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クリスの物語(改)Ⅲ 第二十三話 事情

『ふーん。なんか色々あるのね』
 話を聞き終えると、理解に苦しむというようにクレアが顔をしかめた。

『でも、そのタガワって人は、闇の勢力に関与している人なんじゃないの?本人が意識しているかどうかは別として。それで、クリスを闇の勢力の仲間に引き入れようとしたのかもね。ねえ?』
 同意を求めるように、クレアはエランドラの方を振り返った。

『どうかしら。でも仮にもしそうだとしたなら、その方は偶然ではなく意図してクリスの前へ現れたことになるでしょうね』

 エランドラの言葉を聞いて、クリスは考え込むように腕を組んだ。
 田川先生は、吉田先生の代わりに赴任することになった先生だ。ということは、吉田先生が突然体調を崩して長期療養に入ったのは、田川先生の手によるものだということだろうか。

 仮に田川先生が闇の勢力の人間で、クリスを仲間に引き入れるために近づいてきたのだとしたら、紗奈や優里を操ってアーマインを召喚しようとしていたことも辻褄が合う。

『じゃあ、もし悪魔を呼び出して紗奈ちゃんたちを操っていたのが田川先生で、田川先生が闇の勢力に関わっているなら、それを手伝った二人も闇の勢力に関係しているのかな?』

 視線を落とし、少し黙り込むと『記憶と一緒に場の情報まで消されているわね』と言って、エランドラは小さく首を振った。

 それを聞いて、クリスと紗奈は顔を見合わせた。場の情報まで消されているとなると、闇の勢力が関与していることは間違いないだろう。
 つまり、昨日の事件が闇の勢力にとって何か不都合な情報を含んでいることになる。田川先生が闇の勢力の人間であることに、ふたりは確信を持った。

『でも恐らく優里の悪魔召喚を手伝ったその二人は、闇の勢力とは関係ないわ』とエランドラは続けた。
『何か理由があって指示されるまま動いたのでしょう。もう関わってくることもないでしょうから、気にしなくても大丈夫よ』

 たしかにその二人は悪魔を目にして怖くて逃げ出したくらいだから、さすがにもう首謀者の指示を受けようとは思わないだろう。しかし逆に見てしまったから口封じのために殺される、なんてこともあるんじゃないだろうか。
 クリスのその懸念に対して『その心配はないわ』と、エランドラが言った。

『先ほども言ったように、手伝った二人もすでに記憶を消されているでしょう。だから大丈夫よ』
 なるほど。悪魔に記憶を消させることもできるわけだから、何も殺す必要はないのだ。

『いずれにしても、闇の勢力が実際にクリスたちのところへ干渉し始めてるとなると、やっぱり早いところ手を打っておいたほうが良さそうね』
 腰に手を当てて、クレアが言った。

 それを聞いて、クリスは得心がいった。
 すべての問題は、クリスタルエレメントを全部揃えて地球がアセンションしてしまえば解決する。
 クリスが決心したところで、「優里はどうしよう?」と紗奈が言った。すると『ああ。その子も連れていくよ』と、クレアが答えた。

『え?そうなの?なんで?』と聞いたクリスに、『ん?』と逆にクレアは不思議そうな顔をした。
『だって、その子もドラゴンと契約しているからね。連れていってあげた方がいいと思う』
『本当?』
 クリスと紗奈が同時に聞き返した。

『うん。本人はまだ気づいてないし、まだ出会ってもいないみたいだけどね。でもここでこうしてわたしたちと出会ったってことは、連れていく必要があると思う』
『そうなんだ・・・』

 クレアの言葉を聞いて、紗奈は少し気を落とした。
 優里があまりにすんなりと地底都市への切符を手にしたことに加えて、優里には守護ドラゴンがいる。なんだか、自分だけ置いてけぼりになったような気がした。

『でも、桜井さんの気持ちも聞かないで連れて行っていいのかな?』
『大丈夫だよ。本人もきっと喜ぶはずだよ。それに、守護ドラゴンもそれを望んでいると思う』
『へーえ』と言って、クリスは優里の方を振り返った。

『それじゃあ、桜井さんの守護ドラゴンは地底世界にいるの?』
『それは分からないけど』と、クレアは肩をすくめた。

 まあ、でもエランドラも反対しないならいいかとクリスは思った。向こうへ行ったとしても、ほぼ同じ時間にこっちへ戻ってこられるわけだし。
 校舎の壁掛け時計は、3時50分を示していた。

『まずは、セテオスに行くんだよね?』と、クリスが尋ねると『うん』とクレアがうなずいた。
『セテオスに行って、それからまたアダマスカルに乗って風光都市まで行くよ』
『そうしたら、ミラコルンを取りに家に寄りたいんだけどいいかな?あと、ベベも連れて行きたいし』
『別に構わないよ』
 肩をすくめて、クレアは言った。


第二十四話 守護存在

お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!