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どしゃ降りの雨とその光

うちの施設は駐車場が少し離れている。

送迎時は利用者と車を取りに行ったり、その離れた駐車場まで利用者と歩いてその場で乗ることもある。

 
その日、利用者Aさんと歩いて駐車場を目指していると
ポツ、ポツ…と雨が降り出した。

 
天気予報では晴れのち曇りで、予報よりも晴れ間があったし
空はまだ雨が降りそうな空でもなかった。

確かに夕方に雨が降るかもしれないとは言っていたが
まさかこのタイミングとは思わなかった。

 
濡れながら車に乗り込み
他の利用者を誘導したり、カサを取りに行く時に更に濡れてしまった。

 
どしゃ降りの中、送迎車を走らせる。

一人目の利用者、二人目の利用者までは降りる時に小雨だったが
あとはAさんを降ろすだけ、というところで再び雨は強くなり、雷まで鳴り出した。

 
外には出たくない。

そんな雰囲気の中、Aさんの保護者が出てきたので私も意を決してカサをさして車から降りる。

凄まじい雨だ。カサをさしても雨が吹き込んでくる。

 
いつもより手短にお互いに話し
再び勢いよく車に乗り込む。

 
それから五分もしないうちに雨が小雨になった。
光もさしてきた。
お天気雨か。通り雨か。

うっすらと濡れながら私は職場に戻った。

 
 
その日、私は珍しく残業をした。
いや、しようとした。

 
「今日はもう残業しないで帰りましょうよ。」

リーダーが言い、施設長や事務長も片付け出す。
こういうことはたまにある。やる気出したと思えばこれだ。

 
移転して初めてリーダーと二人並んで帰った。
雨はもうすっかり止んでいた。

 
駐車場までは徒歩五分と遠い。
その遠さが今は愛しい。

 
リーダーを見る。

真っ黒なツヤツヤな髪に白髪が一本混じって見える。
ほどよい肉付きの背中、大きな手、笑うと線になる目。

優しい目。

穏やかなソフトな話し方。声。

 
どうしてどれもこんなに愛しくてたまらないのだろうか。

 
一分一秒が尊くて、話が止まらない。

 
私の新しい駐車場の位置はリーダーのすぐ近くだった。
だからこうして帰り道が一緒になると
どの職員より近くで「お疲れ様でした。」が言える。

 
こんな人が彼氏なら。
こんな人が旦那なら。

そう何度思っただろうか。
奥さんが羨ましい。

 
私もリーダーのような人と出会い、愛されたなら
結婚や妊娠を心から望んだかもしれない。

 
今朝は久々に、元彼の夢を見た。

朝起きてハッとなる。

リーダー、リーダーと心が騒ぎながらも
心の奥底には必ず一人の人がいる。

 
未練とか、まだ苦しい、とかではない。
一緒にいる方が楽しかったけど辛かった。

 
そんな時を経て今の私がいる。

私がいる。

 
誰かをまた心から愛する時が私にも来るのだろうか。

そんな自分は何度想像しても現実的ではない。

 
だからリーダーにキャッキャできる自分にホッとする。
あぁまだ人を好きになれるのだな、と。憧れであっても。

 
どしゃ降りの雨の日
なんて日だと思った。
こんな日に送迎担当なんて、と。

でもあの雨がなかったら
今日一緒にリーダーと帰れなかった。

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