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映画『NOCTURNE』考察

この映画、どうも視聴者数がそもそも少ないようで、私の知りたいことが書いてあるサイトやツイートが見つかりませんでした。というわけでここに書き残しておくことにします。特に最後の友人アレクシスについて、こうじゃないかみたいなのございましたら、ガンガンコメントお待ちしております。

⚠️完全ネタバレ&考え変われば随時追記します。


ヴィヴィアン・ロウという人物

彼女は主人公ジュリエットの双子の姉にあたるわけですが、"双子の姉"というよりは、幼い頃ステージでフリーズしてしまったジュリエットを助けに行ったエピソード、オーディション当日に予期せぬ生理でパニックになりかける妹を諭す時の様子、そして何より最後の最後、控室でジュリエットにぶつける「そのお返しがこれなの?」というような言葉から、"姉"として自覚を持って過ごしてきたであろうことが窺えます。(作中「双子ちゃん」としきりに呼びかけるのがまた…ね)しかしヴィヴィアンの姉としての振る舞いの数々は、もちろんすべてではなかったでしょうが、ジュリエットにとってはおそらく「姉は自分より優れている」ことを見せつけられるということで、だから彼女への"Triumph(大勝利)"を望み、それほど抑圧されてきたということなのでしょう。

ヴィヴィアンもヴィヴィアンで、妹ジュリエットを、本当にただかわいい妹だと思っていたのかというとそうではないように思います。彼女は「自分より劣っている妹」がかわいかっただけではないでしょうか。けれどもいつそれが脅かされるかという恐れも抱いていた。

ジュリエットが初めてキャスク先生のレッスンを受けた際、「ヴィヴィアンとジュリエットの技術にはそれほど差がない」と言っていたのは本当だと思います。でなければなぜ、あれほどにヴィヴィアンはジュリエットが自分と同じ曲を選曲したことに怒り心頭だったのでしょうか。脅威でない相手だったならなんとも思わなかったはずです。(とはいうものの、ひょっとするとクラシック界では他人の選曲に被せることは御法度だったりするのでしょうか…?)

ヘンリー・キャスクという人物

ヴィヴィアンとジュリエットの誕生日会、それからその後の彼の家での会話から、輝かしいキャリアを持っているのは確かなのでしょう。そして講師としても一目置かれている。教え方がつっけんどんではあるものの、プロフェッショナルな雰囲気を醸し出しており、晴れの舞台を明日に控えたジュリエットには励ましの言葉もかけてくれました。がしかし、ジュリエットのキスによって彼はすべてをぶち壊します。今ジュリエットが経験していることがいかに茶番か、それはそれは容赦なく突きつけます。ジュリエットの頬を張ったことで処分を受けたロジャー先生の言葉にはまだ情けがあったように思います。キャスク先生の場合、完全に先生と生徒、つまりは大人と子供という立場を忘れ、ジュリエットと同じ立場に立って彼女の心をズタズタに引き裂きにかかる。生徒(ヴィヴィアン)と関係を持ってしまう、さらには生徒から嫌がられても電話をかけ続けてしまうという性質からも、キャスク先生はその程度の人間だったということなのでしょう。ジュリエットを担当するようになってから、彼女にヴィヴィアンを意識させるような発言をしていたのも、彼の私情(ヴィヴィアンへの復讐的な)もあったのでは?なんて思ってしまいます。もしそうだとするならば、とんだ公私混同のお子ちゃま先生です。

モイラのノートはモイラのものか?

個人的にはあのノートの、楽譜は最初から書かれていたかもしれませんが、絵の部分はジュリエットが書いたものだと思っています。え?拾った時にはもう書かれてあったじゃないか。そうですよね。けれどもそれを見たのは"彼女だけ"です。彼女は作中見たいものだけを見ていた印象です。

マックスからの都合の悪い返信を削除したり、それを口にしたキャスク先生のことは軽蔑したであろうに、「I have someting(私には才能がある)」という言葉は、自分のお守りのようにラストのステージ前に何度も唱えたり…。ノートに書いてあった1〜5は、彼女のずっと抑えてきたであろう願望と合致しており、となるとヴィヴィアンが崖から落ちた際に絵のポーズと見事に一致するか?という話が出てきそうですが、実際は一致していなかった、ジュリエットにそう見えていただけなのだと思います。

ノートの持ち主とされたモイラはジュリエットの友人アレクシスに"Mad Moira(イカれたモイラ)"と表現され、学校では誰とも口を聞かず、彼女の死の直前には母親がスキーのリフトから落ちて脳死状態に、父親が自宅に火を放ったとされていました。ただ、この連鎖が起きるのはありえそうですし、モイラはその大変なショックと、そもそもの音楽家としての重圧に耐えきれなくなり、命を絶ってしまっただけだったのではないでしょうか。壁に文字や太陽を彫っていたのは事実でしょうが、精神崩壊によるものと推測します。

ジュリエットはノートのことをマックスに話す際、モイラの母の転落を、同じく転落した姉ヴィヴィアンに、父の死を暖炉に投げ入れられたタクトを必死に救出するキャスクに重ねていましたが、母の転落=Triumph(大勝利)、父の死=Purification(穢れの浄化)というのはモイラの場合ジュリエットほどピンときません。

あのノートは未来を予言するノートではなく、書かれたことが発生するノートだとジュリエットは言っていましたが、私はジュリエットの目標達成ノートというのがしっくりくる気がします。

ジュリエットは死んだのか?

