鎌倉が見つからない
伊豆半島は…静岡県だ…
びびっ!!背筋に電流が走る、それはまさにそんな体験だった。
4歳の娘のために貼った日本地図。それをぼーっと眺めていた時のこと。
自分が住む東北地方からなんとなく太平洋側沿岸を南に下って、福島・茨城・千葉・東京・神奈川と目線を動かし、静岡にさしかかった瞬間だった。
目に入ったのは静岡県の東端に位置し、太平洋に向けて足を伸ばした形で南に突き出した部分。そう、伊豆半島である。
そのとき、あたしの脳裏を走馬灯的に駆け抜けるさまざまな記憶の断片。背筋に電流が走ったのはこのときだ。身体は子供、頭脳は大人の小学生名探偵が事件の本星に気づいたあの瞬間の描写。
伊豆半島は・・・静岡県だ…。
なんということだ…
違和感の正体
そのことに気づいた瞬間、あたしはながいこと抱えていた違和感の正体をはっきりと見たのだ。背筋に流れる電流を感じながら、あたしはついに自分の人生におけるある確信を得たのである。
もう、鎌倉の場所を間違えることはないと。
鎌倉?
そう、鎌倉だ。
脳内の鎌倉と、地図上の鎌倉
源頼朝が幕府を開いたあの鎌倉。こないだまで大河ドラマの舞台だったあの鎌倉。日本の歴史において非常に重要な役割を果たしてきたあの鎌倉。露天大仏が鎮座するあの鎌倉。
そんな鎌倉の位置を、実はこれまでいまいち正確に把握できずにいたのである。
湘南、藤沢、江ノ電、SFC…鎌倉近くにあるものたちのイメージはくっきりとある。鎌倉が由比ヶ浜という海岸に向かって拓けた地形で、海岸以外の三方を山林に囲まれた防御に適した地形ということも知っている。記憶の中での鎌倉は、いつもはっきりと見えている。
それにもかかわらず、地図上で鎌倉を示そうとすると、とたんにそれがどこだったかはっきりしなくなる。
自分でもこれがなぜなのか、よくわからないままもやもやとしていた。
このもやもやこそ、今回解消された違和感の正体。
かなりはっきりとしたイメージにおいて認識されている鎌倉が、具体的に地図上にその位置を特定しようとするとどうにもその輪郭がぼんやりとしてしまう。
概念としてはこれ以上ないほど明確に脳内に存在しているのに、手でそれを掴もうとするとサラサラと指の間からこぼれ落ちていってしまう砂のように。
まぁ悩みというほどでもない、生きる上では死ぬほどどうでもいいことなので、ほとんど気にもしないで暮らしてきた。喉に刺さった小骨ほどの違和感すら喚起することのない些細なもやもやだし、この先もずっともやもやさせたままでいても大した問題はなかっただろう。
しかし、違和感は違和感。取り除けるならそれに越したことはない…。
そしてその時は不意に訪れたのである。自分でも意外なほど喜びを感じていることに驚いた笑
どうでもいいと思っていたのに、実際その違和感が解消されてみると、脳におおきな処理能力の空きができたような気がした。この問題、そんなに脳のワーキングメモリーを食っていたのか。
上述のように、違和感が解消されたきっかけは、伊豆半島が静岡県に属することを確認したことである。つまりそれまでは伊豆半島を静岡県とは思っていなかったということになる。どうやらあたしは無意識のうちに伊豆半島は神奈川県だと思っていたみたいだ。「みたい」というのは、伊豆半島のことをそれほど気にしたこともなかったからで(言い方が本当に失礼でごめんなさい)、本当に無意識に神奈川県と認識していたことを、静岡県であると地図が教えてくれたことで逆にはっきり認識したという方が正しい。
ではなぜ伊豆半島を神奈川県と認識していたのかというと、多分伊豆七島の存在が大きかったのではないかと思う。
伊豆七島の存在
あたしの父親は伊豆七島の一つ、三宅島の出身だ。
2000年に三宅島の雄山が噴火するまでは、夏休みにはだいたい里帰りで三宅島へ行っていた。そんなこともあって、三宅島は東京都に属するということは物心ついたときからわかっていた。(なお、母親の実家は北海道の有珠山の麓にある虻田町という町であり、こちらも2000年に噴火している。両親の実家がおなじ年に噴火の災害に遭うというのはなかなか珍しい経験なのではなかろうか。)
三宅島へは竹芝桟橋からフェリーに乗るか、調布の空港から飛行機に乗って行くことになる。いずれにしても東京都からの出発だ。さらに、伊豆七島の位置関係を地図上で見ても、大島以外の伊豆半島とはそれほど近くない。だから、逆説的だが、伊豆七島の「伊豆」から伊豆半島を連想するよりは、「伊豆は東京・神奈川に属する」と頭の中にすり込まれていても不思議はないわけだ。もし伊豆半島の方を先に社会の授業などで勉強していたら、おそらくこういう認識にはならなかったのではないかと思う。
そんなわけで、あたしの頭の中では「伊豆は南関東の一部」というイメージが幼少の頃からすり込まれていたと考えると、伊豆半島は神奈川県に属すると無意識に思ってしまっていてもつじつまは合う。
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