クライアントの言うことを「信じない」

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 1年間毎日投稿も今日と明日で終了です。180万字を超えて綴ってきましたが、「書こうと思えば、この数倍くらいは書けることがあるな」と思えたのも今回のチャレンジの成果でした。

 とは言え、職業作家ではないので、毎日5000字以上も書いていては生活が成り立ちません(笑)。なので、明日で一旦終了です。

 今日の記事はコーチカウンセラーの方々に対する大切なメッセージを含んでいます。タイトルにもある、クライアントの言うことを信じないはちょっと過激な表現ではありますが、実際に気をつけないと危ないことなのです。


 僕はクライアントの言うことを基本的には信用していません。クライアントは事実誤認をしているし、クライアントは悪意なく嘘をつきます(悪意がある場合もゼロではありません)。

 まぁクライアントの性質というよりも、これは人の性質ですね。人は事実誤認をするし、悪意なく嘘をつく生き物です。

 だから、クライアントの言うことはそのまま信じるに値しないのです。

 嫌な感じに聞こえるでしょうか?

 でもね。この姿勢もコーチとして大切な姿勢だと思うのです。

 そもそもあなただって信じてないはずです。だって

CL「僕は本当に役立たずで、何もできないんです」
CO「そうなんですね。本当に役立たずなんですね」

 こんな応答まずしないでしょう?代わりに例えば

CL「僕は本当に役立たずで、何もできないんです」
CO「どうしてそう思うの?」

 とかやりたくなるんじゃないですか? もしくはもっとストレートに

CL「僕は本当に役立たずで、何もできないんです」
CO「私はそんなことはないと思いますよ」

 とかやることもあるんじゃないですか?

 だって「役立たず」はクライアントの思い込みでしょうし「何もできない」は明らかに間違っている(≒嘘)からです。

 クライアントの言うことをそのまま信じて関わっても、クライアントが幸せになるとは限らないのです。だから受容的に話を聴きつつも疑ってみる。ということはコーチカウンセラーにとって大切な姿勢なのです。

 ということで僕は

クライアントのことは信じるが、クライアントの言うことは信じない

宮越大樹

 のような表現をすることがあるのです。もう少し詳しくみて行きましょう

コーチの巻き込まれ

CL「うちの夫は最低なんです」

 と言われたら、どう思いますか?事実が「言葉どおりでないこと」は明らかですね。最低というのは「もっとも低い」ということですから、この人のご主人が世界で「最も低い」ということは無いでしょう。しかも「最低でした」でも「最低な時もある」ではなくて、「最低です」なので、過去から未来までずっとワースト1だという言い方です。これはあり得ませんね。

 当然ですがこれは誇張表現です。よく使われる表現ですから、多くの人は麻痺していますが、どう考えても「24時間365日いつでも一番ダメ」という表現はフェアではありません。

 あなたの大切な人が、そんなことを言われていたら、擁護したくなるんじゃないでしょうか。

 奥さん自身は、このように「最低」というフィルターで見ているので、ご主人の良く無い面が見えるのでしょうが、他の人から見たら全然違うこともよくある話です。

 とは言え、こんな風にコーチングが展開することがあります。

CL「うちの夫は最低なんです」
CO「どういうことですか?」
CL「まだ子どもも小さくて手がかかるのに、全然帰って来ないし、たまにいると思ったら、あれしろこれしろとか要求ばかりで。それで私の動きが遅いと、ちょっと口にだすのも憚られるような酷い言葉を投げつけてくるんです。長年我慢してきましたが、もう本当に限界で」
CO「それはしんどいですね」
CL「子どもたちにとっても良く無いと思うんです。でも話も通じないし、困っています」
CO「話が通じないって言うのは?」
CL「普段から不機嫌ですし、こっちの話をそもそも聞いてくれないんです。そして何をいっても『そうじゃないだろ』みたいなことから始まって、自分の話をし続けるので。。。」

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 いかがでしょうか。こんな風に話が展開していくと、案外多くのコーチが「これはご主人ちょっと酷いかな」とか思うわけです。

 でもね、クライアントが話していることは事実ではないのです。クライアントの解釈もしくは主張に過ぎないのです。しかも、実際に何が起こってるかも、クライアントはほとんど説明していません。

 「全然帰って来ない」=「全然」はさすがに間違いでしょう
 「あれしろこれしろ」=実際にどんな言い方をしているかわかりません
 「私の動きが遅いと」=それが理由かわかりません
 「酷い言葉」=どんな言葉かわかりません
 「長年」=どれくらいかわかりません
 「我慢」=何をどうしてきたかわかりません
 「普段から不機嫌」=本当にいつも?不機嫌ってどんな状態?
 「何をいっても」=本当でしょうか。何をどう言っているのでしょう
 「自分の話」=どんな話でしょうか
 「し続ける」=どんな状態でしょうか

