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今年の観覧車

職場の近くには大きな公園があり
そこには小さな遊園地もある。

 
毎年春の時期はスタンプラリーをやっていて
スタンプがたまると観覧車に一回乗ることができる。

なお、駐車場代や入園料はかからない。

 
去年はみんな一緒にスタンプラリーをして、観覧車に乗ったが
今年は雨の日が多かったり、職場移転のバタバタで
数人グループごとに行くことになった。

 
私は室内作業などを担当することが多く、なかなかそこに行けなかった。

   
 
スタンプラリー最終日
私は午後からそこに行くように言われた。

スタンプラリーのほとんどはもう埋まっていて
あと二つスタンプを押せば乗れる。

 
利用者Aさんは今年も観覧車に乗れるかずっと気にしていて
「真咲さんと乗りたい。」とその方が言ったことで
私が担当になったらしい。

 
利用者Bさんもまだ観覧車に乗れていなかったので
一緒に行くことになった。

 
駐車場に着き、まずはスタンプを取りに行く。
Aさんは緊張から歩くのがおぼつかない時があり、その日も上手く歩けなかったので、腕を組んで歩く。

腕を組んで歩くと歩けた。
だからやはり精神的なものが理由なのだろう。

 
私はその公園の勝手が分からないが
Bさんはそこによく行くらしく、「スタンプの場所はここです。」と案内してくれた。
頼もしい。

 
Bさんはゆっくり歩くAさんと私に合わせて
時々後ろをクルッと振り返り、待っていてくれた。
優しい。

 
Bさんが案内した先には確かにスタンプラリーのスタンプ台があった。
スタンプを押し、観覧車を目指す。

葉桜になってきたが
そこは桜がまだ咲いていた。

桜をバックに写真を撮る。

 
更に歩くとスイセンがキレイで、また利用者と撮り
遊園地の看板を見たらまた私は写真を撮った。

 
「写真はもういいから観覧車行こうよ。時間になっちゃう。」

Bさんが言う。

 
私はフフッと笑いながらBさんの後ろをAさんと歩く。
時間はまだ一時間以上余裕であった。

早く観覧車に乗りたいのだろう。

ワクワクするBさんがかわいかった。

 
観覧車の前で最後のスタンプを押す。
これでスタンプが揃った。

 
観覧車はカラフルな色で
いくつかはイチゴの模様で、一つだけ花柄だった。

 
私は去年イチゴの観覧車に乗った。
どうせ乗るなら今年もイチゴか花柄に乗りたい。

 
公園も遊園地も春休みだから混んでいたが
観覧車は私たちの前に一組の家族のみで
私達の後ろには誰も並んでいなかった。ラッキーだ。

というのも
Aさんは階段も緊張してなかなか登れなかったからだ。

後ろに人がいたら、気を遣うところだった。

 
前にいた家族がイチゴの観覧車に乗りたがったので
私も図々しく、花柄の観覧車に乗れないか頼んだ。
Bさんもイチゴか花柄に乗りたがったからだ。

了承してもらえてラッキーだった。 

他の曜日に行った方々は混んでいたと言っていたので本当にラッキーだった。

 
観覧車が来た。
まずBさんがヒョイと乗り込む。
次にAさんが乗り込もうとしたが、なかなか足が出ない。
私、係の人二人も来たが、Bさんはタイミングよく乗れず、観覧車を停めるようになった。

これも後ろに人がいなかったからラッキーだった。

 
ようやく乗り込んだ観覧車で、フゥ、と一息。
中も花柄でかわいらしい。

 
どんどん上空へ上がっていく。
見下ろす景色はキレイだった。

AさんとBさんも喜んでいた様子だったのでよかった。

 
降りる時もBさんは苦戦したが
なんとか降りられたのでよかった。

 
「挟まってます~!」

後ろからBさんの声が聞こえる。

どうやら降りる時に服の裾が挟まったらしい。
一難去ってまた一難だ。

 
観覧車を降りたら、園内を歩いた。
近くでは大道芸人がショーをやっていた。

 
長い風船を飲み込んだり、ジャグリングをやったり、椅子に椅子を重ねて逆立ちをしたりしていた。

次々に繰り広げられる技に
拍手が止まらない。

Bさんは大道芸が好きなので喜んでいた。

 
チラッとAさんを見た。
Aさんは楽しんでいるだろうか。
「怖い?」と尋ねると頷いたので
私はAさんと離れた場所に行き、座って休んだ。

そういえば、前に手品ショーを見た時も怖がっていた。

 
やってしまった。

私は内心反省した。

 
それでいてこう思わなくもない。

行きたがった割に、歩かないわ観覧車への乗り降りもおぼつかないわショーは怖がるわでは、行かなくてもよかったのでは、と。

もちろんそんなことは思いはしても本人や保護者には言わない。

 
Bさんに関して言えば
ずっと楽しんでいたようだったのでよかった。

 
とりあえず帰り際にAさんの保護者には、大道芸人に怖がっていたことを伝えた。

 
次の日のことだ。
Bさんからの連絡帳には楽しかった旨が書かれ
Aさんからの連絡帳にも楽しんでいたようだったことが書かれていて
心底ホッとした。

 
「うちの子は感情表現が苦手ですみません。でも昨日は帰ったら喜んでいたんですよ。」

保護者からそう直接も言われた。
その言葉に安心した。

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