見出し画像

ユニクロ化する思考

ツイッターはバカの再生産装置

私は常々、ツイッターはバカの再生産装置だと思っています。中でも2021年の夏、東京オリンピックの開催時、いっせいに「コロナ予防のために中止すべき」のツイートがあふれたのには本当に驚きました。
論理的に考えれば、(ワクチン接種が進んでいない)首都圏の市中感染に(関係者の8割がワクチン接種済の)五輪開催が及ぼす影響はゼロに等しいことくらいは、無観客開催になった後では素人でもわかることだろうと思っていたからです。

明確な因果関係がないにも関わらず、オリンピックという大きなイベント(すでにさんざん税金を投入した後で…)を「中止」という世紀の愚行を支持した人たちはそれを正義と信じて疑わない口調でした。どうやら、彼らを煽っていたのは野党をはじめ、政府自民党を目の敵にする「自称リベラル」の人だったようです。彼らはコロナ予防の観点より「自国開催の五輪は国威発揚に利用されやすい=右翼」「五輪は商業主義で資本主義の犬=体制派」というイメージから、五輪を悪と決めつけていたようです。

「いいね」とRTはプロバガンダに集まる

こうした「決めつけ」と「論理的思考の放棄」がSNS上で簡単に起こるのは、感情的で単純な主義主張の方が多くの人に受け入れられやすく、共感が得られるからでしょう。
「東京五輪と首都圏の市中の感染の相関は低い。そもそも具体的な寄与度を出している専門家が皆無だ」と論理的に説明しても、大衆には受けません。それより、某野党の党首のように「五輪止めて命まもれ!」とキャッチコピーを叫ぶ方が「いいね」もリツイートも得られますね。
これはまさに「プロバガンダ」以外の何物でもないのですが。

「バッハ会長はぼったくり」「五輪は選手のためではなくて一部の権力者のためのもの」と悪人(金持ちや、政治的な力のある人)を作ってそれをバッシングするのも典型的なプロバガンダです。権力や金のある人をねたむ心に付け込んだもので、拡散しやすいパターンだと言えます。結果として、このプロバガンダに多くの人が踊らされていたわけですが、踊っている方は「正義」の祭りにでも参加している気持ちになっていたのでしょう。

思考のユニクロ化>理屈じゃない、感情の発露

このようなプロバガンダは「いいね」やRTを集めることで「世論」になります。参加している方にそのつもりがなくても、ある意図を持った集団に結果的に利用されてしまうこともあるでしょう (検察庁法案の廃案が一例)。

逆から見れば、ツイッター上で「いいね」とRTをたくさん獲得して人気者になりたいのであれば、自分の発言をとことんまでわかりやすく、単純化し、かつ感情に訴えるものにすればいいのです。私はこれを「思考のユニクロ化」と呼んでいます。このユニクロ化された思考は、論理的かつ実証的な裏付けがなくても成立します。

大衆は論理や科学的な証明など求めていません。彼らの感情、例えば東京五輪のケースではコロナウイルス感染に対する「恐怖」と外国から来る人たちに対する「隠れた差別心」を刺激すれば足ります。無意識の恐怖や差別心が「コロナ予防」という理由で正当化されるので「東京五輪反対」を叫ぶことは叫んでいる人に快感をもたらすのです。

「留学生は国の宝」への反発も同じ

最近は、これと似た現象が東京五輪に反対したリベラル層とは逆の、右寄りの人たちの間で起きています。それは「(日本への)留学生は国の宝」とした政府自民党の発言への反発です。ツイッター上では「日本の宝は日本の学生!なぜ留学生を優遇するのか?」など、排外的ともとられかねない糾弾が起きています。これがなぜ右寄りの人から出ているかは、最初に「留学生を受入れないのは残酷」としたメディアがリベラル側だったからでしょう。

この反発は「東京五輪反対」と同じ「外国人への差別心」「恐怖」から来ているものと思われます。日本はエネルギーや食糧を外国に頼っているので、日々外国との貨物や人の行き来はあるわけで、留学生が来ても来なくてもさほど大きな影響はないはずです。また日本では東京五輪の開催時よりも多くの人(8割近く)がワクチン接種済であり、高齢者は現在3回目の接種中でもあります。当の留学生にもワクチン接種済の人は多いでしょう。
そのため「(たかだか15000人程度の)留学生を受け入れたからと言ってコロナ感染拡大の大きな原因になるとは思えない」が論理的な考え方です。

