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春がついた嘘、君が見たホント。

4月1日、君たちは新しい船出に出るために港に集まった。
背負い込んだリュックの中には、船出を祝う人たちからの贈り物や、生きて行くために必要な物、人によっては自分たちの想いなんかも詰め込んで、期待と不安に胸を高鳴らせている。

「学生」という慣れ親しんだ島から旅に出て、
「社会人」という大海を、これからは1人で冒険しなければならない。

頼れる道しるべとして、一歩先には先輩がいる。
さらに先には、部長だの役員だの、「肩書き」にベールを包まれた先駆者たちが走っている。
心配するな。君たちには先駆者たちがいたるところで支援をしてくれる。
1人で抱えて、悩むことはない。

こんな応援歌を歌ってくれる海の先輩たちが、君たちの船出を海の向こうで待ってくれている。「安心してこっちに来いよ」と、遠い海からエールを送ってくれているのだ。



しかしだ。
しかし……。

君たちは君たちでしかない。
先輩も、部長も、役員も、「君たち」ではない。
「君たち進みたい航路」を進んだわけでもなく、「君たちが目指したい島」に行くかどうかも定かではない。

1人。
そう、君たちは1人なのだ。

旅立ちの港に、いかにたくさん人がいても。
海の先で、いかにいい歌詞の応援歌が聞こえても。

君たちの船は君たちの意思で動き、君たちの向かいたい島に向かう。
「進みたい」意思がなければ、船は前進することすら止めてしまう。
前に進まなければ……そんなことを考えるだけで、身震いするほどおぞましい。
海は誰1人助けてはくれないのだ。

誰1人助けてくれるわけではない。
でも前に進まなければいけない。

海の先駆者の応援歌は、前進を止めた船と冒険家にとっては強迫文でしかない。
この海で前進を止めることは、沈没と同義だと先駆者たちは知っている。

君たちは、この恐怖と不安と常に対面しながら、
広すぎて先の見えない迷宮を、たった1人で進んでいくのだ。

君たちには、その覚悟があるか。
応援という嘘をついた春を受け止め、現実を受け入れ。
さあ、冒険の旅に出かけようじゃないか。

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