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息は吐きすぎず、吐かなすぎず

前回記事にならって、やりすぎずやらなすぎず…みたいなテーマで書いてみようと思う。


声帯は2枚のヒダになっていて、このヒダが合わさったり離れたりすることで空気の振動をつくりだし、それが音となる。

もちろんそれにはエネルギー源が必要で、その役割を負うのが空気。正確にいえば、肺から上がってくる呼気(吐かれる息のこと)だ。

呼気によって2対の声帯が開閉し、空気が振動し、音が生成される。

この声帯の段階でつくられた声の赤ちゃんを喉頭原音(声帯原音などとも)という。この段階ではまだ本当に声の赤ちゃんレベル。とても貧弱で声とは認識できないようなレベルらしい(直接聴いたことがないので、らしい)。

これが声帯より上の共鳴腔で拡散され、僕らが普段聴いている声になる。また、共鳴腔の形を変えることで無限の声の聴こえ方をつくりだし、母音や子音の発音を可能にしている。

これが一般的なメカニズム。

ギターに例えてみる。

・ギターを弾こうとする人間の指や手 = エネルギー源 = 呼吸

・ギターの弦 = 振動体 = 声帯

・ギターのボディ = 共鳴器 = 共鳴腔

といえる。



大まかにまとめると、ボイストレーニングとは…

①呼吸
②声帯
③共鳴

この3つの最低1つには何かしらの働きかけをおこない、狙った状態をつくっていくことであるともいえる。



今回は「共鳴」というキーワードは後回しにして、「呼吸」と「声帯」に軽くフォーカスしてみる。


2枚のヒダになっている声帯の間、つまり空気が流れていく空間を声門という。「声門を閉鎖しなさい!」というのは、この2枚のヒダの間隔をできる限り狭めて空気の通り道を狭めなさい、ということ。

なのだが…

ここで多くの人が誤解をするポイントがある。


2対の声帯がずーっと同じような幅で接近して音がつくられるのではなく、声帯同士が微妙に離れて、くっついて、離れて…というのを繰り返すことにより、声門の上圧と下圧に差(声門上下圧差)が生まれることで音がつくられるのである。

もう少し詳しく…

書こうとしたのだが、詳しくなりすぎたのでやめる。。


簡単に言うと、呼気(吐かれる息)に対して完全に声門を閉鎖して同じような形状を維持しているわけではなく、ただ「あー」と軽く発した瞬間にもものすごいスピードで声帯同士が離れてくっついてを繰り返しているのである。参考動画はこちらから。

※ちなみに完全に声門を閉鎖しているときは声は出ない。息が止まっている感覚がそれだ。

そして、上記の声門上下圧差が大きくなればなるほど、基本的には声量が上がっていく。



ここで重要なことに気づいて頂きたい…のだが話が難しすぎたかもしれない…

何が言いたいかというと。

つまり、空気を流せば流すほど=呼気を強めれば強めるほど声量が上がるわけではないのだ。ここ重要。

普段歌っている自分の姿を想像してみて欲しい。

周りの音量に負けないように声量を出そうとして…

①大量の空気(呼気)を声帯にぶつけて、声帯がそれに耐えきれず息漏れが激しくなるタイプ(声量を出そうと思っているのに逆にどんどん声がスカスカになっていく。まるでがっつり有酸素運動でもしているかのような疲れ方をすることも)

②大量の空気(呼気)をぶつけられた声帯(また声帯周りの筋肉たちも)ががっちり固まってしまい、強い圧迫感や締め付けられるような窮屈感があるタイプ(詰まったような歌声になり、全然声量は出ないことが多い)

③大量の空気(呼気)によって、薄くもならず詰まりもせず、ものすごい音量になって叫びあげる、大声のような歌い方になるタイプ(ある程度の高音が出るが、もっとも声が枯れやすく、繊細な歌いまわしができない。迫力はあるが、とにかく喉が保たなくなることが多い)


になっている自分はいないだろうか。

思い当たる節があればすぐに改善に向かえるかもしれない。


上述の通り、声量を出すには空気を流しまくればいいってものじゃない。

声門の上下での空気圧の差をつくってやる必要がある。

それには、声門が閉鎖している時間(閉鎖期という)を長くつくってやる必要があるのだが、これは声帯や声帯周りの筋肉の働きによるものだ。

実は③のタイプは大音量が出ているのでこれに成功しているのだが、声門上下差圧をつくりだすことを空気に頼りすぎ。


つまり、とりあえずはそんなに難しく考えず、どのタイプも空気を強く出して声量を出そうとすることを徹底的にやめてみることだ。空気に頼らない。頼らないことで、喉の本来必要な筋肉たちに本来の仕事をさせるキッカケを与えて欲しい。

小さい声で息漏れがないように、声にビリビリとした成分が出てくるまでじっくりトレーニングしてみる。地声も裏声も。できる音域からで構わない。音域的な限界を空気の強さで誤魔化そうとするのもまた同じくNGだ。


これをしばらくの期間続けているだけでも人によっては格段に声の鳴りが良くなり、効率的に息を音に変換できていると感じられるはずだ。


上記の①②のようなタイプの人に、よくある「腹式呼吸トレーニング」のような、空気をお腹を使って強く押し出すイメージがつきやすいトレーニングをさせるとどうなるだろうか。

いうまでもなく、最初から悲鳴をあげていた声帯はさらに疲弊することになり、1人の大事な喉を潰すことになり兼ねない。強い呼気というのは想像以上に声帯にダメージを与える。

呼吸に頼りがちで、声帯やその周りがサボり気味な状態のシンガーがほとんどだ。まずは、必要な筋肉らを慎重に目覚めさせて整理していくのが先決だ。

だから、「歌声が小さい!もっと腹から声出せ!!」はやばいのだ。

声帯周りの必要な筋肉が育っていない人にそう言っても、もうその先には不幸しかないかもしれないのだ。

こういう見地から、今は「呼吸の指導は本当に必要なタイミングで」がいいのかなと思っている。人によるとしか…だけど。

今レッスンをするにしても、多くの人には基本的に「呼吸」のパワーバランスを落として「声帯」にフォーカスしたエクササイズを中心に提供するであろうと思う。逆に声帯が強い呼気を受け止める準備ができて、自由度が高い状態になったならば、ガンガン声を張ってもらうだろう。歌いたい曲を思いっきり歌ってもらうだろう。

今回は話題に出なかったが、実は共鳴腔の使い方でも声量には大きな差が出る。「呼吸」と「声帯」によってつくられる喉頭原音の状態が同じでも、その上の共鳴腔がどのくらい音を拡散する準備ができているかでも差がつく。


とっても楽な発声体感で、ものすごい声量感で長時間歌うことができる人は「呼吸」と「声帯」のバランスを上手くとって素晴らしい喉頭原音を生み出し、それを共鳴腔によって最大限響かせ拡散することに成功していると言える。ものすごいことなのだ。



今回は声量を出そうとするあまり、空気をたくさん使ってしまう人へ。

次回、この続き。

逆に、空気が少なすぎる人へ。


※ご注意

科学的情報と、レッスン経験などを元に記事を作成しておりますが、まだまだ世界的に見ても研究段階なのが発声という分野です。真実が保障された物ではないことをご了承ください。一つの見方、考え方であると捉えていただけると幸いです。


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