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太平洋戦争時といまの日本は似ている

だんだん似てきた、と思う。何がって、太平洋戦争末期の日本といまの日本がだ。戦争はしていない。けれど、アベノミクスが始まってから、経済的には無謀ともいえる「金融緩和」を続けてきた結果がいまの日本の身動きがとれない状態を生んでいる。

経済や金融の素人は「いつでも、どんな時でも」よく効く魔法の特効薬を求める。 そしてそれに副作用があるという認識がない。 だから「積極財政を」「消費減税を」と平気な顔で言える。 確かにそれが有効な時もある。 デメリットの方が小さい時もある。 それが今なのかを考えないのが素人だ。

いま、日銀のBS(バランスシート)がどうなっているか、知っているだろうか。2020年の時点で、下記のグラフの通りである。いまはもっと膨らんでいる。買い手のない日本国債を買い続け、もはや日銀なしでは国債を消化できないまでになってしまった。

アベノミクスが始まった時の「黒田バズーカ」は、あの時の「真珠湾攻撃」と一緒だ。真珠湾攻撃当時の指揮官、山本五十六は「対米開戦した場合、一気にカタをつけないと勝利はない」と思っていた。アメリカの底力を良く知っていたからだ。日銀総裁の黒田さんも同じだろう。中央銀行の本来の役割は、物価の安定。景気の底上げではない。日銀のBSを使ってデフレを脱却しようというのは、あくまで非常手段だったはずだ。

もちろん黒田総裁もこの非常事態から撤退しようとした。2017年あたりで、日銀が国債を売り始めたことがある。これはテーパリングといい、先進国の中央銀行も非常事態の時に債券などを買い込んだ後にみんなやっていることだ。いわば常識。

しかし新型コロナの不景気の波が訪れ、そこで戦線を縮小できなくなってしまった。太平洋戦争時の日本軍と同じ。北は中国東北部から、南は太平洋の島々まで、西はフィリピンやビルマまで。フィリピンやサイパンでの戦死は、餓死だったという話がいまや定説となっている。 コントロールできる範囲を超えて膨らませれば自滅が待っている。 それも常識だ。しかし当時の日本人は真面目に「日本は勝利する」と信じていた。

いまの日本人も同じである。非常事態に慣れ過ぎて「日本銀行が国債は全部引き受けてくれる」と思い込んでいる。国家の歳出の3分の1が国債費となっている現状でも「積極財政を」「消費減税を」としれっとした顔で言う。これは恐ろしいことだ。非常事態だけに使うべき劇薬を常備薬にすればどうなるか。副作用で、健康がむしろむしばまれる。これも常識だ。

ではなぜ金融緩和を止めないのか?止められないのだ。日銀のBSに在庫となってへばりついている長期国債は低金利時に発行されたものばかり。いま金融緩和を止めれば市中金利の上昇で債券価格は下落し、評価損が生じる。評価損が出ている状態で売却すれば実現損となる。自滅だ。戦線が拡大しすぎれば、撤退は大きな犠牲を伴うのだ。

先日、日経新聞が「日銀の債務超過のリスク」についておそらく初めて記事にした。勇気ある行動だと思うし、もっと注目されてしかるべきだが、他のメディアではこれをほとんど取り上げていない。太平洋戦争中にも「もう日本は負ける」と言っていた人がいただろう。だが、「本土決戦を!」の声にかき消された。いまも、同じだ。日銀のBSは無限ではない。膨らませすぎた代償は、そのまま円の大幅な減価となって国民全員に跳ね返る。そしてそれは、すでに、静かに始まっている。(終わり)

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