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メイド喫茶と萌え萌えキュンキュン

友達「ねぇともか、今度メイド喫茶行ってみない?」

私「いいねぇ~!行きたかったんだよね!!行こう行こう!!」

 
私は友達から誘われて、人生初のメイド喫茶に行くことになる。
大学生の頃だ。

 
 
 
 
私が大学生の頃、秋葉原の見方が変わってきた時代だった。
今まで電気街の街としてのイメージが強かったが
やがてアニメや漫画といったカルチャーにも特化した街になっていく。
更にメイド喫茶という、かわいらしいメイド服を着た女性が接客をするというお店も生まれ
メイド喫茶が大流行した。

かわいいメイドさん。
女性だって、かわいいメイドさんが気になる。 
私だって萌え萌えキュンキュンしたいではないか。

 
メイド喫茶戦国時代と言ってもいいくらい
メイド喫茶はあっという間に増えに増えた。
世の中は「電車男」や「腐女子彼女。」「隣の801ちゃん」といった漫画や映画も流行り
アニメやマンガが特別好きじゃなくても
秋葉原は一種の観光地となり、若いカップルや若い女性も遊びに行く時代になった。

 
 
料理サークルが同じだったAちゃんとは行動グループが異なったが、サークルを通じて徐々に仲良くなり
よく二人で遊びにいく仲になった。
一人暮らしをしていた彼女の家に泊まったり
浅草に出掛けたり、月島でもんじゃ焼きを食べたり
クリスマスに東武動物公園に行ったり
六本木ヒルズに行ったり……etc.
観光地や話題のスポットを狙って二人で行っていた。

 
彼女は東北出身で大学に進学するまで東京には行ったことがなかったし
関東出身の私でさえ、大学に進学するまでは東京は遠い憧れの世界だった。
二人の憧れと行動力が一致し
バイト代を使って二人で東京を遊びたかったのだ。


「秋葉原ってたくさんのメイド喫茶があるんだね!」

 
遊びに行く前にググッてみると、メイド喫茶マップがあった。
各メイド喫茶のオススメポイントがたくさん書いてあり
まぁ秋葉原に行ってみればどこかしらのメイド喫茶が空いているだろうと、お互いに呑気だった。
とりあえず私はメイド喫茶マップを印刷かけて、手帳にしのばせた。

 
 
さて、ある休日に二人で秋葉原の地に降り立った。
Aちゃんは見た目がキレイなお姉さん系で、スカートがよく似合った。メガネをかけると、途端に色気が増してエロっぽい。
大人びた性格に見えて、信頼した相手には好奇心旺盛で甘えん坊な一面を見せる。
料理サークルの時と二人っきりの時は印象が異なる。
そう、私と一緒にいる時はワクワクした甘えん坊だった。
そのギャップがたまらない。

 
一方、私はというと、見た目が地味でメガネをかけていて、アニメや漫画や小説がいかにも好きそうな文学少女である。
スカートはワンピースやロンスカを好む。
一見大人しそうに見えて、口を開くと機関銃のように話は止まらない。

 
 
そんな、メガネをかけるとエロいAちゃんと文学少女風メガネをかけた私は
秋葉原の駅に降りた時に人の多さにまず驚いた。

改札を抜けると高いビルやお店が駅前にひしめき合い
なるほど秋葉原の街は活気ついていた。
すごい!

 
とりあえず右も左も分からない私達は
秋葉原の駅そばをとりあえず偵察した。
私は「人生初のUSBは秋葉原で買いたい!」と燃えていて(完全に観光である)
ワインレッドのオシャンティーなUSBを買った。
ピンク色のシルエットの女性が描かれている。
ちょうど時代はフロッピーディスクから、USBに切り替わりつつある時だった。
大学二年の初期まではフロッピーディスクでデータ保存していたが、データが飛んで泣いてから
私は二度とフロッピーディスクは使わなかった。
大学教授から「時代はUSBであり、データ保存に強い。」と聞いて
私はあっさりUSBに乗り替えた。

 
USBなんてどこにでも売ってるし、何も秋葉原で買わなくても…
と自分でも思ったが
地元の店…どころか他店では、そのオシャンティーなUSBは見つからなかったし
秋葉原で買ってよかったと今でも思っている。
買ってから10年以上お世話になったし、データはいまだ消えていないのだから。

 
 
秋葉原をぶらぶらした後、いよいよ本命のメイド喫茶を巡ろうという話になった。
メイド喫茶は狭いエリアにひしめき合っており、かわいらしいメイドの格好をした女の子が客の呼び込みをしたり、チラシや看板を持って立っていた。

うわぁぁぁ!

