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税理士の先生が知っておきたい雇用をめぐる最近の法律問題#7 労働時間(7)

「働き方改革」といった言葉で表された一連の労働法規制の改正が行われてから数年、雇用関係をめぐっては続々と変化が現れてきています。この連載では税理士の先生方にもぜひ知っておいていただきたい、最近の雇用をめぐる法律問題をご紹介していきたいと思います。
今回は前回に引き続き、残業代をめぐる裁判で事業主が抱える支払額が高額になるリスクについてご説明します。今回のテーマは「付加金」です。


1 未払い残業代は裁判をすると2倍になる?

残業代について記載されたウェブサイトを見ていると、「残業代は裁判で請求をすると2倍請求することが可能です」、といった表現を目にすることがあります。
一見するとそんな馬鹿なと言いたくなるような表現ですが、あながち間違いではありません。これは、残業代などが未払いの場合に、いわゆる元金や遅延損害金とは別に、付加金というものを支払うように命じることができるとされているからです。

2 付加金とは

付加金とは、使用者が労働者に一定の金銭を支払っていない場合に、裁判所がその金額と同一額の支払を命ずることができる制度です。
具体的には、解雇予告手当や有給休暇の賃金、時間外労働や休日労働への割増賃金が支払われていない場合に問題になります。審理の結果未払いがあることが認定され、裁判所が判決で支払いを命じる場合に、元金と同一額を支払うよう命じられることになり、実際に、多くの判例で、付加金の支払いが命じられています。
例えば100万円の未払いがあるという事件でも、未払い残業代として100万円、付加金として100万円を支払え、という判決が言い渡されるのです。

3 必ず認められるのか?

もっとも、付加金についてはあくまでも裁判所が命じることができるという形で規定されているだけで、絶対に命じなければならないわけではありません。事案によっては認められていないケースや、命じられているケースでも一部に留められているケースもあります。

4 判決の場面でなければ付加金の問題は生じない

付加金について大事なポイントは、あくまでも裁判所が判決を言い渡すときに命じられるものであるという点です。
なので、残業代の請求を受けた場合に、請求を争っていたとしても最終的に主張が認められないと判断をして、判決の前に支払いをしてしまえば、残業代の不払いがある、という判決は言い渡されませんので、付加金を支払えという判決も言い渡されません。
また、和解の場面でも、判決ではないので付加金を考慮した和解条件の協議となることは一般的にはないところです。

5 正しい理解と状況を踏まえた適切な判断が重要

いずれにしても、残業代の請求を裁判で受けた場合、企業側としては付加金の支払いは大きなリスクとなってきます。専門家のアドバイスを踏まえ、適切な対応をしていくことが重要になるといえるでしょう。

【執筆者プロフィール】
弁護士 高井 重憲(たかい しげのり)
ホライズンパートナーズ法律事務所
平成16年 弁護士登録。
『税理士のための会社法務マニュアル』『裁判員制度と企業対応』『知らなかったでは済まされない!税理士事務所の集客・営業活動をめぐる法的トラブルQ&A』(すべて第一法規) 等、数々の執筆・講演を行い精力的に活躍中。

第一法規「税理士のためのメールマガジン」2023年7月号より

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