「ジュリエットは見事にステージをやり遂げた。ラストの死体は彼女のそれまでの精神が死んだという意味で、だから誰も死体に気がつかない」という解釈をどなたかがされていて、なるほどなと思ったのですが、私はジュリエットは飛び降りて本当に死んだと思っています。

その最も大きな根拠が、演奏後の姉ヴィヴィアンのカットです。ジュリエットが見事演奏を終えた後、ちらっと映ったヴィヴィアンは、ものすごく誇らしげに、笑顔でジュリエットに拍手を送っていました。「先を行っていた姉には妹が何を乗り越えたかわかったのだろう」という解釈をなされている方もお見かけしたのですが、それにしては笑顔すぎというか、直前に控室でジュリエットの最大の希望ともいえるジュリアード大のスカウトが来ないことを突きつけたり、前日キャスクによって心をズタズタに引き裂かれて崩壊寸前の彼女に「私たち失敗したのよ。私は怪我を理由にできるけど、あんたはただの凡人」とまで言い放っていました。そんなヴィヴィアンが、演奏後にあんな表情をするでしょうか?

また、ジュリエットが屋上から飛び降りる際、彼女が演奏するはずだった音楽が流れるわけですが、男性のものと思しきピアノを弾く手が映ります。これは代役が、ステージからいなくなってしまったジュリエットの代わりを果たしている(なんとも切ないですが)ということを表しているのではないでしょうか。

あとはジュリエットがフリーズした際、照明だけが映るカットがありますが、あそここそ例の黄色い光に包まれそうなものです。しかしただ舞台を照らすためだけの光でしかない。つまり彼女がステージから逃げ出したということは現実なのだと思います。

「犠牲」が意味するもの

今作のキーとなる"犠牲(Sacrifice)"というワード。もちろんノートのステップ6についてもですが、キャスク先生の話にも出てきました。
ヴィヴィアンとジュリエットの誕生日会の際、クラシック界の未来は明るくないのではと問われたキャスク先生が、タルティーニの話を始めました。悪魔と取引をして『悪魔のトリル』を書き上げたという話ですね。ちなみに個人的にキャスクはこの逸話が大好きな気がします。話し始めた際にヴィヴィアンは呆れた顔をしていたのは「またその話かよ」な風にもとれましたし、ヴィヴィアンを「悪魔が扉の向こうにいるように弾く」、モイラを「悪魔が部屋の中にいるように弾く」と評していたり。

名演奏家というのは全てを捧げた犠牲の姿(悪魔に魂(ソウル)を明け渡したほどの)。これがキャスクの言いたかったことでしょう。それは本当に悪魔が現れてだとかという、オカルトチックな意味合いではなく、精神的な意味合いで。

ジュリエットはこの話の後、ノートにステップ6"犠牲(Sacrifice)"を書き込み恐怖することとなりましたが、私は彼女が犠牲=自分の命ととらえ、それを実行してしまった、けれどもこれで全てのステップを踏んだのだから偉大になれる、そう思って血まみれでありながら恍惚とした表情を浮かべていたことこそ、彼女が凡人であったということの証明ではないかと思いました。そしてその死体に誰も気がつかないのはなぜか?については、それは悪魔に魂(ソウル)を明け渡すという意味での犠牲ではないのだから、人の心を打たない。ということの表れではないかと。

序盤、ジュリエットがオーディションで気を失った際、彼女は見事ソリストとして学校のコンサートで喝采を浴びる自分のビジョンを見ます。しかしその笑顔にはジュリエット本人らしさがなく、彼女は涙を流しながら目覚めます。あの時見た自分は、悪魔に魂を明け渡したジュリエットであり、彼女はそうはなりたくなかったなれないということを序盤で既に示したのではないでしょうか。

友人アレクシスの作品

気になっていることがあります。それはヴィヴィアンにおバカと表現されていた、ジュリエットの友人でもあるアレクシスです。ジュリエットは最後、アレクシスが作中ずっと制作していたと思われる作品の上に落ちます。あれには何か意味があるのでしょうか?あの作品の形が何かを暗示していたりするのか、それから何度かアレクシスがあのオブジェを制作している場面がありますが、その際ジュリエットが影からじっと睨むように見つめていたりもします。何かありそうな気がするんですけどね〜…。わからず。何かご存知の方は教えてくださいませ。

(作品としては70点くらいですかね。比較し倒されてる『ブラックスワン』とまたも比較をしてしまうと、私はあちらの方が好きです。)

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