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ブルーベリー狩りも三年目

職場の障害者施設でブルーベリー狩りをする季節がやってきた。

 
今年で参加は三年目になる。
私が転職した年から始まった行事だから親しみがわいている。

 
「俺らが先に行くから、真咲さんらは少し遅れて来て。」とリーダーに言われ
少し遅れて出発した。

リーダーはカーナビで行くと言ったので
私らはカーナビの道より少し遠回りをしていこうと思った。

 
私はそのブルーベリー狩りの場所をよく知っていた。
前の職場の近くだったからだ。

逆にリーダーはあまりその辺の道に詳しくなかった。

 
私の車には後から来た方がいい利用者が乗っていたので
時間を調整する予定だった。

 
その日は暑い日だったが、曇りだった。
例年ブルーベリー畑は暑いので曇りはありがたかったが
車で向かう途中に日差しが出てきた。

 
道中、利用者は爆睡していたので
一緒に車に乗っていた事務長と話をしながら過ごす。

窓から紫陽花が見えた。キレイだった。

 
前方を見るが、なかなかリーダーらの車が見えない。
もう先に着いたのだろうと思ったが
目的地に到着する直前に後ろにリーダーらの車があるとようやく気づいてビックリした。

 
「施設出発した5分後に抜かれたよ。ほら、道工事してて、俺らは工事側の車線にいたから。横をスーッと抜かれたよ(笑)」

「抜いてほしいのか、本気で気づいてないかどっちだろうって思った(笑)」
 
「真咲さんらがカーナビとは違う道に行ったから、あれ?って思いながら着いていった。あれが遠回りだったのね(笑)」

着いて早々笑い話だ。

 
なお、同時に着いても結果的には利用者が落ち着いていて大丈夫だった。

 
ブルーベリー畑は思ったより曇りで風もあり、まだ過ごしやすかった。

片っ端から食べる人、片っ端から摘む人、ゆっくり食べる人、ゆっくり摘む人、食べるのも摘むのも拒否的な人、色々だ。

 
支援しながら職員も食べていいのだが
職員は正直食べている場合ではない。支援や写真撮影がある。

 
お土産用にパックに詰める時間さえ惜しくて
大抵の職員が摘むのが好きな利用者に託していた。

 
私は私で多少食べたし、多少詰めたが
もうそれだけで満足な感じだ。

 
あくまで仕事で来ているし、第一目的は利用者支援なのだ。

 
そんな私に利用者が遠慮するな、と言わんばかりにブルーベリーを摘んでくるので多少食べた。

その手が汚れているであろうことはあまり気にしてはいけない。
あくまで善意なのだから。

 
30分の食べ放題がなかなかに長く感じる。
ほとんどの利用者は食べきるまでそんなに時間はかからないし
お土産用パックもサッサと詰み終わる。

 
終わった時には背中に汗をぐっしょりかいていた。
ブルーベリー畑は日陰がないので
ブルーベリー狩りに参加する利用者がいる限りは最高気温30度の中、日なたにいるしかない。

早々と終わった利用者の支援をしている人が羨ましい(終わった人は少し離れた日陰で涼んでいた)。

 
帰り道、時間を稼ぐように言われ
私は回り道をして元職場を案内した。

「大きいわね。」

と、事務長が驚く。

 
人の数だけで10倍くらい違う。

建物も敷地も駐車場も桁違いに広い、かつて私が愛して全てを捧げた職場。
骨を埋める気だった職場。

 
変わらない建物も日常風景も懐かしくて、それでいてキラキラ輝いて見えた。
傍から見たからだ。

だけど私は知っている。
建物は立派でも、色々あることを。

 
新施設長に至ってはもっと大きな施設からの転職だった。
私より地位のある立場だった。
だけど転職した。

私と感じたことは似ていた。

大きな施設にいてはできないことがある。私達はそれを痛感して退職した。

 
お互いに前の職場の人と笑って話せるし、新施設長も前の職場を嫌いになって退職したわけではないと思う。
ただ、譲れないものがあっただけだ。

 
例えばだけどブルーベリー狩りに前の職場では行けない。

かつてはいちご狩りや梨狩り、りんご狩りに行ったりもしたけど
今では諸々の理由で行けなくなった。

私は変わりゆくその姿を見るのが辛かった。

 
ブルーベリー狩りは大きな問題もなく、確かに楽しかった。

職場のSNSを更新したり、夕方新商品会議をしたり、新しい職場で新しい人間関係で新しい仕事をする自分が嫌いではない。

 
それなのに
退勤して一人になると勝手に涙が流れた。

前の職場の目の前まで来たのに
室内には入れない。

 
あんなに近くにいたのに
今は遠くに来たことが
辛くて悲しかった。

退職することはもう元利用者に会えないこと。

それは分かっていたのに
転職三年目の今も辛い。

 
大好きだよ。
大好きだよ。
今でも大好きなんだよ。

心の中で叫ぶ。

 
まるでブルーベリーのようだ。
少し、酸っぱい。甘くて切ない。

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