これぞ、秋葉原!これぞ、メイド喫茶である。
あまりに人やメイドがごった返していて、人波におされるように歩くしかなかった。
田舎娘丸出しの私はキョロキョロし、個性的なファッションの方やコスプレイヤーの方も見つけては胸をときめかせた。
秋葉原は自由な街の印象を受けた。開放的な街だと。

 
あまりの人波とメイド喫茶の多さに、じっくりとメイド喫茶が見比べられず
私はAちゃんに提案をした。

「せっかくなら、@ふぉ~むカフェに行こうか?」

 
 
ネットで調べたところ、@ふぉ~むカフェはメイド喫茶発祥?老舗?で
由緒正しきメイド喫茶のようだった。

 
秋葉原駅から10分くらい歩いたところに高いビルのドンキホーテがあり、@ふぉ~むカフェはその中にあった。
人生初のドンキも、私はこの日秋葉原でデビューした。
店内にひしめく物や人やガチャガチャした雰囲気がいかにもな都会だと思った。
そのドンキには、@ふぉ~むカフェだけでなく、AKB48劇場もあった。
@ふぉ~むカフェにした決め手はAKB48劇場があったこともある。
この頃はまだ今ほどAKB48はメジャーではなく、地道に劇場でファンを増やし
新曲を出してアイドルファンに受け入れられるか否かというポジションだった。
アイドル戦国時代はこの数年後にやってくるのである。

 
それでも、秋元康さんがプロデュースしたことや、専用劇場を作って毎日ライブをする取り組みは画期的であり、曲はオリコンチャートにも引っ掛かっていた。
AKB48は若者の間では知名度が上がっていた時期である。

 
「メイド喫茶のついでにAKB48劇場も見ていこうか♪」

 
と、完全に観光客気分だったが、チケットを持っていない人は行けないようだった。
なんせ初めてで下調べをしていない為、AKB48劇場の勝手がサッパリ分からないが
とにかくエスカレーターで劇場入り口まで行くことさえ叶わなかった。
@ふぉ~むカフェの上の階がAKB48劇場であり、私とAちゃんは大人しく
@ふぉ~むカフェの階で降りた。

 
そこは行列であった。
店の中にはお客さんやメイド服の女の子がたくさんいて、壁際にはメイドの子の写真が飾られていた。
私達はお喋りしながら気長に待った。
女の子二人集まれば、会話が止まることはない。

 
いよいよ、私達の番になった。
すでに他の場所でご飯を食べた私達はドリンクくらいしか注文しなかった。
有名な、オムライスにケチャップで落書きに憧れはしたが
お腹に余裕がないので仕方ない。

 
私達は「お嬢様」と呼ばれた。
なるほど、定番の「ご主人様♡」は男性向けか。

 
つまらん←

 
やはり女同士だからか、メイドさんは少し緊張というかやりにくいような雰囲気が伝わった。

 
「萌え萌え♡(パンパンッ)キュンキュン♡(パンパンッ)美味しくなぁ~れ♡」

 
噂で聞いていた、メイドさんの萌え萌え言いながら愛を込める行為を生で見て

 
これ!これだよ、これ!

 
と感動した。
確かチャージ料がかかる仕組みなので、一時間くらいで退店したと思う。
並んでいた時間と店内にいた時間と料金と料理やドリンクの質を考慮すると、なかなかにメイド好きじゃないと誘いにくいと思った。

 
だが、とりあえず流行りのメイド喫茶をおさえたことで、人生の経験値がアップしたと思った。

 
 
 
その後、メイド喫茶人気は更に上がり、様々なサービスや趣向のものも増えた。
その頃、私は年上のBちゃんと知り合い、仲良くなった。
Bちゃんは年上だが小柄でロリ顔で胸が大きく、地声がアニ声である。
二人並んでも、私と年が離れているようには見えない。

 
Bちゃんは友達が地方にいたり、社会人だったり、家庭があったりで
遊び相手に飢えていた。  
 
私とBちゃんは趣味が似ていたり、好きなアーティストがかぶっていたり
お互いに好奇心旺盛で行動派であったこともあり
様々な遊びをしたり、観光地に出掛けた。

 
「私もメイド喫茶行きたい~!」

 
私が先日メイド喫茶デビューを果たしたことを告げると、Bちゃんはメイド喫茶に食いついた。
そこでBちゃんとは、別のメイド喫茶に行くことにした。
メイド喫茶はもはや秋葉原だけのものではなく、地方にもどんどんできていた。
私はすでにいくつかのメイド喫茶に何回か行っていたが、地方のメイド喫茶は未体験だったので
私とBちゃんちに近い、地方のメイド喫茶に行ってみようと提案した。

 
 
