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身元保証とは何か(その2)

【はじめに】

本年3月、高齢者の身元保証の現状及びこれを巡る諸問題についての記事を掲載しました。

実はその直後に、総務省関東管区行政評価局が「高齢者の身元保証に関する調査(行政相談契機)」の結果報告書を公表しました。今回は高齢者の身元保証問題の続編として、上記調査結果をご紹介します。

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【身元保証とは? ~前回のおさらい~】

病気による入院や老人ホームなどへの入居の際は、本人以外の身元保証人が必要となる。そのようなイメージを持たれている方は多いかと思います。

しかし、身元保証の意味を正確に把握することは、実は非常に困難です。というのも、上記のようなイメージで使用する身元保証という用語には法律的な定義がありません。

一例ですが、身寄りがない人の入院等に関するとあるガイドラインでは、医療機関が「身元保証・身元引受等」に求める機能や役割を以下のように整理しています。

①緊急の連絡先に関すること

②入院計画書に関すること

③入院中に必要な物品の準備に関すること

④入院費等に関すること

⑤退院支援に関すること

⑥(死亡時の)遺体・遺品の引き取り・葬儀等に関すること

※平成30年度厚生労働省行政推進調査事業費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)
「医療現場における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究」班
「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」より引用

 

これまで、多くの医療機関や介護施設等では、利用者に家族等がいることを前提として、身元保証人を求めてきた現状があります。しかし、単身高齢者の増加や頼れる親族がいない高齢者の増加等の要因により、家族等を身元保証人とすることが困難なケースがみられるようになってきています。

上記ガイドラインでは、成年後見制度の利用、地域包括支援センターや社会福祉協議会への相談、生活保護担当窓口への相談といった公的な制度や地域資源の活用を推奨しているほか、民間事業者による各種の身元保証等高齢者サービスも増えてきています。

しかし、実際に身元保証人がいないことを理由に入院を断られた事例があるほか、民間事業者による身元保証等高齢者サービスを巡る消費者問題も発生しています。

今回ご紹介する調査も、身元保証人を用意することができず入院を断られたという行政相談を契機になされたものです。



【なぜ総務省による調査がなされたのか?】

前回ご紹介した通り、すでに厚生労働省が身寄りがない人の入院支援のための上記ガイドラインを作成しているほか、都道府県に対し、身元保証人がいないことのみを理由に入院を拒否することがないように関係機関に周知し、そのような事例に接した際は、当該医療機関を指導するよう求める通知を発出しています。

※平成30年4月27日 医政医発0427第2号
「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」

しかし、総務省の行政相談には依然として「入院時の身元保証人がいなくて困っている」などの声が寄せられ、高齢者はもちろん医療や介護の現場も困っているのではないか?という問題意識から調査が開始されたものです。

これは前回の記事で指摘した、身元保証人を求めない建前の国と、未収金リスク等の不安から身元保証人を求めている実際の医療・介護現場とのギャップに着目したものと思われ、個人的に注目していました。


【調査結果の概要】

今回調査にあたったのは総務省関東管区行政評価局であり、全国的な調査ではありませんが、一人暮らしの高齢者のうち約4割が関東甲信越地方に在住しています。関東管区行政評価局の管轄がまさに関東甲信越地方(1都9県)です。

今回の調査結果では、病院・施設の9割以上が入院・入所希望者に対して身元保証人を求めていることがわかりました。また、身元保証人がいない場合に入院・入所を断ると回答した病院・施設は約15.1%にのぼりました。調査対象等が異なるため単純な比較はできませんが、この結果は前回ご紹介した厚生労働省が医療機関に対して実施したアンケート調査の結果を大きく上回るものです。

