子どもの不適切な行動にどう関わると良いか②

 この記事では精神科医ルドルフ・ドライカース(アドラー心理学)の「不適切な行動の4つの目標」に関して解説します。これが理解できると、子どもに限らず、相手の不適切な行動にどう関わったらいいかのヒントが得られると思います。

 ちなみに4つの目標とは以下の4つのことです。この4つのどれかを目標(目的)として、相手の行動を理解してみよう。ということです

①注目関心を引く
②権力争いに勝つ
③復讐心をとげる
④自分の無能力を誇示する

不適切な行動の4つの目標

 アドラー心理学は目的論(すべての行動には目的がある)を採用しています。目的論の反対は、原因論という考え方です。原因論では「この子が言うことをきかない原因はなんだろう。遺伝なのか、育て方なのか。。。」のような発想をしますが、目的論では「この子の行動は何を目的としているんだろう」と発想するのです。

 しかもアドラー心理学は対人関係論という考え方も大切にしています。対人関係論では、人間はシステムであると考えます。子どもが一人で問題行動
起こしているのではなくて、親の反応も含めて一つのシステムとして問題行動が維持されている。そのような発想をするのです。

 この目的論と対人関係論が組み合わされると、

 行動は特定の相手に対する何らかの目的をもって取られている

 というように考えられるわけです。

 前回の記事で紹介したケースは、中学生の行動に関する相談でした。例えば、生徒が授業中に騒ぐわけです。これは「騒いだ時だけ先生が顔を真っ赤にして起こってくれるので、その反応が欲しくてやっている」とか「先生の言うことを聞かずに騒ぐことで、クラスメイトに注目して欲しくてやっている」とか考えられるわけです。この件では、先生の反応によって、生徒の行動が維持されているようだったので、先生の行動を変えてもらうことで、生徒の行動も変化しました。

 ちなみに対人関係論の反対の考え方は精神内界論です。精神内界論だと、その子の内側で起こっていることが行動を作っていると考えます。

 アドラー心理学の基本理論などは、以下のシリーズにまとめて書いておきました。参考にどうぞ


改めて4つの目標を見てみると

 では、改めて4つの目標を一つずつ見てみましょう。

①注目関心を引く
②権力争いに勝つ
③復讐心をとげる
④自分の無能力を誇示する

不適切な行動の4つの目標

 最初は①注目関心を引くですね。これは最初の段階で、相手が自分に関心を向けてくれないと問題を起こすなどして、関心を引こうとするわけです。してはいけないと言われたことをすることもあるし、できない自分を演出したり、病気や具合の悪さなどで関心を引く場合もあります。

 構って欲しくてイタズラを繰り返すとか、具合が悪くなるとおかあさんが優しくしてくれるのでお腹が痛いと言ったり(もちろん本当に具合が悪くなることもあります)するわけです。一般に疾病利得などと言われることもありますが、病気になった時だけ得られる得があると、それを手放せなくなり病気(詐病も)を繰り返したりするのです。本当に心と身体は連動しているなと思います。

 私たちは、特に子どもの頃は一人では生きていけません。だから誰かに関心を向けてもらえるかどうかは、とても重要なことなんですね。いつでも十分に関心を向けてもらえたらいいのですが、そうでないと、こうやって何か特別なことをして関心を引き出そうとするわけです。誰しも何かしら身に覚えがあるのではないでしょうか

 次に②権力争いに勝つです。これは第二段階です。注目関心を引くために不適切な行動をとったり、具体の悪さをつかったり、ダメな自分を見せてもダメだった場合。今度は喧嘩して自分の正しさを証明し、相手を従わせようというモードに入るのです。

 前回の中学生のケースで言うと、騒いでも無視されたり冷たくあしらわれていると、まずはますます騒ぐのです。それでも先生の反応がイマイチだと今度は作戦を転換します。

 例えば「先生は言っていることとやっていることが違う」とか「授業がわかりにくいからしているんだ」とか「嘘つかないでもらっていいですか?それって先生の感想ですよね?」とか先生を非難し始めたりするわけですね。もしくはさらに他の生徒も巻き込んで収集がつかない状態にして先生に「勘弁して」と言わせようとしたりすることもありますね。

 別のタイプだと「徹底的に言うことをきかない」という抵抗をする場合もありますね。派手に喧嘩をしかけるわけではないですが「少なくとも言うことはきかない」という頑張り方をするわけです。
 
 親子関係でもあると思います。揚げ足を取ったり、重箱の隅を突いたり、本当に痛いところをついてきたり、さまざまですが「こっちが正しい、おまえは間違っている。それを認めろ」というのが目的となっているコミュニケーションです。親がこれに乗ると、このやりとりが続くことになります。

