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【読書録】哲学はこう使う(堀越耀介)を読んで

堀越耀介著「哲学はこう使う 問題解決に効く哲学思考「超」入門」(実業之日本社、2020年)をご紹介します。

本の内容について

この本は、哲学思考という考え方を身につけるための本です。

まず、哲学が「学問としての哲学」と、私たち個人が考えたいと思ったことについて自らの頭で考える「個人の中の哲学」に大別できるとすると、この本では「個人の中の哲学」を扱っています。そのため、ソクラテスやカントなど有名な哲学者の言葉や解説などはほぼ登場しません。あくまで、哲学思考とはどのようなもので、哲学思考を身につけるためにはどうしたらいいのかを書いた本です。

この本では哲学思考のメリットや、哲学思考の概要、哲学思考において大切な「問い」を立てる時のポイント、思考を深める方法などについてはもちろん、他者と一緒に考える「哲学対話」について紙幅を大きく割いて説明しています。これは、一人で考えるだけではなく、他者と対話することでより建設的に思考を深めることができるためです。このことから、この本が理論を説明するだけではなく、実践を通して読者に哲学思考を身につけてもらうことに重点を置いていることが分かります。

大事だと思ったこと

ここからは、私がこの本を読んで特に大事だと思った箇所について深くご説明していきます。

真実への探究心を持って、自分だけの答えを見つけること

哲学思考は答えのない問題に対して自分なりの回答を見つけるための思考法です。自分の価値観を見直し言語化することで思考を深め、自分だけの答えを見つけようとします。しかし、一度答えを見つけたと思ったからといって、その答えに固執する必要はありません。時間が経ったり、他者との対話を通じて考えが変わることは良いこととして受け止められます。哲学においては、自分の考えや主張を変えずに一貫性を持つことよりも、真実に近づくことの方が重要だからです。

他の誰かの答えはインターネットですぐに見つけることができますが、時間がかかったとしても、自分が大事だと思うことに関しては自分の頭で考え、ときには他者と対話しながら自分なりの答えを見つけていきたいと思いました。さらに、自分の主張を曲げないことよりも真実に近づくことを重要視する哲学の考え方は私にとって新しい価値観でした。真実に近づくことを自分のプライドよりも大事にできるようになりたいと思いました。

問いに答えることによってわからないことを増やす

哲学思考では、考えたいテーマを決めたら、問いを立てます。例えば人生の幸せについて考えるとしたら、「何をもって人生は幸せといえるのか?」のような質問を考えます。ここで例えば「家庭を持って毎日穏やかに過ごすこと」という答えを思いついたとしましょう。哲学思考ではここからさらに、「人の集まりは何を持って家族と呼べるようになるのか?」「なぜ幸せのために家族を持つ必要があるのか?」「他の誰かと家族になにたいのは自分が幸せのためなのか?」など、さらに問いを立て「わからないこと」を増やしていきます。問いを派生させることを通して、マイルストーンと呼ばれる、自分自身の頭で考えて吟味した言葉の定義や問いを増やし、それらを振り返りながら問題の核心に迫っていくのが哲学思考です。

問いを派生させることによってわからないことを増やし、自分の前提や価値観を見直して言語化するという作業は時間も労力もかかりますが、自分の考えを整理することで、意見や主張にまとめやすくなったり、他者に共有しやすくなる効果があると思っています。私自身、自分が今後どんな仕事をしたいのか分からず、自分の価値観について問いを派生させて整理してみましたが、今まで言葉にしていなかった前提や価値観が沢山出てきたことに驚きました。言語化する前は実体がなかったこれらの前提や価値感が、言語化することによって考えやすい形に変換できたような気がしました。思考を深めるためには、普段意識していないような根本的な前提や価値観まで言語化することが大切で、問いを派生させていくことはそのための有効な手段だと分かりました。

自分の自律性を尊重する

この本の中では哲学思考に必要なマインドがいくつか紹介されていますが、その中でもセルフ・リライアンスが特に私の印象に残っています。

信頼できる人や親密な関係を持つ人の意見であっても他人の意見に迎合せず、自分の「自律性」を尊重して自分の頭で考えることが哲学思考では重要です。自分が誰かを大切に思っていたり、好意を持っていたりすることと、その人たちの意見の真偽や正当性は切り離して考える必要があります。他人の意見を受け入れるのではなく、自分の思考を信頼して、自分の頭で考えることによって哲学思考に必要な「問いを重ねていく力」を育むことができます。

この本を読んで、「自分の力で考えることに自信を持つ」ということの大切さに気付かされました。哲学思考を使って考えるような問題には自分しか答えを出すことができず、そして、自分の頭で考えて出した答えにしか価値はないのだと思います。答えのない問題には間違いもないので、自分で考えることを恐れず、今までの人生で経験してきたことを元に形成されている自分の価値観や考え方をもっと尊重し、信頼してあげたいとを思いました。

さいごに

今はインターネットや書籍などに沢山の情報が溢れていますが、この本を読んで、自分の頭で考えて答えを出すことの大切さに気がつきました。私はこの先のキャリアについて明確なビジョンがなく不安に思っていたので、自分の価値観を言語化するために問いを重ねる練習をしてみましたが、自分自身と向き合うことによって、自分が大切にしていることが少しわかったような気がしました。自分が答えを出そうとしている問いに対して、なぜその問いが大事なのか、どんな前提があるのか、自分が使っている言葉は自分にとってどんな意味があるのかなど、「自分が問いについて考える」状態から「問いについて考える自分を考える」に枠を広げて考えることで、自分だけの答えに辿り着き、同時に自分という人間に対しての理解も深まると思いました。もっと自分の考える力を信頼し、日々哲学できるようになりたいので、いつか哲学対話にもチャレンジしてみたいと思います。この本を通して、哲学をより身近に感じ、考えること、真実に近づくことの楽しさが少し分かったような気がしました。最後まで読んでいただきありがとうございます。


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