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いつもの朝のはずだった

それはいつもの朝だった。 

 
予定通りに利用者を迎えに行き
そしたら車内で利用者が不穏になり
運転手である私に後方から本を投げてきた。

下手したら怪我をしたし
下手したら事故になりかねない。

私は利用者を怒った。
それに対して利用者がまた怒ったり、泣いて謝ったりをした。

 
始まりはいつもの朝のはずだった。
だけど始まってみれば朝から大変な朝だった。

不穏になったからといって何もかもを許すわけにはいかない。

 
私と利用者は狭い車内でしばらく戦いだった。
利用者が落ち着き、ルールを守るまでは施設内に入れるわけにはいかないからだ。

 
朝から戦い、ボロボロになり
だけど気持ちを切り替えてさぁ今から作業を開始しようとした時
まさにその時だ。
ポケットに入れておいたスマホが震えた。

 
…前の職場の上司からの電話だった。

 
一瞬間違えかとも思ったが
それにしては電話は鳴り続けている。

 
退職してからは電話をしてはいないし
元職場ではなく、個人携帯からかけているのも気になった。
私は仕事中だが、時間帯を考えると元上司も仕事中だ。

ただごとではないと思った。

 
私は電話に出た。

利用者を見ながら支援を頼まれていたので
利用者のそばで電話に出た。
近くには前施設長もいた。

 
要件は、元利用者が休日に私に会ったと話しているが会ったかどうか、もしくは最近その辺りでその利用者を見掛けたかどうかという
予想外のものだった。

 
退職以来その利用者に会っていないし
その場所に私は一年以上行っていなかった。
だからそう伝えた。

 
「何かあったんですか?」という私の問いに「ちょっとね。」とにごしていた。

朝一の電話やにごしたところからすると
相当な厄介事があったのだろう。

 
その要件の後はまるで何事もなかったかのように近況を聞かれたりしたが
なんせ周りに利用者や前施設長がいたので私はろくに話せなかった。

 
多少話して、電話を切り
前施設長に詫びた後
私は気持ちを切り替えて作業に取りかかった。

 
いつもの朝のはずだった。
それがまさかの朝になった。
朝から心がかき乱された。

人生とは何が起こるか分からない。

 
 
今日はどんな朝になるだろう。

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