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クリスの物語(改)Ⅲ 第二十四話 守護存在

 セテオスへ到着すると、いつものようにネイゲルが迎えに来た。
 優里についても、ネイゲルは大手を広げて歓迎してくれた。そしてジェカルに乗って、一行はメシオナまで案内された。
 その間、優里は目を覚ますことなく眠ったままだった。

 今回クリスたち一行が案内されたメシオナは、以前利用したものよりもさらに広くて豪華だった。それに、前回よりもエルカテオスに近い場所に位置していた。
 一定の間隔をあけて隣接するメシオナはどれも大きく、まるで高級住宅地のようだった。

『アクアを手に入れた功績が認められて優遇されたのね。きっと』と、室内を見回しながらクレアが言った。

 ネイゲルは優里を両腕に抱えてベッドまで運んでから、前回と同様クリスたちのエネルギー調整が済んだ頃また迎えにくると言って去っていった。

 メシオナには、クリスたちのピューラがすでに用意されていた。配布されたオーラムルスとテステクを手に、クリスと紗奈はそれぞれ割り振られた部屋へ行った。

 ピューラに着替える前に、クリスはベベと一緒に温泉の湧き出るラプーモで体を洗った。
 ラプーモは上がるときに水の粒子がはじかれて瞬間的に渇くため、タオルで体を拭く必要もない。そのため、毛むくじゃらのベベも乾かす手間がかからないので楽だった。

 ラプーモから上がると、クリスはベベに首輪型のオーラムルスをはめてピューラを着せた。ピューラを着たベベは『やっぱり、これじゃなくっちゃ』と、はしゃぎながら宙を飛び回った。

 クリスとベベが最上階のリビングへ戻ると、エランドラが導きの石“ルーベラピス”のはめ込まれた短剣をクリスに手渡した。クリスはそれをテステクと一緒に腰に差した。
 それから、リビングの中央で宙に浮いたソファ“クテイラ”に座るクレアとラマルのところへ行って、そのひとつに腰かけた。
 紗奈はまだ部屋から戻っていなかった。

『そういえば、桜井さんひとりで部屋に残してるけど大丈夫かな?目が覚めて見知らぬ場所にいるってなったら、少しパニックになるんじゃない?』
 向かいに座るクレアにクリスが尋ねた。
『それは、別に大丈夫だと思うよ。彼女にもオーラムルスを起動してはめてあるから、起きたらオーラムルスで会話ができるし』

 クレアにそう言われて、クリスはオーラムルスの人物表示を確認した。すると、ベベの隣にしっかりと優里の表示があった。
 詳細を開くと、優里の寝ている姿が表示された。クリスはそれをできるだけ小さく表示させて、視界の片隅に追いやった。そうすれば優里が起きたときに気づくことができるし、優里にもクリスの顔が見えるはずだ。
 クリスがそんな風にオーラムルスを操作していると、紗奈が部屋から上がってきた。

 ピューラに着替えた紗奈もラプーモに入ったようだ。紗奈の髪から、シャンプーの甘い香りが漂っていた。
 隣に座った紗奈に、クリスはオーラムルスで優里を表示させておくように伝えた。

 そこへエランドラもやってきて、クリスとクレアの間のひとり掛け用のクテイラに座った。オーラムルスの操作を終えた紗奈が『ところで』と、エランドラに話しかけた。

『守護ドラゴンのことで聞きたいんですけど』
『ええ。何かしら?』
 微笑みを浮かべて、エランドラは首を傾げた。

『クリスとエランドラは、どうして契約を交わすことになったんですか?』
『そのようにもう決まっていたからよ』
『決まっていたって、運命っていうことですか?』

『運命といえば、そうかもしれないわね。クリスの魂が地球へ転生することを決めたときにわたしがクリスをサポートしていくことが決まり、お互いに納得した上で契約を交わしたのよ』
『それは、これから先もずっとクリスのサポート役としてエランドラは一緒にいるということですか?』
 エランドラは一度クリスに視線を向けた。それから紗奈に視線を戻すと、首を振った。

『クリスが必要としなくなれば、わたしはまた別の誰かのところへ行くことになるでしょうね』
 それを聞いて、クリスは言いようもない寂しさを感じた。ベベが死んでしまったときのような、みぞおちが抉られるような喪失感があった。

 エランドラの存在を知ってから、実際まだ1年も経っていない。しかしずっと昔からその温もりを胸に感じていた。でもいずれ別れるときが来るのかと思うと、急に不安に襲われた。

 そんなクリスの様子を見て、エランドラは『大丈夫よ』と言った。

『その頃には、クリスの中から寂しさという感情は消え失せているわ。すべてがひとつという一体感。つまり、すべてが愛としか感じられない存在になっているから何の心配もいらない。逆に言えば、寂しさを感じてしまう内はわたしはあなたと共にいるわよ』
 エランドラはそう言って微笑んだ。それからまた紗奈に視線を戻した。

『でも、魂が生まれたときにみんなドラゴンと契約を交わすわけじゃないんですよね?』
 紗奈の質問に、『ええ、もちろん』と言ってエランドラはうなずいた。

『でもクリスにはエランドラがいて、クレアにはラマルがいるし、優里にも守護ドラゴンがいるのでしょう?』
 紗奈のいわんとすることを理解したのか、エランドラは紗奈に笑いかけた。

『サポートする存在は必ずいるわよ。わたしたちみたいなドラゴンではないとしても、他の守護獣であったり、守護天使だったり。その魂ごとに、サポートするにあたってより適した存在があるのよ。つまり、相性のようなものね。サナにはたしかにドラゴンはついていないわ。でもサナを守護する存在は必ずいるし、いずれ必要なときに姿を現すでしょう』

 エランドラのその話を聞いて、紗奈は安心したように笑顔になった。それから『わたしを守護してくれる存在ってなんだろう?』と、嬉しそうに言った。

『うん。なんだろうね。ていうか、ドラゴン以外にどんなのがいるんだろう?』とクリスが答えると、『色々いるよ』とクレアが言った。
『ペガサスとかユニコーンとか、フェニックスとか。あとはフェンリルにキマイラにスフィンクスに、えーと・・・』
 指を折りながらクレアが守護存在の種類を挙げていると、ラマルが『ねえ』と声をかけた。

『なによ?』
 一生懸命思い出そうとしていたのを邪魔されて、不機嫌そうにクレアがラマルをにらむと、ラマルがぼそっと『起きたみたい』と言った。

『え?あ、本当だ』と、視線を逸らしてクレアが言った。
 オーラムルスに映し出された優里は、ベッドの上で起き上がってキョロキョロと不安そうにあたりを見回していた。

「桜井さん」
 優里にフォーカスして、クリスが手を振った。

「え、クリス君?あれ?何これ?」
 状況が飲み込めず、優里はオロオロしていた。

「今からそっちへ行くから、待ってて」
「え?うん。わかった」
 クリスの言葉に、優里は困惑しながらもこくりとうなずいた。


第二十五話 いきさつ

お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!