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息は吐きすぎず、吐かなすぎず(続き)


前回記事の続き。

実は先日、学生のアカペラグループの練習を見させてもらう機会が何回かあって、そこでまず最初に感じた発声的な課題を前回のトピックにしてみた。

どのグループも、僕が学生時代に組んでいたアカペラのバンドよりもよっぽどみんな音がとれていて調和していた。

単純に楽譜の横と縦のラインを意識したうえでハモりにいくという部分では確実に今の学生の方が平均値が高いように感じる。錯覚かもしれないが、なんとなくそう感じた。


ただ、音があたっていてもどうしても和音の「鳴り」が弱かった。

これはどのバンドもそうだった。

劇的に、鳥肌が立つくらいゾワっと和音が「鳴っている」感じは無かった。

音はみんなとれていて、平均点くらいでなんとなくハモれている…そんな多くの学生バンドが次のステージにいくあたっての1番の壁であると感じた。

演奏技術的なところでいうと、総じてリズムが1番大事だと感じているので、バンドの練習を見させてもらうときはリズムを中心においてアドバイスすることが多いのだが、僕は並行して「まずは徹底して個々の声を鳴らす」ことを考えながら進めていく。

案の定、それぞれ音がとれていても全体として美しい鳴りの和音を完成できないのは、個々の発声的な課題からくる声自体の鳴りの不十分さに落ち着くのである。

これはコーラスにとどまらず、もちろんソロシンガー、アカペラのリードボーカルやベースにも言えることだ。


その「不十分さ」の原因のひとつとして、声を大きく出すために息を吐きすぎて、逆に声の鳴りが悪くなっていませんか?というのが前回記事での問題提起だ。ひとつの改善策(これは決して解決策ではない)として、まずは大きな声ではなく息の量を最低限にして声を出すことを個人練の段階でやってみてはどうか…という感じでまとめていた。

これ以上はどうしても個人的な状態に合わせてのアドバイスになっていくため、全体に広く薄く言えるのはこれくらいである。



地声の緊張をつくるためには息の流れ(呼気流)と声門に対する下圧(呼気圧)が必要


声帯の鳴りをよくするため、無理せず楽に発声するために小さい声で練習するというのは、多くの人にとって有効であるかもしれない。

ただ、これが逆効果な人もいる。

場合によっては、既に強い声で高音を出す準備が喉に備わっているのにも関わらず、呼気をしっかりかけないことで地声の緊張がつくられず、スカスカの声になっていたりすることもある(このタイプは1レッスンだけで大化けすることがある)。

強い声、厚い声を出すためにはそれ相応の空気の量が必要だ。

声門下圧(肺からの息による圧力)がかかってくると、それに対抗するために地声の厚みができていく。多すぎては声帯が耐えきれず破綻するが、少なすぎても逆につくりたいだけの厚みをつくれずに裏声に変わってしまったり、薄い弱い声しかつくれなかったり、喉締めのような力みが生じたりする。


息(呼気)が足りなくなりがちなシンガーの例


・歌うときに丁寧に慎重に音を当てようとする意識がとても強く、普段から小さい声で歌うことが多い

・自信がなく、積極的に声量を出せない

・楽に歌いたい!力みが出ないように歌わないと!という意識がとても強い(ボイトレ経験者にありがち)

・「歌おう」とする意識がとても強く、歌唱時に喉周りがガチガチに固まって息が流れていかなくなる

・(アカペラなど複数人で歌っている場合)周りのメンバーの声量が小さいため、それに合わせようとしている(女声コーラスの下にいる男声コーラスや、一人だけよく声の出る女声トップコーラスなど)


他にもパターンはあるはずだが、すぐに思いついたのがこのあたり。

上記のような意識をするあまり、

①地声のやせ細った弱々しい声

②声門閉鎖の弱い薄い声

③息が流れず詰まったような声


になっている自分はいないだろうか。

このような声しか出せない場合は、声に迫力がなく、歌えるジャンルや曲が極端に限られたり、コーラスなどでは無理をしなくてはいけない状況に追い込まれることが多いだろう。



地声は悪ではない


高音地声発声(≒Belting)を実現していくにあたっては、裏声系統の筋肉群を目覚めさせ協働させることや身体のサポートをつくることなど重要なことはたくさんあるが、何といっても大前提として厚い地声をつくれる神経支配があるかどうかがポイントだ。

息が足りなくなってしまう人は、まずは地声をしっかり鳴らすこと、厚めの裏声を出すことを訓練してみるといい。叫ぶことはせず、どのくらいの空気の量を使ってあげればよりヘルシーに厚い声が出てくるのか探ってみて欲しい。

そして、これは探ってすぐに探り当てられるものでは決してないことも付け加えておきたい。

なぜならば、声自体を探ると同時に意識して欲しいことがいくつもあるからだ。空気の量の調整のみで地声の厚みを上手くつくれるようになった人は運がいいのだ。たまたま、その他の改善すべき癖がその時点ではなかったということだ。

ただ、あまり地声が目覚めていない人や、空気を送り出すことに慣れていない人にとっては身体のバランスを変えたり鍛えたりするということになるから、それだけ時間はかかるものだ。


こういった記事を読んで自己流で実践して、息を吐きすぎていた人が吐かなすぎる状態になったり、その逆の状態になったりすることは大いに予想される。

文面だけでは多くの誤解が生まれる可能性があるので、本来は避けたい解説もいくつもあるが、そこは是非慎重に読み解いていただきたい。全てを自分の解釈で鵜呑みにせず、焦らず少しずつトレーニングを進めてみるといいだろう。

そして、やはり自分ではどうしようもなくなりそうだなと分かっているならば、声のプロであるボイストレーナーをできる限り早めに頼ってみるといい。いいトレーナーに出会えれば、様々なアプローチで声を成長させてくれるはずだ。



大事なタイトルを繰り返す。

息は吐きすぎず、吐かなすぎず。


1番難しくシンガーを困らせるのは、その状態の正確な判断なのかもしれない。


※ご注意

科学的情報と、レッスン経験などを元に記事を作成しておりますが、まだまだ世界的に見ても研究段階なのが発声という分野です。真実が保障された物ではないことをご了承ください。一つの見方、考え方であると捉えていただけると幸いです。

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