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BANDやろう是 第十一章 本番 3

 やがて会場から客も去り、煌々と全体を照明で照らした観客席に出演バンド全員が集められていた。遂に審判の時がやってきたのだ。
 どうやらこのイベントの優勝バンドは、我が日本が誇る唯一の都会である東京で行われる高校生バンドフェスティバルの最終ステージを県代表として参加できる権限が与えられ、それとその旅費のたしにと金十万が送られるらしい。どうやらこれは愛媛のバンドが是非、どうどうと音楽世界へ飛び出してほしいと松平さんの熱い心遣いであり、愛媛のみの賞与である事を、石川は皆の前で声高に言った。

「おおぉぉぉぉっ!!!」

 皆は歓声を発して、自分のバンドの名前が呼ばれる事を胸ときめかせながら期待して座っているのだろうが、僕は優勝バンドがどこかなんて分かっていた。分かりきっていたと言っても過言ではなかった。
 寧ろ何故期待できるのか分からないといっておこうか。あの空気がひりつくと感じるほどの臨場感と、魂を揺さぶる躍動感を醸し出したバンドなど、このバンド以外に他ない。プロである審査員さえも多分感動させただろうステージ…。そう、『ホワイト・デヴィル』の他あるはずがなかったのだ。
 ステージを終えてからも智さんの細かな震えは止まらないらしく、バンドメンバー全員が私服に着替えている中で、彼だけはステージ衣装を身に纏ったまま、化粧も落とさずに今も僕の横で項垂れて座っている。聞き取れないほどの声で何かを呟いているのだが、微かな唇の動きから「こんなん…じゃない。こんなはずじゃなかった…。」と、まるで自分を陥れる呪文のように延々と呟き続けているのである。
 当然の如くこのイベントに執着を見せていた彼だから、ホワイト・デヴィルのステージを見た時、心の中に何が憑依したのかは僕には分かっていた。その亡霊のような感情とホワイト・デヴィルという怪物に飲み込まれてしまったのだ。
 大ちゃんは脚と腕を組み、きつく目を瞑って、僕に対して智さんの反対側の隣で静かに座っている。彼にも結果は見えているのだろうと僕は確信した。イータダとトースは相変わらず天真爛漫に、二人で声を出さずに天突き体操をして遊んでいた。とりあえず座ったらどうなんだと思ったのだが、何故か誰もけん制しないので、華麗にスルーという行動を僕も取る事にした。
 EARTH HEAVEN、TOM BOY、VELVET ROOM、ホワイト・デヴィル、そしてZEAL。僕達はさておき、他のバンド達も今日は健闘したであろう。…否、TOM BOYだけは僕の中では除外で論外だっ!!!。もし今後ライブで対バンする形で遭遇したなら、全力で豚肉を投げつけてやろうと、熱く骨に刻んだ。
 石川が賞状と金一封を片手にステージの上で立っていた。
「それでは発表しますっ!!!」

『ジャーン!!ドロドロ泥ドロドロ泥ドロドロ泥土路炉絽っっっ!!!』

 他のバンドのメンバー全員目を見開き、石川を見つめている姿を横目で確認した矢先、ホワイト・デヴィルのメンバーが座っていたテーブルだけ、誰もいなかった。呼ばれる前にいないという事は、やはり事前に事は決まっていて、まさかの出来レースという話になってくるのか…?
 何か後ろの方から謎の熱気を感じ、振り向いてみると、イータダとトースの横でホワイト・デヴィルのメンバーが全員横並びに、奴等に動きを合わせて無言で天突き体操をしているではないか。イータダとトースは屈託のない笑顔を満開に浮かべ、それに対してホワイト・デヴィルのメンバーは、何故か無表情であった。

「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!」

 僕は思わず声を荒げて叫んだ。
 僕の声に智さんは一度だけビクッと体を揺らせたのだが、その後はまた同じような状態になった。僕の声に何事かと思ったのか、大ちゃんも後ろを振り向いた。

「なんとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!」

 言葉は違えども、やはり僕と同じ反応でまた、僕と同じ表情になり、しかもそれまた同じく体を後ろに引く、所謂卒倒する形と表現しようか…。
その絵は正しく、ZEAL(一部)とホワイト・デヴィルの、まさかのコラボが音楽ではないにしてもここで実現してしまおうとは夢にも思わなかった。
 いかん。いかんいかんいかんいっかぁぁぁぁぁぁぁぁああんっっっ!!
 今はそれどころではないのだ。まあ、既に分かりきった事なのだが、石川の発表を、平常心で待とうではないか。
「発表しますっ!!!。高校生バンドフェスティバル イン 松山の栄えある優勝バンドは……。」

『じゃじゃーーーーーーーんっっつっ!!!』

「ホワイト・デヴィルの皆さんですっっっ!!!メンバーさんはステージへとご搭乗下さいっっ!!」
 ホワイト・デヴィルのメンバーは即座に天突き体操をやめ、何故か全員イータダとトースとに握手を施してステージへと向かって行った。一体何に対しての握手だったのかは分からないが、ともかく二人とも嬉しそうに顔を綻ばせている。まあ、いいとしようか。
 石川のインタビューに対して特に洒落た言葉も発さず、賞状と賞金だけを受け取ったホワイト・デヴィルメンバー達。というか赤ワッペン。
 ライブステージ上ではあんな繊細な格好、出で立ちだったが、メンバー全員、学ラン丸刈りに戻っていて、あのライブと重ね合わせるにははっきり言うと無理がある。それはそれは、陽炎の中おぼろげに見た白昼夢のようだと僕は思った。
 ホワイト・デヴィル達は一斉にライブ上のような演出をしたのだが、やはり…如何せん…かっこ悪かった。

第十一章 本番 3 終了   第一二章 戦の後 に続く

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