしかに今ある用途では難しいかもね。ところで3人はビニール傘を使うユーザーを誰と想定している?もっと具体的に言うと日本に住む人だけを対象としていますか?」
(ま)「はい、日本国籍を中心とした日本に住んでいる人たちです」
(私)「だとすれば、ここでもう一度ユニバースを広げて考えてみてごらん。日本で傘を使用するのはそれ以外にもいるよね」
(良)「あっ、わかりました。海外から日本へ旅行に来る観光客ですか?確かに業務用のセグメントとしては面白いかも」
(私)「その通り。良太君は私の意図が読めて来たかな?」

ビニール傘09


(ま)「良太、どういこと?確かにユニバースを広げて考えると外国人観光客も傘を使う顧客だけど、なぜ業務用のセグメントとして面白いの?」
(良)「そうだな、順を追って話すと…まず普通、海外旅行に行くとき傘なんてもって行かないよね。日本人は持っていくかもしれないけど」
(ま)「そうだけど、旅行中に雨に降られたら傘を買うんじゃないの?」
(良)「そういう人達もいるけど、今日本に来る観光客の内、急激に人数が増えているのは中国人なんだ。確か年間3~4百万人ぐらいになっているはず。彼らは基本的に団体のツアーバスで行動するんだ。だから仮に旅行中に雨が降ったらどうするかというと、ツアー会社の判断で屋外の観光地を飛ばして、その分ショッピング等の屋内観光の時間を増やすことが多いんだ」
(修)「確かにバスを何台も並べて数百人単位で動くって聞いたから、雨降りそうな時、屋外行動したら悲惨になりそうだね」
(良)「そうなんだ。少し前までは日本で爆買いすることが目的だったみたいだからそれでもよかったけど、年々ショッピングよりも観光が目的に変わってきているから、ツアー会社としても対策が必要なわけ」
(ま)「あっ!なるほどね、わかったわ。ツアー会社向けにビニール傘を販売するってことね。確かに日本人のセグメントだと業務用途では一般傘が要求されそうだけど、中国人の観光客ならビニール傘でも十分だと思うわ。雨降ったら傘を無料で提供しますと言えば顧客満足度が上がるしね」
(良)「その通り。更に言えば、実際ツアー中に雨が降る降らないにかかわらず、ツアー客には必ずビニール傘を渡すということにしちゃえばいんだ。ちょっと日本風のデザインに仕立てて、お土産としてみたいな形で。そのことでツアー代金が1000円くらいあがっても、旅行全体の金額からすれば微々たるものだから、受け入れると思うんだ」
(ま)「確かに面白いわ。そのアイディアだと、観光客は雨の心配がなくなり、ツアー会社は顧客満足度を高められ、更にビニール傘の製造会社としては傘が高く売れる、まさに三方よしの施策ね」
(良)「そうなんだ。流石はりぼーさんと思って感心したんだ」


(私)「いやいや、私はユニバースを広げるというヒントを与えただけで、実際にアイディアを深めたのは君たちの力だよ。ただ、ユニバースを広げるという力を実感してはもらえたかな?」
(ま)「はい、まさか私のロジックからスタートしてこんなアイディアになるとは夢にも思いませんでした」
(私)「ある意味まひるちゃんのロジックだからこそ、ユニバースを広げるという発想に至ったんだよね。なぜなら良太君や修君は現場に近いミクロの視点でロジックを詰めていたから、そこまでいくとなかなか発想を切り替えようと思わないからね」
(修)「たしかにそうですね。ミクロ視点すぎるのも問題なのですね」
(私)「いや、そんなことはないよ。時にはミクロ視点で考えを煮詰めることが必要だし、またある時は一旦突き放してマクロ視点で俯瞰してみることも必要です。要は使い分けであって、マクロとミクロの視点を交互に使うことでより多方面の視点から柔軟な発想ができるようになります」

(私)「さて、今日はここまでにしましょう。次回は今回議論した売上アップの施策のまとめをした上で、二つ目の課題に移ります」
(私)「一回目の課題でも随分と色々な考えを学びました。これらの学びは実際に何度も繰り返し使うことで身についていきますので、次の課題から早速応用してみてくださいね」
(3人)「はい!」

(表紙写真: スペイン バルセロナ)

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