「アラーが、ムスリムを虐待する中国に、新型コロナウイルス を送った」、そう主張する人間が愚かなのか、それとも元々、彼にそう思わせる宗教そのものに愚かさが内在しているのか。
以下の写真と英文は、私がフォローしている、中東の国のあるムスリム(イスラム教徒)のインスタグラム 上の 2週間前、本年 2月4日付の投稿です。英文には一部文法上の誤りが見受けられ、また、発想の愚かさ以前に事実誤認もありますが(数秒で死に至るかのように書かれていること、死者81人と記載されていること: 中国政府は今日 2月18日午前 0時時点で中国国内の死者が 1,868人と発表していますが、彼のインスタグラム投稿時点でも死者の数は既に 500人近くに上っていました)、スクリーンショットによって得た彼の投稿の写真、英文テキストを共に、一切の編集を加えずにそのまま転載します。
要するに彼は、"Allahu Akbar" 「神(アラー)は偉大なり」で始まる彼のテキストの中で、神(アラー)が、ムスリムを虐待する中国に対し、人類未知の新型コロナウイルス を送ったのだと主張しているのです(中華人民共和国がウイグル族ムスリムの多くを「再学習」の労働キャンプに収容するという極めて劣悪な人権虐待を行なっていること自体は事実であって、日本のメディアはあまり報道していませんが、だいぶ以前から国際問題になっています)。
この考えはもちろん荒唐無稽なものですが、こうした発想がいかに愚かであるかは、このウイルスで亡くなっている中国の人の全員、もしくは殆ど全てが、中国政府の政治権力による新疆ウイグル自治区のムスリムの人権虐待に関与している人ではない、という事実に目をやれば、容易に理解できるのではないでしょうか。
彼が言っていることは、中国政府がウイグル族ムスリムの人権を弾圧している以上、中国人が未知のウイルスによる病に倒れ死んでも構わない、それは当然の報いなのだと主張しているのに等しいのです。
2月 4日に彼が自身のインスグラム上に投稿した上の写真には、以下の英文が付されていました。
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Allahu Akbar. "China called Islam a virus and worked very hard to extinguish it in its country, they banned the Quran, they banned praying, they banned fasting and locked down million innocent muslims in cell, killed innocent Muslims,made life difficult for the Muslims, tried to completely wipe out everything about Islam.
Allah says: We destroyed men stronger (in power) than these, and the example of the ancients has passed away (before them). (Az-Zukhruf 43:8)
Allah recently sends to them an unknown virus, known as the #Coronavirus killing under few seconds.
More than 35 million people in China are now on a travel lockdown. More than 2700 have been sickened, and 81 have died. Nothing happens without Allah's permission and He is aware of all things." Qur'an 9:51
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以上が彼の投稿の写真と、テキストの全てです。
私自身はいわゆる「無神論者」ですが、上に掲載した彼の投稿に対する批判自体は、私の「無神論」や「宗教」批判とは一義的には関係ありません。当然ながらと言いたいですが、イスラム教徒を含め、実際には宗教を信じる多くの人が、この投稿を批判する、批判してくれる、と私は思います。
ただ、一方で、こうした愚かな発想は、特にイスラム教の信徒に限ったことではなく、ユダヤ教、キリスト教というその他のアブラハムの宗教の信徒の一部(比率的に多数派でなくとも、人口を鑑みれば、このような思考様式をいまだにとる人間の数は相当なものです)にも見られますし、おそらくは他の宗教の信徒にもあることなのでしょう。
元々、宗教というものが、人智や科学を超えた「無謬」「絶対不可侵」と見做す存在を「神」と呼んで教義の核に置き、それが「無謬」「絶対不可侵」である以上は少なくともその信徒からの一切の批判を許さない(彼らの多くは異教徒や無神論者たちからの批判も許しませんが)という構造を持った思想であるため、その「無謬」「絶対不可侵」の「神」なるものが、「神」の教えに背く人間を罰するというこの考えは、非常に危険であり、深刻です。
この 2月4日(現地時間)付の投稿を私が見たのは 日本時間 2月5日でしたが、その時点で、132人の人が「いいね」をしていました。インスタグラム上のプロフィール名から判断もしくは推測するならば、そのほぼ全てがイスラム教徒だと思われます。
「いいね」の数は、2週間ほど経過した今あらためて見たところ、163人になっています。
私はこの投稿を見た 2月5日、コメントを入れたのですが、私のコメントの前に 3人がコメントを入れており、うち 2つは、共にムスリムからの "Allahu Akbar ....", "Allahuakbar... Allah maha adil", そして残る 1人のコメントもムスリムからのものだと思われますが(厳密に言うと、彼のプロフィール名からだけではムスリムかどうかは不明で、且つ彼自身のインスタグラム投稿は非公開になっていることもあり、もしかしたら、あるいは同じアブラハムの宗教であるキリスト教の信徒かもしれません)、それは投稿を批判するコメントで、率直に言って、私はそのコメントを見て妙に救われたような気分になりました。無神論者の私が「救われる」という言い方をするというのも微妙ですが、もちろん「神」なるものに救われたということではなく、ああ、彼と(おそらく)同じ宗教の信徒の中に、こうして少なくともこの投稿に対してはきちんと批判的思考をし、かつ沈黙していないでその批判を声にする人がいて良かったな、という想いです。
彼のコメントはこうでした。"Stop this nonsense.. you don’t and I don’t know God’s wisdom. It’s not Islamic to come to such conclusion."
