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「告白」しづらいこと>私の場合

ほんとうの年収を切り出せないでいる君の三倍稼ぐ女は

2022年2月12日、NHKラジオ「文芸選評」で取り上げていただいた作品です。選者の加藤千恵さん、読んでいただき、ありがとうございました。
番組中で加藤さんはお友達のお話をされていました。彼女は、独身の時にすでにマンションを買って、それを婚活の時に相手に言うと「引かれた」と言っていたそうです。加藤さんがおっしゃられていたように「いまはだいぶそういうことはなくなっているかもしれないけど」、私が結婚適齢期だったころには、男性より年収が格段に高いとか、子供のころに苦労して育ってきているという、本当ならプラスに評価されてしかるべきことが「マイナス」ととられる風潮がありましたねえ。まあ、平成初期から中期の話ですから。

面倒な女ですけどいいですか君の気持ちの重さをはかる

私は20代の頃、大学の先輩と交際しており、彼に結婚を申し込まれて断ったことがあります。その後友人がいろいろと男性を紹介してくれたのですが、どうもしっくりこなくて。いわゆる婚活サークルに入ったこともありますが、そのたびに「あー自分は結婚したくないんだ!」ということを自覚しておしまいになっていました。

一方、誰かに好かれてお付き合いすることは、時々思い出したようにあり、40代の前半までは結婚しようと思えばできるパートナーがいました。しかし結婚しよう!とはならなかった理由の一つに「年収格差」と「仕事に対する考え方の違い」があったように思います。

六本木で働いてますそっち系でなくあっち系です残念ながら

30代の半ば、私は外資系金融の世界に足を踏み入れました。日本の一般的な企業と違い、うかうかしているとリストラされる厳しい世界です。しかしその分、任される仕事の責任も大きく、やりがいがあり、いい意味でのスリルを感じる環境でもありました。日本の同業では50-60歳の人が社長や役員になりますが、外資では40代、早ければ30代からそういった立場に立つことができます。私も同じ世代の日系の人に比べれば、2倍から3倍以上の年俸を受け取っており、ボーナスも実力主義なので、いい仕事をすれば普通のサラリーマンの年収より格段に多い額を手にすることができました。

戻れない道などなくて絶対は忘れてしまえ空に綿雪

同業あるいは同じ会社内で恋愛をすればパートナーとの収入格差や仕事に対する価値観の違いはなかったのでしょうが、私の相手はたまたま趣味で知り合った人。例えば、日本の会社に勤め、仕事は定時で上がり、アフターファイブは趣味に打ち込むというタイプの人でした。仕事帰りと週末を会わせて年間100以上も夜のジャズライブ(またはサッカー観戦)に行き、それがアイデンティティになっています。一方、夜は時差のある海外の拠点とやり取りしないといけない私はそれに付き合い切れませんし、たかが趣味にそこまでがんばらなくてもと、違和感がぬぐえませんでした。そもそも仕事が面白いなら、趣味で夜中まで起きているはずもないのです。

愛と言ふ妄想ひとつ手放して生き抜くことも勇気なりけり

そのパートナーと別れた時、彼が言ったことはいまでも覚えています。「君は、仕事が忙しい忙しいと言いながら仕事を辞めないし・・・」(そういえば彼は前の彼女が常に自分と一緒にいてくれないので別れたと言っていました>じゃあ私と付き合うなよ。)私は彼に自分の年収はおろか、自分の仕事がどれだけ楽しいか、やりがいがあるかを積極的に語りませんでしたが、それは自分の仕事にストレスを感じているらしい彼が聴く耳を持たなかったからでもあり、私から彼へのせめてもの気遣いでもありました。彼は「仕事は辛いもの」と信じており、そのストレスを解消するために趣味に没頭していると自ら話していたからです。

出張で海外に行くときはビジネスクラス、泊まるホテルはリッツ・カールトン(他)という当時の私にとって、私がお金を出すからと言っても安いホテルに泊まりたがる彼との交際は溜息混じりでしたが、相手に合わせることも「愛」だと思ったので目をつむっていました。しかし、愛が自分にとって苦痛であるのなら、それを手放す勇気も時に必要なのでしょう。彼と付き合っていた時に気持ちがふさぎ、病気がちだった私はいま、とても健康で幸せです。(終わり)


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