また留学生に日本が資金援助することについて「日本の学生にはしないのに」等の反発については「多くの留学先から日本を選んでくれるのだから、優遇策を取ろう」(彼らが将来母国に帰った時に日本の味方になる可能性に投資する)という趣旨とかみ合っていません。日本の学生が日本で勉強するのはデフォルトであり、わざわざ日本に留めるためにお金を払う意味はないのです。むしろお金のある学生は欧米など海外での勉強を選ぶでしょう。日本語という世界では何の役にも立たない言語を話すことを前提に、さらに先進国では給与水準も低い方になった日本に来てくれる留学生が「貴重な存在」という意識がないから言える言葉だと思います。

右も左も同じようにユニクロ化

このように「右だから」「左だから」とは無関係に、極端な主張はユニクロ化されて拡散されます。東京五輪中止が主にリベラル派だったのに、中身は似ている「外国人留学生が国の宝なんて!」が右派に指示されているのを見ても、彼らの頭の中は論理的に整理されておらず、全く同じ「恐怖心」「差別心」という感情を刺激されているだけなのです。

実は「恐怖心」「差別心」はこれ以外のユニクロ化した思考セット、主張に共通しています。証拠としてツイッター上でよくみられる思考セットの例を紹介します。右に私の「突っ込みどころ」も添えます。

ユニクロ化した思考セット(右寄りバージョン)

★「中国には強い態度で臨むべき」(中国への恐怖心、差別心)>(突っ込みどころ、以下同じ)中国への経済依存度が高い日本がそんなことできるわけない。やったら最後、日本の経済はおしまいです。
★「ジェンダーギャップ指数は間違っている」(女性差別を正当化)>日本の賃金の男女格差は先進国トップクラスですよ。
★「フェミニストはおかしな主張をする偏った人たち」(同上)>フェミニストとは本来「男女同権主義」の意味。あなた方がバッシングしている変わり者は少数派です。普通の女性は基本的にフェミニストです。
★「留学生優遇はおかしい」(差別心、恐怖心)>わざわざこんな日本に来てくれるんだからありがたいと思わないと。
★「太平洋戦争は間違ってない」(差別心、過去の過ちを正当化)>いや、間違ってない戦争なんてどこにもないって。
★「多様性というならガラパゴス化を認めないのはおかしい」(差別心、恐怖心)>多様性を理解してない証拠。多様性のある社会では、みな相互理解のために共通言語を使うので、ガラパゴス化とは相入れないんです。

ユニクロ化した思考セット(自称リベラルバージョン)

★「改憲反対!平和憲法は決して変えてはならない」(恐怖心、現状維持)>敵が攻めてきたらどうやって守るんですか?
★「五輪は国威発揚に利用される」(愛国心への恐怖心)>いまどき国のためにがんばる選手なんぞ日本にいませんよ。国威発揚の国威って何?
★「アベ総理はプーチンと親しかったから悪人」(偏見、恐怖心)>総理なら隣の国のトップと握手もするし親しそうにもするでしょう。
★「検察庁法案反対!」(恐怖心)>年金の支給開始年齢が上がるから単に公務員の定年を一律上げるだけの話だったのになんで個人が優遇される話に変わってるの?裁判官の定年はもっと長いけど。
★「竹中・パソナは悪」(偏見)>彼らが何をしたと?非正規雇用の待遇が悪いのは日本企業の生産性が向上しないからと正規雇用が守られているからでしょう。海外にも非正規雇用はありますよ。
★「ワクチンは陰謀!」(恐怖心)>そんな陰謀、誰の役に立つねん・・・
★「政府はもっと支出を増やせ!」>(右側にも見られる発言ですが)日本の財政赤字対GDP比率がどれだけあるか知ってますか。これだけ赤字を積み重ねても経済成長してないんだから効果ないってことじゃないですか。

という具合に、右も左も突っ込みどころ満載なのがユニクロ化した思考です。まあ、こういうユニクロセットを頭に飼って発言を繰り返せばSNS上の友人はたくさんできることでしょう。その友人関係が本当に意味のあるものかどうかはおいておいて。(終わり)




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?