入院・入所を断る理由としては、

①負担が大きいこと

 ・入院費が滞る事例が少なくない。

 ・何かあったときに誰も何もしてくれない人を簡単には預かれない。

②責任が重いこと

 ・生命にかかわる連絡もあり、24時間リスクを伴う。

 ・治療判断などが困る。何かあった場合に訴訟に発展したらどうするか、解決できない。

 ・治療方針の意思確認や決定、遺体や遺品の引取りなど、行政でも対応できないものは施設でも対応できない。

③退所先の確保や入院支援が難しいこと

 ・次の受入先を探すのが困難になる。

 ・施設としては入院手続や医療同意ができない。

④具体的な対応がわからない

 ・急変時や死亡時の対応がわからないので、指針がほしい。

 ・ルールがほしい。受入れた施設だけがリスクを負っている。

 ・行政に求めても緊急時に動いてくれないため、入所不可としている。

といった回答がありました。

令和4年3月 関東管区行政評価局
高齢者の身元保証に関する調査(行政相談契機)-入院、入所の支援事例を中心として-


【具体的な支援の取り組み事例】

病院や施設としては、一定のリスクを抱えつつも各種支援の取り組みを行っていることもわかりました。また、地方公共団体及び関係団体等も独自にまたは病院や施設と連携して支援の取り組みを行っています。


①緊急連絡先の確保する取組事例

 ・ケアマネージャーや生活保護担当者に連絡を取り、今までの本人の暮らしや関わりがあった人を確認するなどして情報を集めている。また、介護サービス利用時に把握した緊急連絡先を確認している。

 ・身寄りのない高齢者が入所したら、地域包括支援センターに相談し、市区町村、社会福祉協議会、民生委員、住民など地域の関係者による「地域ケア会議」を開催して、緊急時の役割分担をあらかじめ整理しておく。

②入院・入所費を回収する取組事例

 ・入院時に保証金を預かる。

・年金の受取口座を入所費の支払用口座とすることで、入所費が未収となるリスクを低減させる。

③死亡時の遺体の引取り、葬儀等に関する取組事例

 ・死後の対応についての本人の意思や希望を確認する様式を市区町村が作成する。

 ・市区町村が、住民・葬祭事業者間の死後事務委任契約の締結を支援する。

 ・住民が、葬儀等に係る生前契約先の情報を市区町村に登録しておく制度を利用する。

④医療行為の同意に関する取組事例

 ・院内カンファレンスに病院外の市区町村役場職員、ケアマネージャーなどの参加を求め、これら関係者からの情報も参考に今後の医療方針を決定する。

 ・住民が事前にリビングウィルを市区町村に登録する制度を利用する。


【今後について】

本調査結果報告書は、結論部分において、高齢者の身元保証を巡る諸問題の解決に即効薬がないことを正面から認めています。

病院・施設は、制度上は身元保証人がいないことのみを理由として入院・入所を拒むことができないことになっているものの、未収金リスク等から受入に慎重になっている現実があります。行政を含む地域社会の様々な主体がこの問題に積極的に関与することが求められ、具体的な取組を行っている事例があることは前記の通りですが、予算上の制約等もあり全てをカバーすることは困難なようです。

前回の記事でひとつの処方箋として成年後見制度及び民間事業者による身元保証等高齢者サービスをご紹介しました。

本調査結果報告書では、前者については成年後見人選任手続に時間がかかり、受入先がその間の費用負担リスクが負わなければならないことが指摘されています。

また、後者は費用負担が大きく利用できる人が限られること、消費者トラブルが懸念されており、信頼できる事業者かどうか判断できない等の理由から、入院・入所希望者が身元保証人を用意できない場合に「民間事業者を紹介する」と回答した病院・施設は全体の数%にとどまっています。

※消費者庁HP
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/caution_018/


高齢者の身元保証を巡る問題は、今後も公共政策や医療・介護現場の重要テーマとしてあり続けると思われます。

実は、本年8月から、総務省において民間の「身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の推進に関する行政評価・監視」が行われます。これは今回ご紹介したものと異なり、全国的な調査です。調査結果が公表されるのは来年になりますが、機会があれば本コラムで取り上げたいと考えています。

今後、民間事業者の身元保証等高齢者サービスが、消費者にとってより利用しやすいものとなるのか、注目しています。



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