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ベツレヘムは「イスラエル」ではないし、エルサレムは 「イスラエル最大の都市」ではない 〜 アメリカのクイズ番組 Jeopardy! と テレ朝「こんなところに日本人」など 批判

エルサレムについては、3日前の投稿でテレ朝の番組を批判するなかで触れました(タイトル上の地図についてもその前回投稿の冒頭で簡単に説明しています)。

1947年当時のパレスチナ(イギリス委任統治領パレスチナ, Mandatory PALESTINE)の地における人口比率並びに土地所有率を完全に無視した、パレスチナ人にとって甚だ不当な内容であった 1947年採択の「国連パレスチナ分割決議案」においてさえ、同市全体を国際連合を施政権者とした信託統治とする、とされていたエルサレムですが、翌1948年のイスラエル「建国」直後の戦争によって同市の新市街、西エルサレムはイスラエルによって占領され、また、残る旧市街、すなわち歴史的建造物や宗教上の重要な建物が集中する東エルサレムはヨルダンが統治するようになりました。

その後、1967年の第三次中東戦争によって東エルサレムもイスラエルによって占領されるようになりましたが、少なくともこの戦争によるイスラエルの新たな占領(パレスチナの地における東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区、ガザ地区、そしてシリアのゴラン高原総面積のうちの約 7割、エジプトのシナイ半島)に関して、国際連合はその法的正当性を認めていません。

同年11月22日に採択された国連安保理決議242号はこれら占領地からのイスラエル軍の撤退を要求しており、同じ趣旨の決議が、その後も繰り返されています。

イスラエルがその後、国連安保理決議に従ったのは 1978年のキャンプ・デービッド合意以降に順次エジプトに返還していったシナイ半島に関してのみであって、残る東エルサレム、ヨルダン川西岸地区、ガザ地区(ガザ地区に関しては現在イスラエルは軍を撤退させ違法入植地を撤去する一方で同地区を完全封鎖しており、「世界最大の強制収容所」と形容される劣悪な環境での生活を、同地のパレスチナ人たちに強いています)、ゴラン高原の約 7割、これらに対するイスラエルによる、国連安保理決議に違反する支配は、上記の決議から半世紀以上経過した2020年現在も続いています。

エルサレムはイスラエルによるイスラエル人(ユダヤ人)入植政策によって人口が急激に増大し、現在は東西合わせると90万人以上です。テルアビヴの人口が約45万人ですから、そのほぼ 2倍となる計算です。

しかしながら、1947年採択の「国連パレスチナ分割決議案」、そして 1948年のイスラエル「建国」以降のエルサレムの歴史、東エルサレムのイスラエルによる支配の違法性などを鑑みれば、そうした歴史や現況に一切触れずに、東西を合わせたエルサレムを「イスラエル最大の都市」と形容したテレビ朝日の「こんなところに日本人」という番組は、あまりにお粗末なものだったと言わざるを得ません。バラエティ番組ならば国際政治や歴史などに関してどんなに乱暴な表現をし、あるいは誤った認識を視聴者に広めても許される、そんな莫迦なことがあっていいわけがないのです。

上に書いた通り、そもそも、東エルサレムのイスラエルによる支配は、その正当性を、国連をはじめ国際社会が認めていません。

トランプ政権になって「イスラエル寄り」の外交姿勢をますます鮮明にしたアメリカ合州国が、2018年 5月に在イスラエル大使館をテルアビヴからエルサレムに移転するという暴挙に出ましたが、少なくともこの件に関しては、大国アメリカに追従する国は非常に限られており、外交に関してアメリカに追従することが多い日本を含め、世界の殆どの国は、東西を統合した「エルサレム」新旧両市街全体を「イスラエル」領だなどと認定してはいません。

同番組はその他にも下劣なものを含め問題となる表現を繰り返しましたが、詳しくは前回の投稿をご覧になっていただければと思います(本投稿の後段でリンクを貼っておきます)。 

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さて、話題をアメリカのクイズ番組に移します。Jeopardy! というタイトルのクイズ番組で、1964年に放映が開始された、半世紀以上の歴史を持つ番組です。古い話になりますが、日本で 1970年から 1980年にかけてフジテレビ系列で放映されていた「クイズグランプリ」は、この Jeopardy! をベースにしていました。

この、アメリカでは非常に有名なクイズ番組 Jeopardy! の今月、2020年 1月10日に放映された回において、キリスト生誕の地とされる場所に建立されている世界的にその存在と名が知られる「聖誕教会」(The Church of the Nativity, 日本語では降誕教会とも呼ばれ、イスラエルが違法占領を続けているパレスチナのヨルダン川西岸地区の都市ベツレヘムにあります)は何処にあるかという問題に対し、回答者の一人が「パレスチナ」と答えたにも関わらず不正解とされ、続いて別の回答者が答えた「イスラエル」が正解とされるという珍事件がありました。

この件はアメリカ国内で大きな話題となり、Jewish Voice for Peace などパレスチナ人の人権や民族自決権、帰還の権利を支持する人々を中心に多くの人から批判され、それがアメリカのみならずイギリスのメディアなどでも報道されるという、ちょっとした「騒ぎ」になりました(後に番組が不十分ながらも「釈明」と一定の「謝罪」に追い込まれています)。

