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社会人の新年会

一昨年のクリスマス会の時
リーダーが劇の台本を書くと知った。

 
「真咲さん、書いてもいいよ。」

 
そう言われた時から
一年後、どうなるか薄々気づいていた。

 
去年の秋
クリスマス会の話し合いがあった。

私の職場は利用者が出し物で何をやりたいかを決める。

 
そんな中、利用者が何をやりたいか決まった後
職員が割り振られた。

「劇は真咲さんがいい。」

他の職員はリーダーにより振り分けられたが
私だけは利用者によるお誘いで決まった。

利用者から誘われるのは嬉しいものだ。

 
 
劇チームは利用者数名に職員3名。
去年よりも人は少なかった。

 
去年はジブリ映画を自分達流にアレンジしたが
今回はそれぞれがやりたいキャラクターになる、という要望があった。
それぞれにいれたいシーンもあった。

「劇チームは真咲さん中心で進めてください。台本も真咲さんが書いてください。」

施設長はサラッと言い
私は頭を抱えた。
この展開は予想がついたが
それでもいざ言葉にされると
ズシッとのしかかるものがある。

 
私はリーダーに相談しながら台本を書いた。
持ち時間は15~20分だったので
台本は8ページに及んだ。

 
まず最初にリーダーに見てもらい、添削をしてもらおうと思い
ある週の金曜日帰る前に
リーダーの席に置いていった。

ドキドキした。

自分が書いた台本を見せるなんて
まるでラブレターを渡すような緊張に近い。
まして今回はオリジナルストーリーなのだから。

 
だが
週明けに私を待っていた言葉は「まず最初は新施設長に見せた方がいいから、渡しておいたよ。」という言葉だった。

 
信頼関係が築けていない新施設長に自分が書いたものをまず最初に見られるのは
何かの嫌がらせか何かのようにすら感じた。

 
私は毎日毎日ドキドキしながら待った。
手直しをするなら早い方ががいい。練習が進まない。

 
だが
新施設長は何も言わず
答えがもらえたのは渡してから1週間後だった。

「いいと思いますよ。」

まさかの、一発OKだった。

 
それならそれで
早く言ってほしかった。
毎日毎日ドキドキしていたのに。

「今年は真咲さんが台本書いたのね。すごいわ。もうなんでもできるわね。」

事務長はそう言って拍手してくれた。
それが嬉しかった。強いて言えば、新施設長にも労われたかった。

 
あとは練習あるのみ、と言いたいところだったが
私の職場ではクラスター派生し
クリスマス会の出し物発表は新年会に延期になった。

 
正直
11月以降は多忙だった為
延期は心底ホッとした。

 
だが

戦いはもちろんこれからだ。

 
台詞を覚えられないが
台詞を増やしたい人。

衣装を凝りたい人。

自分の出番が待ちきれずに動き回り、台詞を被せてしまう人。

小道具をもっと増やせと言う人。

苛々して小道具を壊そうとした人。

劇が上手くできなくて苛々して不穏になる人。

 
本来ならば職員3人がつくはずなのに
練習時、ほとんど職員は私一人で対応した。

何の嫌がらせかと思った。

 
一人では手が足りず
利用者がギャーギャーわめき
私は頭を抱えるばかりだった。

 
台詞を覚えられない。
声が小さい。
動きを覚えられない。

明らかに一昨年の劇よりも
不出来だった。

 
それが私の責任のようで嫌だった。

 
劇チーム以外の同僚は私の苦労を分かってくれ
「台本の出来がすごい。」
「劇はもう来年からなしにした方がいいよ。」
と言ってくれた。 
ありがたかった。

保護者や利用者からも劇の台本を労われ
それが力になった。

 
劇の練習が進んだところで
新施設長から指示があり
その指示に従うとなると
職員が足りないことになった。

本番はもう一人職員を増やすことになった。

 
だが相変わらず
練習時は私一人か職員がもう一人入るくらいだった。

 
職員と利用者が集まり
全員で練習できたのはわずか二回。

同僚さえ、役の動きや台詞を覚えていない。

 
失敗の未来しか見えなかった。

 
 
なんで私ばかり。
なんで私ばかり。

そんな思いばかり膨らんで苛々した。
早く新年会が終わればいいと思った。

 
当日。

同僚がメイクをしようと言い出した。
私はメイクが得意じゃないし、他のチームはメイクをしないから
劇チームも今年はメイクをしなくてもいいと思った。

まぁあなたがやるのなら…

と、思ったが
土壇場で「私は忙しいから真咲さん、やって。」と言われた。

とんでもない。
言いだしっぺはあなただろ。

とは言えず、私は新人さんにヘルプした。
新人さんも私と同じですっぴんで勤務しているくらいだが 
「やります!」と言ってくれて手伝ってくれた。

 
神がいる、と思った。

新人さんは利用者にバッチリメイクをしてくれた。
他の出し物担当なのに、本当にありがたい。

 
本番は、失敗だらけだった。
練習通りの状態だ。

でもまぁ、みんなが楽しんだのならそれでいいのだろう。
「利用者が楽しんでくれればいい。」
そう口にする人も何人かいるが
本当に…いいのだろうか。

 
同僚は反省会の時に援護射撃をしてくれ

「利用者は自分のレベル以上を求めすぎだし、その割に台詞も覚えていない。衣装トラブルもある。職員の負担も大きい。
来年は要望云々ではなく、劇の出し物はやめた方がいい。」
と言ってくれた。 

それに対して新施設長は何も言わなかったけど
でも
言ってくれて嬉しかった。

 
新年会では写真撮影も私だった。
写真撮影をし、周りの同僚からの写真も集め
それでSNSに載せるまでが私の仕事だ。
もちろん、残業だ。

「いつも遅くまで大変ですね。お疲れ様です。」

そう労ってくれるのは
SNS更新時間をしっかり見ている保護者だ。

 
見ていてくれる人はいる。

新施設長からは指摘ばかりされて自信は持てないし、信頼関係は築けないけど
でも
中には見ていてくれる人もいる。

 
去年の新年会は私がレクリエーション準備をし
司会進行し
お昼を頼んで取りに行った。

 
去年は去年で大変だったけど
今年は更に更に大変だった。

 
人生はひたすらに乗り越えなければいけない壁の連続だ。

仕事はまだバタバタだが
とりあえず出し物発表が終わって心底ホッとした。

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