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第86号 てんかん患者の「デジタル脳」の構築に成功、Precision Neuroscience社のヒトへのデバイス埋め込みをどう思いますか?

// 2023年7月17日 第86号
// 1. 今週の注目ニュース:てんかん患者の「デジタル脳」の構築に成功
// 2. 質問コーナー:Precision Neuroscience社のヒトへのデバイス埋め込みをどう思いますか?

こんにちは、東京大学で医師かつ脳や人工知能の研究をしている紺野大地です。

ChatGPTを用いた論文検索が、かなりアップデートされていますね!
以前は「存在しない架空の論文」を提示することが多かったですが、 現在は「実在し、指示に的確にマッチした論文」を答えてくれます。
いよいよ、論文検索に革命が起きるかもしれません。


では、今回も始めていきましょう!

1. 今週の注目ニュース:てんかん患者の「デジタル脳」の構築に成功

今週は元々は「ChatGPTとNoteableを組み合わせたデータ解析方法」についてまとめようかと思っていたのですが、ChatGPTのCode Interpreter の登場という大ニュースがありました。

ChatGPT&NoteableでやろうとしていたことがCode Interpreter単独でほぼ出来るようになったことと、Code Interpreterの使い方は素晴らしい記事が既にたくさんあることから、BrainTech Reviewでは扱わないこととしました。

代わりに今回取り上げるのは、
「てんかん患者の脳データを用いて、"脳のデジタルツイン(Virtual Brain Model)"を構築した」という論文です。

「脳のデジタルツインによるパーソナライズド医療」は、とても楽しみな分野であり、個人的にも非常に注目しています。

まず背景から見ていきましょう。

背景

まずは、この研究の対象となったてんかん(Epilepsy)について簡単に説明します。
てんかんは、脳の神経細胞が異常に活動することで発作が生じる疾患です。
多くの場合、薬物療法によって発作はコントロールできますが、一部の患者は薬物では治療できず、薬剤抵抗性てんかんと呼ばれます。

薬剤抵抗性てんかん患者に対しては、発作の原因となる脳領域(てんかん原性領域, Epileptogenic Zone, EZ)を除去する手術が行われます。
この手術において重要なのは、てんかん原性領域を正確に特定することですが、これは簡単なことではありません。

このような背景から、てんかん原性領域をより正確に、かつ可能な限り非侵襲的に特定する手法が求められていました。
そこでこの研究では「てんかん患者のデジタル脳」を構築し、その有効性を評価することで上記のニーズを満たすことを目指しました。

蛇足ですが、脳のデジタルツインに関連する研究・プロジェクトには本研究の他にNeurotwinというプロジェクトがあります。
このプロジェクトは、「脳のデジタルツイン」を作成することで、アルツハイマー病などに対する最適な脳刺激方法を導き出すことを目標としています。

Neurotwinプロジェクトについては、以前BrainTech Reviewで2号にわたって詳しく取り上げたので、興味がある人はぜひご覧ください😊

以下で、今回の研究の方法と結果を見ていきましょう。

方法・結果

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