出来事の概略を知るには、例えばこれが便利でしょう。これはアメリカの非営利団体 If Americans Knew のインスタグラム 上の投稿です。

不正解とされて減点された Katie の回答 "PALESTINE" が本来は正解とされるべきものであり、Jack の回答 "ISRAEL" は完全に誤りです。

イスラエルがベツレヘムを半世紀以上にわたって違法占領しているのは確かですが、ヨルダン川西岸地区のイスラエルによる統治は、国際社会においてその法的正当性を認められていません。その占領は、国連安保理決議にすら違反している、違法なものです。

Katie の減点と Jack の得点はコマーシャルのブレイクの後に元に戻されていますが、その「原状回復」は、番組による経緯の説明が全く為されないままに行なわれました。

クイズの当該の問題と回答、正解・不正解の判定とともに、番組から何の説明もないままに当該問題そのものが無効とされたこと、そうした不透明性も合わせて、多くの人々から批判される結果となりました。

The Church of the Nativity はベツレヘムにある教会ですが、最初に建立されたのは、当時のローマ帝国のコンスタンティヌス 1世の統治下、西暦300年代のことです(325年 - 339年)。その後、同教会は 6世紀になって火災に見舞われますが、当時の東ローマ帝国(ビザンティン帝国)のユスティニアヌス 1世のもとで再建され、565年に完成しました。

そもそも、古代イスラエルのイスラエル王国は紀元前930年から同720年に存在していたとされていますから、1948年にシオニストによって建国された現代のイスラエルでなく、古代の「イスラエル」についても、The Church of the Nativity が建立された時代とは全く異なる時代になります。

いずれにしても、聖誕教会 The Church of the Nativity が存在する場所は、「イスラエル」ではありません。イスラエルによって違法に占領されている場所、と答えるならまだしも。

ベツレヘムは、1995年以降、公式にはパレスチナ自治政府が統治しているということになっている一方で、1948年にシオニストたちによって建国されたイスラエルが1967年以降、複数の国連安保理決議に違反しながら半世紀以上にわたって軍事占領を続け、且つ違法入植地を建設し続けているヨルダン川西岸地区にある、パレスチナ人の都市です。

因みに、その国連安保理のたった 5カ国の常任理事国のうちのひとつが、他ならぬアメリカ合州国ですが。

もう一点、加えておきましょう。聖誕教会とその関連する資産群は、2011年にユネスコに加盟したパレスチナ(パレスチナ自治政府)により、世界遺産に申請され、2012年に、パレスチナ初の世界遺産の登録として認められました(教会およびベツレヘムの地の主権がパレスチナのものであることをユネスコが認めたかたちになり、イスラエルとその後ろ盾であるアメリカ合州国は強く反発していますが)。

件の番組 Jeopardy! はその後、問題となった部分は放映する予定にしていなかったもので、予め「問題」となることに気づき、差し替え版を撮っていたが、誤って差し替えないままに放送してしまったという趣旨の、かなり苦しい釈明と不十分ながらも「お詫び」に追い込まれています。

皮肉を込めて言えば、従来から福音派キリスト教の信者(現在 アメリカ合州国の人口の実に 4分の1 を占め、8,000万人ほど)などの影響もあってイスラエルに一方的に肩入れするアメリカですが、トランプ政権になってますます、ことイスラエルに絡むと尚のこと、アメリカでは Alternative Facts を創造しても構わないという空気が醸成されているのでは、と勘繰ってみたくもなります。

と言っても、今日の投稿においても冒頭で書いた通り、パレスチナ、イスラエルに関わる事実認識、歴史認識に関しては、日本のテレビ番組も五十歩百歩なのかもしれません。

前回の投稿でも書いた通りです。

なお、これまでの投稿で何度も触れてきた通り、私自身、パレスチナ、イスラエルを旅したことがあり、エルサレム(東西とも)もベツレヘムも、実際にこの眼で見ていますが、ベツレヘムと聖誕教会については、昨年12月24日の投稿の中でも紹介しています。

最後に、今日の投稿で何回か「シオニスト」(Zionist)という言葉を書きましたが、今月、上記のアメリカのクイズ番組 Jeopardy! の件とともに、もうひとつ、パレスチナ、イスラエル絡みで世界的に話題になったことがありますので、さらっと紹介しておきます。

私のような iPhone やその他のアップル製品のユーザーならば、Siri についてはよく知られているものと思いますが、その Siri が、一時期まで、イスラエルを "Zionist occupation state" と呼んでいました。

Siri が、ユーザーから現在のイスラエルの大統領 Reuven Rivlin について尋ねられた際、“Reuven Rivlin is the President of the Zionist occupation state” と回答していたのです。

アメリカの非営利団体 Jewish Voice for Peace のインスタグラムの投稿を以下に載せておきます。

Siri のこの回答は正しい回答と言ってもよく、現代イスラエルへの皮肉を込めて「素敵な」回答ですが、多くのユーザーやジャーナリストがツイッターやインスタグラム 、フェイスブックなどでこの件を証拠写真(Screenshots)、証拠映像(と録音)混じりに投稿し、アメリカを中心に多くの国で話題になりました。Siri がイスラエルやアメリカ合州国などとの関係上「やばい」と思ったのかどうか(笑)、いま現在は「イスラエルの大統領」と回答する状態に戻っているようです。

シオニスト、シオニズムについては、またいずれ機会があったら、あらためて取り上げたいと思います。

昨年 9月11日に note に登録して以来、度々、パレスチナとイスラエルに関わる問題を取り上げてきました。過去の投稿もご覧になっていただければ幸いです。

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