動物の看護師さん 動物・飼い主・獣医師をつなぐ6つの物語/保田明恵
甥っ子が小学校高学年の頃、「獣医師になりたい。」と教えてくれた。
今は中学生なのだが長年夢は変わらず、勉学に励んでいる。
叔母の目から見た甥っ子は優しくて真面目で
人にも生きものにも丁寧に接する印象がある。
だが、正直成績はそこまでよくはない。
獣医師になるためには難関大学への進学が必須であるし、大学の数もあまりないのが現状だ。
甥はまだ世の中に仕事がたくさんあることを知らない。
動物と関わる仕事というと、獣医師やトリマーしか知らなくて、獣医師を目指しているのではないか。
そんな思いが私は秘かにあった。
私もかつて甥と同じくらいの年に福祉職になりたかったが、当時は高齢者と関わる福祉職しか知らなかった。
福祉=高齢者だと思っていた。
ボランティア活動や職場体験で軽い違和感を覚えた後に、私は障害者と携わる福祉職の存在を知り、学校卒業後はそちらの道に進んだ。
障害者福祉の道で働いて14年。自分では適職だと思っている。
甥が中学校三年生になり、高校受験を控えた頃、姉(甥にとっては母)がいない二人きりの時に
「獣医師になりたいのか分からなくなってきた。」
と初めて漏らした。
長年抱いていた夢に疑問を抱くようになったのはむしろ成長の証だろう。
私はこのタイミングで甥に初めて、動物と関わる仕事は獣医師やトリマーが全てではないと伝えた。
まずは普通科の高校に進学し、自分の心に嘘をつかず、やりたいことをやってみると、道はどこかで繋がると伝えた。
甥は改めて将来について考えたのだろう。
進路や迷いや不安を色々と口に出し、一時間近くもガッツリと話した。
そんな風に甥と話して間もない頃、偶然私はこの本を本屋で見掛けた。
愛玩動物看護師、という動物の看護師の資格が国家資格であると私は初めて知った。
獣医師よりも甥は愛玩動物看護師の方が向いているのではないか。
そう感じた私はこの本を手に取り、レジで会計を済ませた。
調べてみると、動物看護師は最近まで民間資格しかなく、愛玩動物看護師が誕生したのは本当に最近で、初の国家試験は2023年だという。
甥が就職する頃には資格の知名度が上がり、就職先が増えるのかもしれない。まだ未知数だ。
様々なフィールドで働ける獣医師とは異なり、愛玩動物看護師はその名の通り対象はペットで、働く場所は動物病院のようだ。
動物看護師は今のところは給料があまり高くなく、圧倒的に女性が多いらしい。
本書では動物看護師として働く六人が紹介されている。
どのような経緯で動物看護師の道を選んだか、働き出してどんな大変なことややりがいがあったかが描かれている。
ページ数は200ページほどでサラッと読めるが、読んでいて泣いてしまうことも何回もあった。
ペットの老化、認知症、癌。別れ。
ペットの寿命は人間より短いから、別れに関わる回数も多い仕事のようだ。
動物は言葉を発することができないから、早期発見をするためには膨大な知識と経験と家族との信頼関係が大切なことが描かれていた。
私が動物看護師の方の仕事でパッとイメージしたのは処置の時に動物をおさえておく役割だった。
(動物の種類や性格により、おさえ方も多種多様で新人看護師泣かせらしい。)
しかし本書を読み進めていくと、仕事は幅広く、夜間専門の方や癌専門の動物看護師の方もいるらしい。
また、一番大切なのはご家族と関係を築くコミュニケーション力のように感じた。
看護師の仕事を私は把握しきれていないが、通院した時、看護師の方と関わる時間はそんなに長くはない。
だが、対人ではなく、動物が相手の動物看護師の場合、ご家族と話をじっくりする時間が長い印象があった。
獣医師とご家族の橋渡しの役割が強いのだろう。
動物看護師としてバリバリ働くには、たくさんの勉強も必要だと感じた。
症状や動物や家族の状況に合わせて細やかに対応するためには、時に休みの日にも勉強は不可欠のようだ。
夢は変わる時もある。
甥の人生は長い。
今は目の前の私立高校受験が最重要だし、その先に県立高校受験が待っている。
また甥と進路や職業について話す機会があったら、私は動物看護師の話をしてみようと思う。
もっとも、甥はもう知っているかもしれないけれど。