 こうやってみると、全然実態が分からない話ですよね。それでもコーチはいつの間にか、状況を適当に想像して
 
 ご主人=ひどい

 のように思い込んでしまったりするのです。それではクライアントと同じ認知になってしまうので、コーチとして機能しにくいのです。

 そして、実際にこのようなケースでご主人から話を聞いてみると、ご主人の見ている世界は全然違ったりするのです。これはどっちが正しいという話ではなく、お互いが違う解釈をしているというだけなのです。

 コーチである我々が願っているのは、お互いに「お互いが幸せに生きられる解釈」になったらいいな、ということではないのかなと思います。いかがでしょう。

「主観を受容」した後が大切

 もちろんクライアントの主観を受容することは大切です。

 「クライアントはご主人を最低だと思っている」
 「クライアントはご主人を最低だと言いたい」

 それを受け入れるのは良いのです。それがコーチングのスタートラインだからです。しかしコーチはそれとは別に

 「どんな具体的出来事があって、それを最低だと言っているのだろう?」
 「クライアントは何を望んでいるのだろう?」
 「それはなんのためだろう?」

 さらには 

 「ご主人側は、その出来事をどう認識しているんだろう?」
 「ご主人側が望んでいることはなんだろう?」
 「二人は実際にどんなコミュニケーションを取っているのだろう?」

 などに関心を向け、クライアントとその周囲に関して正確な理解をしていこうとするのです。それによってクライアントの認識もより現実に対応したものと変化していくわけです。だからクライアントの現実に対する対処法も変化して結果は変わって行きますね。

悪意ある場合

 さらに言えばクライアントに悪意がある場合もあります。

 例えばAさんとBさんが揉めている。Aさんは知り合いのコーチに相談。Bさんがいかに酷いかを大袈裟に、もしくは勘違いさせるような言い方で相談したりするわけです。コーチは基本的にクライアントの味方ですから、自然と反Bさんの立場になっていくことが多いのです。

 このコーチがBさんとも知り合いの場合、コーチとBさんの人間関係も変わってしまったりしますね。このようにBさん包囲網をつくるために、コーチに対して相談するようなケースもあるのです。

 このようなことはコーチやカウンセラーのコミュニティの中では比較的起こりがちなことです。コーチには守秘義務がありますから、Bさんに直接確認するのも難しかったりします。クライアントがコミュニティ内のさまざまなコーチに、そのような相談を繰り返したらどうなるでしょう。多くのコーチがAさんの言うことが事実であると、なんとなく思っている状態ができてしまうのです。こうしてBさんは居場所を失ったり、コミュニティがバラバラになったりしてしまうのです。

 どのように対応したら良いのでしょうか

実際にコミュニケーションをとってもらうこと

 基本的なアプローチは以下の通りです

 ①具体的な出来事を聴く 
 ②ポジションチェンジをしてみる
 ③実際に相手と新しいコミュニケーションをとってもらう

対人関係の基本

 これはクライアントに悪意があろうとなかろうと基本的に一緒です。コーチはクライアントの認知に巻き込まれずに、淡々とプロセスを進めたら良いのです。

 まずは具体的に何があったか分からないところを具体化していく。

CL「まだ子どもも小さくて手がかかるのに、全然帰って来ないし、たまにいると思ったら、あれしろこれしろとか要求ばかりで。それで私の動きが遅いと、ちょっと口にだすのも憚られるような酷い言葉を投げつけてくるんです。長年我慢してきましたが、もう本当に限界で」

再掲

 さきほどのケースだと、例えばどんなときにどんなことが起こっているのかを具体的に話を聴くのです。アドレリアンカウンセリングが分かる方はあの表を埋めるイメージで聴くと具体的になります。

 これができたら、次はご主人の側にポジションチェンジして欲しいのです。そしてご主人側からはどう見えていそうか、ご主人の内面では何が起こっているのか、ご主人の目的や望んでいることは何なのかも可能な限り言語化してみて欲しいのです。

 このように、どちらの立場のことも肯定的に理解しようと関わる姿勢を「平等な肩入れ」と呼びます。人間関係のセッションを扱う上での基本です。

 その上で、望むゴールに向けて、クライアントからどのようなコミュニケーションが取れると良いかを考えてみるのです。

 そして、大切なのは、実際にご主人と新しいコミュニケーションをとってもらうことです。コーチングで作った仮説で、現実の人間関係を変えられるということを体験してもらうのです。

 関係を良くするためにどんなコミュニケーションが取れるのか?

 そのやり方をクライアントと創造していくことにコーチは意識を向けていればいいのです。

終わりに

 私たちコーチの仕事は、クライアントの認知が書き替わり、新しい行動によって彼らがより幸せになることを支援することです。

 そのためにもクライアントの認知に巻き込まれることなく、現実に意識を向けつつ、クライアントがより役にたつ認知行動パターンを持てるように関わって行きたいものですね。

 そして、コミュニティ内の人間関係の相談を受けたときは、特に「平等な肩入れ」の姿勢を大切に替わり、クライアントの行動によって人間関係が良くなっていくことを支えてあげてください。そうしないと、コーチが話を聴けば聴くほど、コミュニティ内の人間関係がおかしくなっていくことがあったりするのです。

 おしまい

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だいじゅ@コーチング脳のつくり方
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