そこのメイド喫茶には、コスプレ用の赤いメイド服(白いエプロン付き)があり、プリクラ機まであった。
お金を払えば、オプションで撮影可だという。
私は食いついた。

私「撮りたい撮りたい撮りたい!」

B「面白そう~!」

  
食いついたのは私だけではなく、Bちゃんも前のめりだ。
私達はメイド服に着替え、写真を撮った。
もはや萌え萌えキュンキュンが目的ではなく、コスプレが目的になった。

 
人生初のメイド服はそれはもう…それはもう、かわいかった。
私はメイド服のデザインが好きだった。
メイド喫茶によってサービスは異なるが、コスプレしてプリクラが撮れるのは
この店が初めてだった。
メイド服を初めて着れた私は興奮した。テンションが上がった。
かわいい…なんてかわいいんだ!
かわいいしか言えないくらい、嬉しかった。

  
友達はそれはもう…それはもう、かわいかった。
よく似合っていて
童話の世界から出てきたようなかわいさだ。
年上に思えない。
クッ………胸が大きいのがう・ら・や・ま・し・い。

 
「ともかちゃん、かわいい~♡」

 
女友達はみんな優しい。
私にもかわいいと言ってくれる。
だけど、明らかに似合っていたのは彼女だった。

 
 
  
そんな中、地元に@ふぉ~むカフェの支店がオープンした。
早速一人で乗り込んだ。
一人で行動するのも苦じゃなかった私は
おひとり様メイド喫茶もすんなり行けた。

私はバイト募集の紙を見つけた。
メイドを募集していた。

 
「私がかわいかったらなぁ…。」

私はため息をついた。
メイド喫茶でバイトをしたかった。
私はお客としてではなく、メイドとしてご主人様に接待したかった。
かわいいメイド服を着て、注文を聞いたり、飲食物を運んだり、萌え萌えキュンキュンするのは非常に楽しそうだった。

 
だが、メイド喫茶だ。
ビジュアルは非常に大切である。
顔もスタイルも良い方がいいに決まってる。
私はため息をついた。
私じゃ不適切だ。

  
バイト募集の紙をじっと見つめてから、私は無言で家に帰った。
こればっかりは仕方ない現実だ。


 

 
大学を卒業してから10年以上経った今も、メイド喫茶は人気である。
だが、人気であるが故に競争率も激しく
私がかつて行ったメイド喫茶はことごとく潰れた。
まだ残っているのは、一番最初に行った@ふぉ~むカフェだけである。
さすがとしか言いようがない。

 
私は去年、秋葉原に行った。
秋葉原は相変わらず賑わっていて、活気があった。
メイド喫茶の呼び込みをするメイド達を横目で見ながら
私はあるお店の看板を見つけ、建物に入った。
中は薄暗い。

「あれ?ともかちゃん、来てくれたんだ!」

 
振り向くとそこには、私の大好きな人が立っていた。
その人は若さん。
見た目は長身でかっこよく、親しみやすく話しやすい性格だ。
expieceというアイドルグループ出身で、彼女はグループを卒業をしてから、男装居酒屋で働いていた。

 
男装居酒屋は初めてだが、基本システムはメイド喫茶とそんなに変わらない。
メイド喫茶はあれからもう何年も行っていなかったが
システムが似ていたので分かりやすかった。
 
 
私は若さんが入れてくれたドリンクを飲み、久々に若さんと話し、チェキを撮った。 
そこにいた若さんは若さんだけど、expieceの若さんではなく、男装居酒屋の若さん(ここでは他の名前を名乗っていたが)だった。
人は置かれた環境で変わると思った。
新しいジャンルに挑戦し、楽しそうな若さんを見て、私は秋葉原を後にした。

 
 
 
それが、最後に行った秋葉原となった。

 
 
 
 
 
友達と秋葉原デビューをしてから、私はたびたび秋葉原に出掛けた。
友達と行く日もあれば、デートでも行ったし、一人でも行った。

 
まさか若さんと会った後、コロナウィルスが大流行し、東京に行けない時代が来るとは思わなかった。
ほぼ毎月東京に行っていた私は
あの日々を懐かしく感じる。

 
今日も秋葉原の街はきっと活気ついているだろう。
きっとみんなマスクをしているのだろう。

電車に乗れば行ける。
時間はある。
お金もある。

  
だけど、今、東京には行けない。
メイド喫茶も密になるから、行けない。

  
秋葉原デビューしたあの日
まさかこんな未来が待っているなんて思わなかった。

 
 
 
メイド喫茶でノウハウを覚えた私は
悪ふざけをするように、時折プライベートで萌え萌えキュンキュンをしている。
言霊の力は偉大だ。
食べ物や飲み物が美味しくなりそうじゃないか。

 
8月に入ってから毎日のように35度。
昨日にいたっては38度。
暑い。
夏バテと熱中症に負けそうになる。

 
「おいしくなぁ~れ♡」と自分で作ったものに自分で魔法をかける。
食欲が出なくても食べねば。そして、飲まねば。
体力を落としてはならぬ。

 
 
生き延びた先に、きっと想像した以上に騒がしい未来が僕を待っているのだ。
スピッツの歌を聴きながら、私はそんなことを思う。










 
 
 
 

 

 


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