20年後も忘れない思い出〜旅の記録5〜
「チャーイ」 「チャーイ」「チャーイ」
朝の5時。
5分毎にやって来る'爆音目覚まし時計'のようなチャイ売りのおじさんの声が、狭い車両内に鳴り響く。
昨夜は早く寝たためか、驚くほどに目覚めが良く、日の出と共に起きられた。
こんなに規則正しい朝はいつ振りだったかな。
なぜか無性にチャイが飲みたくなった。
人間には、何度も目や耳にしたものを欲しくなるし、脳裏にこびり付く傾向があるらしい。
TVのCM、広告全般は最たるものだ。欲しくなくても、ある種の洗脳で購買意欲が刺激される。
僕にも忘れられないCMなんかはたくさんある。
チキンラーメンが無性に食べたくなる時もある。
この時は、チャイ1つ買うのにエネルギーを要した。
1人目のチャイ売りの時は勇気を出せずスルー。
「次で決めるぞ」と自分に言い聞かせる。
2人目のチャイ売りの時、声が届かずにまたスルー。
3人目のチャイ売りを待った。
「次こそは絶対に決めるぞ」と自分に誓う。
しかし今までは5分毎に来ていたチャイ売りが来ない。
「もう買えないのかな…」と悔しがり後悔してた矢先、10分後にやって来た。
この機会を逃せば、もう買えない気がして
全力の大声で
「Excuse me」
と叫んだ。
やっと気付いてもらえて
「1チャイ プリーズ」
と再び叫ぶ。
8ルピー(約13円)を渡し、やっとの思いで念願のチャイをゲットした。
朝のチャイ(ミルクティー)は少し甘ったるかったけど、すごく優しく身体に染みた。
チャイを飲む事は、僕の朝の日課になった。
チャイを買えただけなのに、すごくレベルが上がったような気がした。(←幸せなバカだ)
アナウンスもない列車は本当にどこに着いたのかが分からない。
でも何故かインド人は現在地を知っていた。
僕は駅に止まる度に近くの人に、
「Where are we now?」
と尋ねていた。
いくつかの駅をスルーした後、気を抜いた頃に一応
「Where are we now?」
と尋ねた。
おじさんは言った
「Varanasi(バラナシ)」と。
慌てて荷造りをし、すぐに降りる準備を始める僕。
そして「着いたら教えてあげる」
と言っていた若者を尋ねに行った。
でも、そこにはもう居なかった。
横の席のおばちゃんに
「ここに座ってた若い彼はどこに行った?」
と聞くと
「随分前の駅で降りたよ」
と教えてくれた。
"昨日のは何だったんだよ" と、少し笑いが込み上げてきた。
〜続く〜
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