 マウントの取り合いもこれですね。相手にしてもらうために、どっちが上かを比較するゲームをつかってコミュニケーションをとっているわけです。


 そして次は③復讐心をとげるです。前の段階の権力闘争に敗れると、こちらにスライドしてきたりします。裏から嫌がらせをするわけですね。ネットに匿名で先生の悪口やゴシップを書き込んだり、持ち物を盗んだり壊したり、嫌がらせをするのです。

 この段階では、相手をがっかりさせることや落ち込ませることが目的となっています。ですからそこまで積極的に復讐のための行動を取らないケースだと、徹底して無視したり、不愉快そうな態度を取り続ける場合などもあります。

 親子関係でも、こじれてくると、親が本当に嫌がっていることをピンポイントでしてきたりします。子どもはその行動がしたいと言うよりも「親をがっかりさせたい」「嫌な思いをさせたい」ということが目的になってきているのかも知れません。

 ネットの世界を見ていても執拗な誹謗中傷や嫌がらせ行為などが見られることがありますが、これらの中にも「権力闘争」の段階から「復讐心を遂げる」の段階に移行しているように見えるものがありますね。


最後に④自分の無能力を誇示するです。これが最終段階です。これまでの努力がどれもうまくいかないと、子どもは深く失望し、積極的な行動を取ることをやめてしまいます。

 放っておいてもらうため、見捨ててもらうために、「自分は何もできない」「誰も自分は助けられない」ということを証明すること目的にしてしまいます。誰ともほとんど口もきかずに引きこもったり無気力に過ごすのです


勇気がくじかれているから

 どうして、これらの4つような目標(目的)に向けて行動するのでしょうか。その答えは「勇気がくじかれているから」だと考えます。

 私たち人間は「所属」が欲しいのです。自分の居場所。ありのままの自分でいて受け入れらる場所。仲間がいる場所。やりたいことをやって受け入れられる場所。愛してもらえる場所。そんな場所が欲しいのです。

 そしてそんな場所があれば、そこで何かに取り組んで他人を喜ばせたい。そんなことができる自分になりたい。できたら自分の思いや能力を活かして、自分らしい貢献がしたい。そのために努力したい。成長したい。そんな風に考えるようになります。

 そのプロセスで必要なのが勇気なのです。失敗してもうまくいかなくても、すぐに結果が出なくても、前向きに行動を続け、そこから学び自分を成長させていくためのエネルギーが勇気です。

 人生では必ずしもすぐに結果がでることばかりではないし、挫折体験もあります。そんな中でも建設的な努力を続けるためにはエネルギーが必要なのです。それが勇気です。

 勇気があれば自分らしく他人と生きていくことを目的とした行動を続けるのです。

①注目関心を引く
②権力争いに勝つ
③復讐心をとげる
④自分の無能力を誇示する

不適切な行動の4つの目標

 勇気があれば、上の4つを目的とした行動を取る必要はないのです。

勇気がくじかれると5の目的に向けて行動

 このようなことを踏まえてドライカースの考えを拡張し、以下のように説明されることもあります

作戦①賞賛を求める
 「いい子でいてほめられよう」
作戦②注目を引く
 「何としても目立とう」
作戦③権力闘争
 「勝とう、少なくとも負けないでいよう」
作戦④復讐
 「相手にできるだけダメージを与えよう」
作戦⑤無能力の誇示
 「見捨ててもらおう」

「アドラー心理学でクラスはよみがえる」野田俊作ら

 勇気がくじかれると、上記の5つの特殊作戦を始めるのだと野田先生は説明しています。

 「①賞賛を求める」だけ説明していませんね。これは言葉そのままで、まずは褒めてもらうために、褒められそうなことをするというのが最初の段階だと言うことです。

 これをやったら喜ばれるかな?褒められるかな?と考えて、褒められることを目的に行動を選択するのです。

 そうすることで、親や先生に褒められ可愛がられると、人に褒められそうなことを選択する人間に育っていくかも知れません。一見いいことのようですが、いつも人の評価判断を気にして、自分のやりたいことを選択しない苦しい人生になる可能性もありますね。大ベストセラー『嫌われる勇気』が警鐘を鳴らしたのもこのことです。

 だから、褒めるのではなく勇気づけが必要なのです。勇気づけとは、相手自身がやってみたいと思うことをやれるように関わることです。そしてやってみた結果から学び、成長していけるように関わることです。僕のよく使う説明で言えば、体験学習サイクルを回すことを通じて、なりたい自分になっていけるように関わることです

