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死なないためにスマホがあるー「スマホ脳」の幸福を考える⑴

なぜスマホを使うのか?

便利だから?
人とつながりたいから?
みんなが使っているからしかたなく?

では、なんで便利や、人とのつながりや、人と同じがいいのでしょうか?
スマホをテーマにして、少し立ち止まって考えてみましょう。

スマホを使うことについて、なんでなんでを続けてわかってくるのは、
「日々の生活を快適したい」という願い。
では、なんで日々の生活を快適にしたいのか?
それは「死なないため」、つまり生存本能

おおげさに聞こえるかもですが、実際、ホモ・サピエンスが誕生した20万年の歴史のなかで、便利な道具を作ることと、みんなと仲良くすることは、
生きるか死ぬかの大問題
でした。
武器がなければ狩りも戦争もできない。道具がなければ料理もたいへん。
生活を共にする集団から排除されることは、そのまま死を意味した。
人間はずっとそうだったんです。そんなに強い生物ではないから。

生物は本能として、食欲、性欲、睡眠欲、あるいは危険察知能力なんかをもっています。
さらに人間は、テクノロジーとコミュニティへの欲求というものをもつようになりました。
これらの欲求をもたない人間もいたかもしれない。
しかし彼らは生き残れなかった。
20万年の歴史のなかで、この欲求をもつ人間が生き残り、その子孫が私たちです。

人間がテクノロジーとコミュニティへの欲求をもち、それを実現させることができたのは、脳のおかげです。
他の動物と同じような脳機能のほかに、前頭葉のようなオプション機能が搭載されることで、「時間」を意識できるようになった。
今の生存のみならず、将来の安定や、自分の死んだ後の孫の生存まで考えるようになった。史上最も欲張りな生物です。
この強欲さが、文明や国家なんかをつくりだしました。

しかし、生存のためのテクノロジーとコミュニティの追求が、逆に生存を脅かすという矛盾した事態を招くこともある。
核開発や環境問題がわかりやすい例ですね。
そして、世界的ベストセラー『スマホ脳』では、矛盾の産物としてのスマートフォンが現代人にもたらす影響について語られています。

著者のアンデシュ・ハンセン氏はスウェーデンの精神科医であり、スマホというテクノロジーの矛盾を脳の機能から説明しています。


彼はまず「食欲」を例にとる。
目の前に食物があるときに、もっとも生存可能性が高まる戦略は「今すぐ、食べれるだけ食べろ!」でした。
仮に「今日は腹八分にして明日食べろ」という戦略をとった人間がいたとしても、彼らは生き残れなかった。それほど現実は過酷でした。
私たちは「食べるだけ食べろ派」の子孫であり、20万年うまくやってきた。
しかしご存知の通り、現代人にとって「食べるだけ食べろ」は少数派というか、よくないことと考えられています。なぜなら、食べ過ぎは病死のリスクを高める、生存に不向きな態度だからです。

現在の現実はそれほど過酷ではありません。
人類の歴史のデフォルトであった「空腹で危険な状態」はもうない。
飽食の時代に「食べるだけ食べろ」などという時代遅れの生存戦略を採用するべきではない。
それなのに私たちは、いっぱい食べてしまう。
コンビニのお菓子や流行りのスイーツといったあからさまな罠に自ら飛び込んで、一瞬の喜びの後の激しく後悔する。
わかっているのにやめられないエラーを繰り返す日々。

ここに現代を生きる上での根本問題があります。
人類は20万年分の生存戦略を遺伝子に刻み込んできた。
一方、テクノロジーはここ数百年で「空腹で危険な状態」を劇的に改善しました。
しかし、環境が変わったにもかかわらず、現代人は食べるだけ食べろという生存戦略を断ち切れない。
脳に刻まれた命令は、それが生存を脅かす矛盾だとわかっていても、書き換えることも、理性で抑えつけることも容易にはできない。
脳や身体が環境に適応するには、また数万年かかってしまうのです(その間にまた状況も変わるでしょう)。
数万年単位の生物としての進化と、日進月歩のテクノロジーの進展の時間スケールの違いがもたらす矛盾。
脳や身体の生存戦略は、もはや呪縛となり現代人の生存を脅かします。

そして現れたのが、史上最強のテクノロジーであるスマートフォン。
私たちの生存可能性を飛躍的に高める、死なないためのテクノロジー。
人類の矛盾の産物であり、矛盾の穴を埋める道具。
その先にあるものが幸福であるのかは疑わしい。少なくともこのままではいけないというのが『スマホ脳』の著者の主張です。


スマホの矛盾と危険にいちはやく気づいたのは、スティーブ・ジョブズのような作り手たちでした。
かといって夢のテクノロジーの実現を止めることはできない。
せいぜい自分の子供達には使わせないようにするくらい。

「スマホ脳」の時代、私たちに考える時間はあまり残されていない。
スマホという道具との向き合い方を、立ち止まって考えてみましょう。

次回に続く



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