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クリスの物語(改)Ⅲ 第二十二話 理由

『ところで』と、クレアがクリスと紗奈の間にずいっと割り込んだ。
『今回来た目的だけど』

 クリスは身をのけ反らせながら「そうだ」と言った。
 なんでまたクレアたちがやって来たのかが疑問だった。

『結論から言うと、また迎えにきた』
 まるで近所に住む友達のような調子でクレアは言った。

 やはり、クリスの思っていた通りだった。エランドラとラマルのドラゴン二頭が連れだってきたということは、きっとそうだろうと踏んでいた。
 しかし、理由が分からない。アクアはすでに手に入れ、もう義務は果たしているはずだ。クリスのその疑問に答えるように、クレアが言った。

『わたしたちがアクアを手に入れたのを皮切りにイグニス、テラ、カエルムも無事に中央部は手に入れたみたいなんだけど、ウェントゥスの入手に少し手間取っているようなの』
 “ウェントゥス”といえば、風光都市にあると言われる風のクリスタルエレメントだ。

『でも、それだけ手に入れていれば、闇の勢力が地球を滅ぼすような心配はないのでしょう?』
 横から紗奈が質問すると、クレアは体をねじって紗奈の方を振り返った。

『まあ、それはないはずだけど。でも中央部や銀河連邦の目的は、最終的には地球をアセンドさせることだからね。ひとつでも闇の勢力に奪われてしまったら、消滅は避けられるとしても、闇の勢力からの干渉を受け続けてしまって、地球や人類はアセンドできずに3次元と4次元の狭間で停滞してしまうからね』
 そう答えると、クレアはまたクリスに向き直った。

『だから、クリスにもまた手伝ってほしいの。ウェントゥスの獲得には、フィオナっていう子が任されているんだけど、他にもイグニスやカエルムを手に入れた選ばれし者たちも応援に向かっているみたい』
 実際にクリスタルエレメントを手に入れた実績のある選ばれし者が他にも応援に駆け付けているというのなら、十分ではないだろうか。

『クリスが来てくれた方が、やっぱりそれだけ手に入れられる確率も上がるでしょう?だから』
 クリスの思いを読んだのか、クレアが言った。

『でも手間取っているってことは、それだけ危険も高いんだよね?』
 アクアを手に入れたときに、クリスは実際に何度か死にかけている。ピューラのおかげで救われたとはいえ、それは運が良かっただけにすぎない。
 実際にボラルクも犠牲になってしまったし、それに何人もの兵士が命を落としていた。いくら地底世界の学校で体術や魔術を教わり多少力がついたと言えど、闇の勢力を相手にするとなったら不安が残る。

『危険が高いってわけじゃないと思うけど・・・。まあ、多少危険はあるかもしれないけど』
 あいまいにクレアは答えた。ということは、やはり危険は避けられないのだろう。

「でも、クリスは行くべきだと思ってるんでしょう?」
 クリスの横へ来て、紗奈が言った。たしかに、紗奈の言う通りかもしれない。

 闇の勢力の手から逃れて地球上から戦争や貧困がなくなり、人々が平和に暮らしていくためにクリスタルエレメントを揃える必要があるのなら。そのために自分の力が必要とされるのなら、行かないわけにはいかない。
 しかしいつもそうだが、あまりに急すぎるために心の準備が整わないのだ。

『もちろん、今から行くんだよね?』
 意味のない質問だとは思いながらも、クリスは聞いた。
 向こうへ行ってどれほど長く留まることになったとしても、地上の現実世界では時間がほぼ経過しない。だから行くと決まれば、クリスたちの都合はあまり関係ない。

『うん』
 クレアも当然、というようにうなずいた。

 クリスは紗奈に視線を向けた。クリスの決意を読み取った紗奈は、クリスの目を見てうなずいた。
 それから『もちろん、私もついていく』と、思念で語った。クリスはうなずき返した。

 しかし、その前に解決しておきたい問題があった。田川先生の件だ。
 昨日の事件の首謀者は、本当に田川先生だったのか。もしそうだとして、その目的は何だったのか。
 旅立つ前にスッキリさせておきたかった。

 それで、クリスは昨日あったことをエランドラに相談した。優里が悪魔を召喚するようになった経緯についても、優里から聞いたまま簡単に話した。


第二十三話 事情

お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!