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クリスの物語(改)Ⅲ 第二十八話 優里の特性

 ペテラから手渡されたピューラは、紺色の長袖のワンピースだった。金の糸で刺繍が施されている。
 そのデザインは紗奈やクレアのものとも違い、幾何学模様が全体的にあしらわれたものだった。

 渡されたピューズは紗奈と同じくバレエシューズのような形をしたものだが、その色はダイヤモンドのように光る紗奈のものとは真反対のブラックパールのような漆黒のきらめきを放っていた。

 試着室に案内された優里は、早速ピューラとピューズを身に着けた。体がふわりと軽くなり、足元を見下ろすと紗奈やクレアたちと同じように数センチ宙に浮かんでいた。
 優里は嬉しくなって、鏡を見ながらその場でくるっと回転した。すると、畳んでクテアに置いておいた着替えがふわっと飛んで地面に落ちた。

 優里は首を傾げ、落ちた服に向かっておもむろに手をかざしてみた。それから手に意識的にパワーを送った。
 すると、服と靴が飛んでいって壁にぶつかった。
 思った通りだった。どうやら風が操れるみたいだ。優里はワクワクと興奮して、試着室の中で色々と試してみた。

 試着室から出てきた優里は、頬を紅潮させていた。どうやら優里は自分の特性に気づいたようだ。
 勘がいい娘だ、とペテラは感心した。

 応接スペースで待つ紗奈とクレアの元へ戻ると、優里は着替えをクテイラの上に置いて意気揚々と紗奈に声をかけた。

「ねぇ、紗奈見て」と言って、優里は両手を広げて地面にかざした。
 すると優里の体が竹とんぼのようにくるくるっと回って天井に届くほど高く舞い上がった。

「え、すごい・・・」と、紗奈が感嘆の声を漏らした。
「へぇー。テンプスドラゴンね、きっと。風や天候を操れるのよ」と、向かいに座るクレアが感心するようにうなずいた。
「すごいじゃん、優里!」
 紗奈は立ち上がって、優里のそばへ駆け寄った。

「どうやって分かったの?」
「うん、なんとなくだよ」と、優里は照れるように顔を赤らめた。
「なんとなく風が起きるなと思ったら、意識的に風が起こせたの」
「へぇーいいなぁ」と言って、紗奈は嫉妬と羨望の眼差しを向けた。

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 ベスタメルナへ向かった三人が帰ってきた。優里は元々着ていた洋服を手に、仕立ててもらったピューラに身を包んでいた。
 優里のピューラはあまり見かけない紺色だったが、切れ長の目に小さな赤い唇をした優里には、その濃紺のピューラはとても似合っていた。

「ねえ、優里。ちょっとクリスにもやってみせてあげて」
 部屋に荷物を置いて戻ってきた優里に、紗奈が言った。

「え?うん。いいよ」
 照れるようにうなずくと、優里はキッチンのシンクの上に向かって両手をかざした。それから目を瞑って集中すると、シンク上で綿菓子のような白い煙がもくもくと現れた。
 その白い煙がひと抱えほどの大きさになると、バチバチと電気を発し始めた。そして、その煙からシンクに向かって勢いよくシャワーが降り注がれた。

 優里が出現させたその白い煙は、雷雲だった。小さな雷雲が勢いよくシンクに雨を降らせていた。
 優里がかざしていた手を下ろすと、雷雲は徐々に消失していった。

「すごい・・・」
 口を半開きにしたまま、クリスは紗奈の方を振り向いた。
 紗奈もクリスの感想に同意するようにうん、うんとうなずいた。

「それが、桜井さんのピューラの特性なの?」
 優里の方を振り返って、クリスが尋ねた。
「うん。なんかそうみたい」
 優里は少し照れくさそうに頬を赤く染めてうなずいた。
「なんか天候や風を操れるみたいよ」と、紗奈が付け加えた。

「へえ。でも、よくもうその特性が分かったね」とクリスが感心すると、「本当。わたしなんて、ピューラの特性も守護存在が何なのかも未だに分かってないっていうのに」と言って、紗奈はすねるように言った。
 それに対し、「たまたまだよ」と、優里は謙遜した。

『でもそれでもうそこまで操れるのは、能力が高い証拠ね』
 エランドラに褒められると、優里はまた顔を赤くして『ありがとうございます』と頭を下げた。

 するとそこへ、ネイゲルがやってきた。優里を含めクリスたちのエネルギー調整が完了したということだった。
 やはり優里もピューラに着替えたことで調整が加速されたようだ。


第二十九話 風のクリスタルエレメント

お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!