見出し画像

ダンス教室の見学者

その日は施設で月に一度のダンス教室の日だった。

 
骨折によりしばらく仕事を休んでいた私は楽しみにしていたが
ダンス教室には行かず(普段体育館を借りて行っている)
施設に待機する利用者と過ごすように言われた。

内心えーっとなった。

しかも仕事内容が、今年から利用開始したばかりの少し対応が難しい、私がほぼ関わりのない人と二人で過ごすことだったからだ。

 
「私で大丈夫でしょうか?」

弱音を吐く私に

「誰かがやるしかないから。」

と、リーダーが言った。

 
自家用車を運転して通勤しているものの、今仕事での運転は控えており
散歩やポスティング作業も支援を外されていた。

誰かが残るなら、私みたいに本調子ではない人が妥当なのは私が一番分かっていた。

 
結局その方は急遽休みになり、私は別の待機利用者を見ることになった。

私のように足を怪我してしまい、激しい運動を控えている利用者や、メンタル不調の利用者、医療的ケアが必要な利用者という
どこか似た者の集まりのような気がした。

 
私は新施設長とテレビ電話をし、ダンス教室の様子をタブレットに映し出した。
楽しそうな様子だ。

体育を見学している人の気分を
大人になっても味わうなんて。

 
メンタル不調の方はともかく、他の今残っているみんなはダンス教室に本来は参加したかったため
半ば羨ましくなりながらみんなのはしゃぐ様子を見ていた。

 
5分程度で電話を切った後は
YouTubeで座ったままできる動画を検索し、見ながら運動した。
私の大好きな竹脇まりなさんの動画だ。

 
まりなさんの動画に関しては今まで足痩せの運動を好んでやってきたため
座りながらの運動はやるのが初めてだった。

なかなかに腕がキツい。

腹筋にきくらしい動きはありがたい。
最近体重が増え、お腹周りも緩みっぱなしだから。

 
そんな時、事務長がそこを通った。
事務長は竹脇まりなさんを知っているらしい。

自分の好きな人を誰かが知っているのは嬉しい。

 
その流れで、私はずっと言うか言わないか迷っていた話を伝えた。

 
今、まりなさんの会社で幼稚園や福祉施設等にマットの寄付を行っている。
いや、行っているのか、寄付希望を取りまとめ中かそこの詳細は分からない。

ただ、受付はしている。

 
うちの職場は外で運動することが多いが
梅雨時期や夏、冬は室内にマットを引き、そこでストレッチをしている。

だが、手狭だと私は思っていた。
部屋も手狭で、マットも人数に対して足りないと思っていた。

だけど移転した今なら部屋が広がったし
マットを増やす価値があると思った。

 
事務長は「いいわねぇ。是非頼むわ。」と朗らかに言った。
話してよかったと思った。

ただ、新施設長がいない時にこんな話をするのはよくないと思い
私は利用者が帰った後、新施設長にも同じ話をした。

 
新施設長は難色を示した。
移転に伴い、せっかく断捨離をしたのに、物を増やすことに難色を示した。

実は私が言うに言えなかった理由の一つがそれだ。

難色を示すような気がしたからだ。

 
確かに移転により部屋自体は広くなったが
収納場所が減り
結局物置には荷物がたくさん入っている。

新施設長は物を増やすことに消極的な人だ。
前施設長が逆に物を捨てられない人なので
復帰しない今、余計に物を増やしたくないのは分からないでもない。

 
物はすぐに増える。

それは引っ越しや移転を経験した私にもよく分かる事実であった。

 
やはり、新施設長に早めに話をしてよかった。
多分新施設長は寄付を申し込まないだろうが
話を通すだけ通し、私の役目は終わった。

 
一番いいのはダンス教室に参加することだ。

私にとっても、利用者にとっても。

来月のダンス教室までに
私達が参加できるまでに回復していたらいいのに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?