体験学習サイクルの質問

↑体験学習サイクルと勇気づけのコミュニケーションについては、こちらの記事に書いてあります。

不適切な行動にどう関われば良いか

 では最後に不適切な行動にどう関われば良いのかを考えてみましょう。相手が何を目的にしているかによって、こちらの対応指針も変わってきます。

作戦①賞賛を求める
 「いい子でいてほめられよう」

作戦1

 褒められるための行動は一般的には「不適切な行動」とはされないかも知れませんが、相手に自分軸で生きて欲しいと願うなら、

 ・褒めない
 ・勇気づけする

 が指針となります。「やりたいことは何?」「どんな風にやってみたい?」などと質問してもいいですね。そしてやってみたいと思ったことを「やってみようよ」「やってみない?」などと促し、行動したら「どうだった?」と結果をきき、「じゃあ次は何をどんな風にやってみる?」と次の行動へ続けるのです。

 より詳細なやり方は先ほどと同じ記事ですが、以下を参考にしてください

作戦②注目を引く
 「何としても目立とう」

作戦2

では次に作戦2への対応です。原則は

 ・注目を引くための行動に着目しない
 ・建設的な行動をしているときに着目し勇気づける
 ・普通にしているときにコミュニケーションをとる

 ですね。手助けしたくなる、かまいたくなる、反応したくなる自分を押さえて、泣いたりわめいたりする行動に反応するのをやめましょう。反応すれば増えるだけですし、お互いに幸せになることはありません。

 そして、必要に応じて作戦1への対応と同じで体験学習サイクルを回すコミュニケーションを勇気づければいいのです。


作戦③権力闘争
 「勝とう、少なくとも負けないでいよう」

作戦3

 作戦3への対応はどうすればいいでしょうか。その前にまず相手が作戦3を使ってきているかどうかは、どうしたらわかるでしょう。簡単に言うとあなたが「相手を説得したくなる」「相手に負けじと頑張りたくなる」「ムカっとする」などの状態になっているときは、相手は作戦3を使っている可能性があります。(相手が作戦1を使っているときあなたは「ほめたくなる
」。作戦2で来た時は「反応したくなる」「構いたくなる」わけですね)

 相手がいなければ喧嘩になりません。あなたが相手になるのをやめましょう。指針は

 ・権力闘争の土俵にのらない
 ・負けを認める
 ・相手に対する敬意をもつ
 ・共通の目標を発見する

 などになります。努めて冷静に、相手の話をきき、お互いにどのようにしていったらいいのかを、一緒に冷静に決めるのです。事前に合意してあるルールがあるなら、それを伝えてルールを守ってもらうように依頼するのも良いですね。

 あくまでも冷静に。相手を罰することはやめてください。罰するとか、相手におかしいと認めさせるとかの発想は既に「権力闘争」に入ってる証拠ですね。あなたが権力闘争に勝っても、相手は再戦を求めてくるか、次の復讐段階へと進むだけです。それを忘れないでください

 共通の目標の発見も大切なコンセプトです。一緒にいるのはお互いに共通の目標があるはずです。それを探して、そこに向かって協力するのです。それがないなら適切な距離を取ることを検討してください

作戦④復讐
 「相手にできるだけダメージを与えよう」

作戦4

 ここからは当事者同士では難しい領域になってきます。なぜなら、あなたとの関係に絶望し、もう嫌がらせするしかないと相手は思っているようだからです。ですから、双方に平等に肩入れしてくれる第三者をいれることをお勧めします。平等な肩入れとは、どちらかだけを応援するのではなく、どちらのことも理解し応援しようという姿勢です。

 もちろんそのような人が見つからなければ、単に第三者が間に入るだけでもよいのです。他人が関わると人間関係は変わりますから変化は起こる可能性があります。とくに復讐心で動いている相手が、少しでも落ち着いたり癒されたり、前向きな行動が勇気づけられるようなことが起こると良いですね。

 第三者、できれば専門家を入れる以外に大切なことは

 ・相手に復讐しかえそうとしない
 ・相手に精神的なダメージを与えようとしない

 ですね。必要な場合は法的措置をとるようなこともあるかも知れませんが、それは社会のルールに則って処理しているだけのことであり、それ以上に、相手に報復措置をとってもお互いに幸せになることはないと思ったほうがよいと思います。必要ならあなたの傷ついた気持ちに寄り添ってくれる専門家を探すとよいですね

作戦⑤無能力の誇示
 「見捨ててもらおう」

作戦5

 これも本人同士では難しいですね。専門家を入れても時間がかかるケースもあると思います。ただできるだけ早い段階で専門家の支援を頼ったほうが良いケースが多いと思うので、作戦5が思い当たるケースがあれば、まずは相談できる先を探すのが良いと思われます。

 ただ相手に負担にならない距離感で、相手への愛情と関心を持ち続けること。時間がかかるとしても、相手の状況に応じて、相手を支援したいという気持ちを持ち続けることは、相手のためになると思います。相手との関係に応じて、あなたのスタンスを決め、腹をくくることも大切ですね

 ということで、このシリーズはここまでです。この考え方は子どもとの関係に限らず使えますので、ぜひご活用ください。あなたの行動が変われば、相手も変わっていきます

 おわり

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