大学教員の採用人事を知る2―書類審査編

大学教員は本当に「運」か?

前回の記事【大学教員の採用人事を知る1-応募書類編】は、こちらの想像を大幅に超える反響があった。公開からたった数日で反応があるという事実は、自分がこの記事を書き始めたことは正解だったことを教えてくれる。


本当はもう少し時間をかけて全編完成させるつもりであったが、確かにこの時期は公募が多く出る時期でもあるので、急いで第2回、第3回にとりかかることにした。

大学の専任教員になるのはほとんど「運」で決まる。自分は比較的若く採用されたが、自分が他人より優秀だからだとは思っていない。まして採用の現場を知るようになると、ますます優秀だから決まるのではない、ということが分かってきた。

一方で、「運」だけで決まるものでもないことは確かだ。ごく一部の例外をのぞいて、大学教員になるには段階を踏まないといけないからだ。このステップを正しく踏みあがってきた人だけが、「運」を手繰り寄せることを許されるのである。この「正しいステップの上がり方」が何なのかは、別の機会に解説することにしよう。確かなことは、このステップだけは文系も理系も共通だということだ。

その書類に自信はあるか?

私は、かつて100校落ちていたことはすでに書いたとおりである。そんなにも落ちていたのに、書類を出す前はいつも「今度こそ大丈夫だ」と信じて出していた。いま思い返してみてもおかしな話であるが、当時の自分は「次は絶対に通る」と信じて出していた。

若かったといえばそれまでだが、その一言で片づけるには問題の根は深すぎた。なぜかというと、その自信に根拠がなかったからだ。良い書類の書き方もわからずに何日も時間をかけて書いて、その費やした時間だけを「根拠」に自信を深めていたのだ。

公募の応募書類は種類も多く、また仕上げるのに時間がかかるものも多い。パソコンの前でああでもないこうでもない、と文章をこねくり回すこと数日間、ようやく出来上がるものなのである。

しかし、自分が書類審査に通って面接にいったときの書類は、いずれもあまり時間をかけずに仕上げたものばかりであった。せいぜい数時間である。当たり前であるが、書類審査に通る書類の良し悪しは、仕上げに費やした時間の多さではない。

かつての自分は、不安を払拭したいがために、「やっている感」「やりきった感」を求めていただけなのだ。だから時間をかけた書類に「自信」を持っていたのだ。しかしそれは誤りであると気づいた。そこから、本当に「通る」書類は何かを考えはじめたのである。

この記事を必要とする人へ

この記事は、全3回シリーズの中核をなすものだ。というのも、書類審査を経て面接によばれた応募者は、全員に採用の可能性があるからだ。つまり、書類審査をパスすれば、採用は本当にすぐそこなのだ。

だから、この記事は採用人事の中核であると同時に、公募の核心であるといって過言ではない。前回の記事で足きりを免れ、今回の記事で書類審査を通過すれば、次は面接をクリアするだけである。採用のプロセスの中で、もっともブラックボックス(何が行われているか外部から見えにくい)である書類審査について、丁寧に解説していく。

この記事は、以下の書類について言及する。

①履歴書・研究業績書

②教育の抱負

③今後の研究予定

この3つは、ほぼすべての公募で要求されるものである。これらの書類を書かずに済む公募は珍しい。加えて、これに授業案(シラバス)を要求するところも少なくない。この記事では独立して取り上げないが、話の中で授業案にも少し触れるつもりである。

この記事では以上の3つについて、特に「人事担当者は書類の何をみるか」について書いていく。前回の記事(有料部分)で言及した通り、人事担当者には物理的な限界がある。それを前提に、人事担当者が書類を読むときに注目するポイントを解説していく。

内容を少し先取りすると、書類審査の段階で業績数はどのように評価されるかや、送るべき業績(論文)は公募内容によって変える必要があること、書類作成時には就活でいうところの業界研究のようなものが不可欠なこと、などが書かれている。

なお、今回の記事は13,000字を超える膨大な情報量となっている。実に原稿用紙30枚以上、論文に匹敵する文字数である。書類審査は公募の最も大事なところなので、それだけ伝えるべきポイントも多く、この分量になってしまった。しかし各章の最後に「まとめ」をつけたので、そこをガイドに全体を読むと各章のポイントが一度でスッと頭に入ってくると思う。

今年も公募の季節がやってきた。私自身、今年も人事を担当している。実際に送られてきた応募書類などを参考に、具体例を示しながら書いている。これから書類を出す人にとって、この記事ほど手助けになるものはないと確信している。

それでは早速すすめていきたい。

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