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私が上に掲載したインスタグラム投稿に対して入れたコメントの内容は、以下の通りです。
長いコメントをしたので、実際には分割してコメントしています。原文はもちろん英語ですが、ここに私の拙い英語をそのまま掲載すること自体はあまり意味がないので、日本語に訳して掲載します。
自分の英語を日本語に訳すというまだるっこしいことをすると妙な日本語文になってしまうかもしれませんが、下に、一気に書いてみます。
「あなたの投稿は全くナンセンスで、うんざりするほどだ。最初にことわっておくと、本来、ここでの文脈において私の国籍はさしたる問題ではないが、私は中国人ではなく、日本人だ。そして、パレスチナ問題においてパレスチナ の大義を支持し、毎日のように SNS においてイスラエルという国によるパレスチナ人に対する反人道的政策と行為、人権抑圧を批判しているものだ。
そして勿論、私は、大陸中国の国家によるウイグル族ムスリムに対する暴力的な人権弾圧の政策は完全に誤っていると考えているものだ。
しかしながら、とにかく、あなたのこの投稿はあまりにナンセンスであって、非常に不快な気分にさせるものだ。
そもそも、新型コロナウイルスに苦しんでいる、そしてこれから苦しむであろう中国の全てもしくは殆ど全ての人々は、中国政府によるウイグル族ムスリムへの反人道的政策とは無関係の人々だ。この投稿、そしてあなたがここに書いた内容は、本当に意味がないものであって、不愉快極まりないものだ。
厳密には全く同じ意味合いのものではないが(しかし本質は似ている)、あなたのこの投稿は私に、ある他のムスリムの酷く愚かでばかげた言葉を思い出させる。
そのムスリムは、巨大な地震と津波が日本を襲い、16,000人の人々が命を失ったとき、『日本人には当然の報いだ。自業自得だよ』と言い放ったのだ。
これは 3年前、あるムスリムの女性が、同じくイスラム教徒である彼女の元友人の言葉として、私に教えてくれたものだ。彼女は、「もちろん、彼はもはや私の友人などではありません」と言っていたけれどもね。
より正確に言うと、そのムスリムの男性は(私は彼をイスラム教の狂信的信徒と見做すが)、『日本人には当然の報いだよ。それ見たことか、何故って、彼らは神(注: ムスリムの言うアラーのことですね)を信じてないんだぜ』と言ったのだ、2011年 3月11日にあの巨大な地震と津波が日本の東北部を襲い、16,000人近くの人々が命を落とし、2,500人以上が行方不明となり、負傷者の数も 6,100人以上に上った、あの未曾有の災害が世界中に報道された時にね。
そんな発想をする狂信者は勿論、イスラム教徒の中だけでなく、キリスト教徒やユダヤ教徒の中にもいるだろう(シオニストはこの文脈では問題外だ、シオニズムは宗教でなく政治的思想だからね)。とにかく、これはムスリムもしくはイスラムだけの問題ではない。
私自身は無神論者だけれども、私がここに書いたことは、私が「無神論者」であるかどうかに関わらないレベルのことに対する批判だ。
私自身が無神論者、つまり不信心な人間であれ、あるいはムスリムであれ、キリスト教徒であれ、ユダヤ教徒であれ、あるいは仏教徒であれ、あるいは他のいかなる宗教の信徒であったとしても、あなたのこの投稿が文字通りナンセンスで、かつ呆れるほど不快な気分にさせるものであることに変わりはないはずだ。」
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以上が私のコメントです。というわけで、実際、極めて不愉快な気持ちにさせられる投稿であったため、私のコメントもだいぶエモーショナルな物言いのコメントになりました。
上記のコメントをしてからほぼ 2週間経過したわけですが、件の投稿の投稿主からの反応は一切無く、また、その投稿に「いいね」をした人々からの反応、私のコメントに対する異論のコメントも、一切ありません。彼らなりのお粗末な「無視」ということなのかもしれません。
今日の投稿はここまでです。宗教については既に SNS 上でまとまったボリュームの批判を英語で書いているのですが、note においても、いずれあらためて本格的な批判を投稿しようと思っています。
* なお、本投稿のタイトル上に掲載した地図は、アメリカ合州国のジョンズ・ホプキンズ大学の研究者が作成した、新型コロナウイルスが拡散する様子を追跡、可視化したもので、その 1月27日時点のものをネット上から拝借して使いました。