コーチングスキルをブラッシュアップしよう(前編)

 前回の記事に引き続き、コーチングを上達させる「振り返り」についてお話しましょう。今回の記事では基本的なスキルなどについて振り返ることを考えてみます。

 2000人以上にコーチングのトレーニングをしてきて思うのは、コーチに基本的なスキルとあり方がきちんと備わっていたら、それで必要十分な変化が起こるということです。

 もちろん、特殊なスキルを使うことでスピーディな変化が得られるようなことはあります。だから僕もそのようなスキルのトレーニングを行うこともありますが、それは必ずしも必要なことでもないわけです。

 むしろ、基本的なスキルとあり方だけで、関わり続けること。そうすることで、そこからクライアントが学こともたくさんあるのです。

 というわけで、今回の記事では基本的なスキルの振り返りのための解説をしてみたいと思います。※使われるスキルは、出身コーチングスクールによって異なると思います。今回の記事を参考にして、自分は何のスキルをどのように振り返ったら良いか、考えてみてください

項目一覧を用意してみよう

基本項目

 まずはコーチングを振り返る際の項目出しをしてみましょう。上図は僕のスクールでいうと基礎クラス(エッセンシャルクラス)を出た人たち向けの振り返り項目です。

 他のスクール出身者からすると、聞き慣れない言葉が入っていたり、当然入っているべきものが入っていないように見えるかもしれません。コーチングってそういうものです。目指しているものは一緒でも、どのようなスキルや能力をつかってそれを実現するのかにはいろいろな考え方がありますし、そのスキルや能力をどのような名前で呼んでいるのかもスクールによって違うのです。

 ですから、ぜひあなたにしっくりくる一覧をつくることをおすすめします。それが成長への早道だと思います。

 とは言え、このリストに載っているものは、対人援助をする上で流派に関わらず大切なものとも言えますので、今回はこのリストに基づいて解説をしていきます

①コーチの状態

 これはスキルではありませんが、一番最初に振り返りたいのはコーチの状態です。僕のおすすめは以下の3項目

リラックスした集中
自分らしさ
ステイト+1

コーチの状態

 まずはリラックスした集中です。最近の言い方だとマインドフルネスも近いですね。コーチングは「心ここに在らず」では出来ません。常に今ここにいて、クライアントをよく見て、よく聴いて、よく感じることが大切です。

 そのためには練習です。これは練習で向上させることができる能力なのです。例えばマインドフル瞑想のトレーニングに参加しましょう。それによって、まず自分が「今ここにいるかどうか」がわかるようになります。話を聞けているつもりで聞けていなかったことに気づく。ほとんどの人はそこからスタートなのです。とは言え練習を重ねると、長い時間でも集中が続くようになりますし、集中が途切れたときに、それに気づいて戻せるようになってきます。

 これは対人援助のベースになる部分ですので、ぜひ練習して能力向上につとめてください。そしてコーチングセッションが終わった後に、各回の集中度を振り返ってみましょう。

 次に自分らしさです。これはカール・ロジャーズの中核3条件の「一致」とも関連します(ちなみにリラックスした集中も関連しています)。コーチであるあなたが、自然体・等身大であるから、クライアントも本来の自己につながりやすくなるのです。逆にあなたが構えていたり、装っていたりすると、クライアントの素直な自己表現の妨げになりますね。

 これもやはり、あなたが普段から自分の気持ちを感じて、その気持ちを大切に生きることが良いのです。そうすることで、あなたは自然といつでもあなたらしくいられるようになります。コーチングをしていると「コーチっぽく」振る舞ってしまう人がいます。それも僕は否定しませんが、あなたらしさから離れた「コーチっぽさ」では勿体無いと思います。ぜひあなたらしくいられたかを振り返り、どのような自分でクライアントと接したいか考えてみてください。

 最後がステイト+1。聞きなれない言葉かも知れませんね。ステイトは心身の状態のことです。ですからステイト+1は、コーチのステイトをクライアントより+1の状態にしましょう。ということなのです。

 コーチの状態がクライアントの状態よりも低いと、クライアントはコーチに引きずられて状態が悪くなります。逆にコーチの状態がクライアントより高すぎても、クライアントは引いてしまいますね。

 だからクライアントの心身の状態と同じレベルに合わせてコーチが関わるのでも良いのですが、少しだけクライアントよりも良い状態(+1)だと、クライアントにとって違和感もないし、しかもコーチの状態の良さに影響されてクライアントの状態も良くなっていく傾向があるのです。

 コーチングはクライアントの状態が良い中で行うほど、うまく行きやすいので、コーチの心身の状態管理は大切なのです。ぜひセッション後に自分自身の状態とクライアントへの影響についても振り返ってみて、次回以降のコーチングに活かしてください。

②関係性

 つぎはクライアントとコーチの関係性です。

協働関係(信頼、期待、協力)
テーマとゴールの共有
アサーティブ なコミュニケーション

関係性

 まずは協働関係(信頼、期待、協力)です。コーチとクライアントは協力しあう関係であることが大切です。クライアントはどれくらいあなたを信頼していたでしょうか?クライアントはあなたやコーチングにどれくらい期待していたでしょうか?クライアントはあなたにどれくらい協力していたでしょうか?

