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映画感想「沈黙の艦隊」(Filmarksより)

主題歌目当てで鑑賞。
原作は未読だけれど、詳しい知人から概要は聞かされていた、くらいの認知度だった。

米軍第七艦隊の原子力潜水艦、シーバット艦長に任命された海江田四郎が、初航海の最中驚きの暴挙に出る。さらにその後、明らかになる海江田の目的が世界中を揺るがしていく…。
かつての同胞、深町は海上自衛隊の潜水艦でシーバットを追う事になる。

原作の連載時とは世界情勢が変わり、政治描写や軍備にまつわる部分が時代錯誤になりがちな素材ではあるが…どうだろう、この作品、むしろ現代にこそ刺さるのではなかろうか。
ありがちなのだが、社会風刺を取り入れた過去の作品が陳腐化するどころかより相応しくなってしまうという、現社会の混沌ぶりをフィクションが浮き彫りにする現象。

海によって陸地は隔てられて、そこに国家が存在する。だが真の意味で「人類皆兄弟」を掲げ平和を謳うならば国家の存在こそ疑問視するべきでは?と投げかけてくる作品。そもそも海がなくとも自分たちで国境を作り争っているのが人間なのだが。
とにかく、登場人物たちが生々しい。役者陣が実力派揃いなのは言うまでもないが、政治家たちはこんな感じで言い争っていそうだ、というリアルさを感じた。シン・ゴジラは政治家たちが凛々しかったが、この映画のそれはまさに意思のない、良いカッコをしたいだけの大人たち。アメリカの顔色と、責任の所在ばかり気にしている。海江田はまさにこういう国家に宣戦布告したのだろう。

そして、海江田。
大沢たかお氏の声が良い。海への造詣と非凡な戦略家であることの説得力が、この渋い声に詰まっている。行動はまさに、現実でいえば三島由紀夫のそれだがそこにヒロイズムを感じてしまうのはこの「軍人顔」にあるのだろう。
純粋なイケメンではないが、イケメン成分は深町の玉木宏から摂取できるので絵面の悪い映画でもない。
戦闘シーンもまた、潜水艦バトルの緊迫感を存分に見せてくれるもの。映画ゆえ潜水艦を外側から映すカットがあるので忘れがちだが、海の中は基本的に音だけが頼りの世界。かつて太平洋戦争の時に人間魚雷という非道な兵器を使っていた日本軍だが、それの命中率は高くなかったという話を思い出した。逆に、ハッキリ見える海上のシーンにおいては米軍空母とのすれ違いなど、「見える形」での緊張感もあり楽しめた。

今作、個人的に最も「短く感じた映画」だった。戦闘シーンに固唾を呑んでいるとエンドロールが始まってしまい「あ?」と声が出そうになったものである。
目的だった大スクリーンでの主題歌も、より歌詞が響いてくるもので満足度MAX。
IMAX鑑賞にしたのが、大正解だったといえる。

是非続編を!と思わせた久しぶりの映画。
骨太な男のドラマは、良いものです。
新聞やテレビより、よほど勉強になります。

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