見出し画像

今日授業で話したから。

昨日受けた授業の内容。
今朝ニュースキャスターが少し語気を荒げて語っていた世界情勢。
さっき友達と話していたことの内容。

どれか一つでも、正確に内容を思い出せるものがあるだろうか。

そう、聞いたという事実、話したという場面は思い出せても、どういう流れで何の話をどんな言葉で語っていたかを正確に思い出すことはほぼ不可能だ。

つまり、人は話を聴いてない。

聴く気がないとか、不真面目だとか、そういう態度や姿勢の問題ではない。
単純に、覚えていられない。覚えていられないのならば、実質的には聴いていないのと同じことだろう。
確かにその場にはいた。話にも参加していた。でも、聴いてはいないのだ。多分話した本人も、話したことを全てなんて覚えてない。
いつだって僕らはそんな曖昧な話を曖昧な言葉で曖昧に交わして生きている。いや、言葉が曖昧なのではないかもしれない。言葉をどんなにきちんと選んで誤解なきように語っても、聴いた側の記憶の中で自動的に曖昧に処理されてしまうのだ。

人は話を聴いていないのである。

こんなことは、誰でも知っている。ほとんどの人が小学校で習ったことを次の日には忘れていた経験を持っているだろうし、ほとんどの人が友人との会話の内容なんて全く記憶に残っていないはずだ。もちろん、たまにいる。全部覚えている人が。いわゆるフォトグラフィックメモリーというやつで、見たもの聞いたもの全部覚えているという人がいる。でもそんな人はほとんどいないから話題になるわけで、基本的にみんな一度聞いたくらいのことでは記憶になんて残らない。聴く気はあっても、頭に残ってくれないのだ。

でもそのことを、立場が変わるとなかなか思い出すことができない。筋道立てて論理的に整然と話せば聴いてくれる、聴いてくれたら覚えていてくれる、真面目な人ほどそう思っている。これは大いなる誤解だ。

その誤解が、プレゼンテーションにとても大きな障壁となる。

プレゼンテーションでは、聞き手の聴衆がプレゼンを聴いて影響を受け、何かしら行動を変えることを目的として、プレゼンターが話をする。
(なお、実はこの点からすでに誤解が生じていることも多い。パワポで資料を作って、それを人前で読み上げることがプレゼンテーションだと思っている人はとてもたくさんいる)

プレゼンテーションでは、15分〜20分長い場合だと1時間程度聴衆に向かって語りかけるわけだが、語るだけではダメで、聴衆の行動を変えなければならない。そのためには、聴衆がそのプレゼンを「聴いて」いる必要がある。聴いて行動するには、その内容を覚えておかなければならない。

そこで、あの問題が持ち上がるのである。

そう、人は話を聴いてないのだ。

プレゼンが下手な人と上手な人がいる大きな理由はここにある。喋りさえすれば人は聴いてくれると思っている人と、人間はデフォルトの設定として話を聴いてないと知っている人とでは、喋り方うんぬんということ以前に、人間に対する向き合い方に違いがあるということだ。

以前にいわゆる進学校と呼ばれる高校でプレゼンテーションについて話をしたときに、生徒が一番驚いていたのがこの点だった。

「真面目に話せば聴いてくれると思っていた」

ここから先は

1,034字

¥ 100

サポートされたら、とても喜びます。