 クライアントがあなたのことを信頼し、コーチングに期待感を持ち、そして協力して進んでいきたいと思う。このような条件が満たされているとお互いのリソースを活用しながらコーチングが進んでいくことになりますね。ぜひクライアントと協働関係をつくることを大切にして欲しいですし、セッション後にはどれくらいできていたかを振り返ってみてください。

 次にテーマとゴールの共有です。今回のコーチングでは何を扱うか=テーマ。このセッションが終わったときに何が得られていたらいいのか=ゴール。コーチングセッションは基本的にクライアントのものですから、クライアントが扱いたいテーマを扱いますし、クライアントが得たいものをゴールに進んでいくのです。それをしっかりと共有するからクライアントと良い関係で協力し合いながら進んでいくわけですし、クライアントの要望に応えるセッションになりますね。

 とは言え、多くの場合クライアントはコーチングのテーマやゴールについてよく考えてからコーチングセッションに臨んでいるわけではありません。したがって、テーマが何であるか、ゴールが何であるかをしっかりと聴き取れるコーチの能力が問われています。セッション後に再びテーマやゴールに関して振り返ってみると、序盤のヒアリングに関連して改善点(どのような聴き方をしたら、よりふさわしいテーマやゴールが明らかになったかなど)が見つかることも多いのでぜひ試みてみてください。

 コーチングのテーマについては以下の記事を参考にしてみてください

 そしてアサーティブなコミュニケーションです。簡単に言うとコーチもクライアントも言いたいことを言えていたか?ということです。

アサーティブ=相手に受け取れる形で自分の言いたいことを伝えること
ノンアサーティブ=自分の言いたいことを我慢し、伝えないこと
アグレッシブ=説得したり、傷つける言い方で、言いたいこと言うこと

 コーチはセッションを振り返って、コーチクライアントともにアサーティブだったかどうかをチェックする必要があります。クライアントがノンアサーティブだとコーチングになりませんが、コーチがしっかり聞けてない場合や、コーチの主張が強すぎると、クライアントが遠慮して言いたいことを言わないことはよくあります。

 コーチがアグレッシブになっていなかったかも要チェックですね。クライアントを説得しようとしていなかったか?クライアントを傷つけるような言い方はなかったか?ぜひ振り返ってください。

③聴く

 今度は傾聴ですね。ぜひマインドフルに、全身でクライアントを感じながら話を聴くようにしてください。

リアクション
スピード感
受容と正確な共感

聴く

 これらは、録音録画していないと正確にはわかりません。ぜひクライアントの許可を得て、録音録画して振り返りをしてみてださい。

 まずはリアクションですね!聴き顔の表情もそうですし、相槌などリアクションがしっかり取れているかどうか。オンラインだと特に相手に伝わる情報が減りますので、多少大きめのリアクションをとりながら(ただしうるさくなりすぎない程度に)聴いていくことで、クライアントも話しやすくなると思います。

 特に笑顔は大切です。クライアントにあなたが肯定的に聴いていることが伝わるように、しっかりと笑顔を作りながら聴いていくのを基本にするとよいと思います。クライアントが気持ちよく話せていると、コーチングは楽に進みます。クライアントが話しにくい状態になると、一問一答に近い状態になりコーチクライアントともに辛い時間が続きます。

 次にスピードです。相槌や反応のタイミングやテンポなどですね。途中で質問を挟む場合はそのときの話すスピードも大切です。基本はクライアントの話すテンポ感にあっているかどうかを基準にしてください。クライアントの話しているスピードやテンポに合わせるのが良いのです。カラオケの合いの手と一緒です。スピードやテンポがズレた合いの手を入れられると歌いにくくなりますね。

 相手の言葉の内容だけでなく、相手の言葉の発し方にも興味を持ってください。歌を聴くときを思い出してください。歌詞の内容だけでなく、節回しや歌い方も大切ですね。ぜひそんなつもりで、言葉も言葉以外も聴こうとして欲しいし、そこに自分の反応も合わせていって欲しいわけです。

 そして受容と正確な共感です。これらはカール・ロジャーズの中核3条件からきています。先に説明した一致とあわせて、この3つの態度をもって接すると相手は変化すると言われています。

一致「今ここで起こっていることに気づいていること」
受容「相手の言動をジャッジせず肯定的に受け止めること」
正確な共感「相手の言っていることを正確に理解しようとすること」

中核3条件

  受容とは「無条件の肯定的な関心を寄せること」だと言われています。あなたの聴き方や、発する言葉が、肯定的で温かいものであったか。どうしたらそれがもっとクライアントに伝わるかをぜひ検討してみてください。

 最近は心理的安全性という言葉もメジャーになりましたが「何をいってもバカにされない。不要だと言われない」という感覚があるから、人は思っていることを自由に話したり、それを行動に移していくことができるのです。自分自身の聴き方がクライアントの心理的安全性をどれくらいつくっているのか?ぜひ検討してみてください

 次に正確な共感です。一般に共感と言うと「わかるわかる!」など同意の意味で使われることが多いです。ところがここで言う「共感」は違います。臨床心理の世界では、相手と自分は全く違う存在であることを前提に、相手の言わんとすることを相手の立場で理解しようという態度のことを「共感」というのです。「もっと正確にわかりたい。もっと正確に知りたい」という態度が共感なのです。

 スキル的には「確認の質問」などを使って、相手がまだ表現しきれていない部分を話してもらったり、要約や言い換えのスキルなどを使って言語化を進めていくことになります。

 とは言え、その前段で、分かったふりをせずに、わからないことはわからない顔をして聴く。ということが大切です。僕たちは物分かりがいい人であろうとしがちです。ところがコーチは物分かりが悪い方がいいのです。物分かりが悪いからこそ、もっと正確に知るために聴こうとするし、質問をするからです。

 ということで、自分がわかったつもりで聴いていなかったか、クライアントからそう見えていなかったかをぜひチェックした上で、どうしたらもっとクライアントの話を正確に理解できただろか?と探求してみてください。

 確認の質問については以下の記事が役に立ちます。聴き方が激変すると思いますので活用ください

ということで、今回はここまで。残りの4つも大切なので次の記事で確認してください。

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