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読んだら必ず美術館に行きたくなる 「絵を見る技術」/秋田麻早子

本日は、こちらを読了しました。

小難しく感じてしまう歴史的名画を「観察」するためのテクニックが、一般の方にもわかりやすく、かつ詳しく書かれています。

ここで肝腎なのは、「見る」ではなく「観察」するということです。

著者のあとがきにも書いてある言葉ですが、自分がこの絵の「どこ」を美しいと感じたのか、そして「なぜ」美しいと思ったのかということを、できるだけ一般的な、客観的なフォームで説明できるようになれば、ほかの人に自分の感じたことを伝えることができるのではないか、と書かれています。

絵画については、一般的にとっつきにくい印象が先行してしまっています。(自分もそうでした。)しかし、この本を読めば、かならず美術館に行って、名画たる所以を自分で確かめたくなると思います。

こんな人におすすめ〜。
◆絵画にとっつきにくいイメージがある人
◆美術館ではなんとなく「見て」終わってしまう人
◆絵画に興味がある人

この本では6章に分かれて絵を見る技術について説明しています。その概略と、この本を読んでの自分の実践を簡単に書いてみようと思います。

①この絵の主役はどこか

まず絵画には「主役」が必ず存在しています。それを「フォーカルポイント」と言います。

絵画の主役は、1つ存在しているパターンもあれば、2つ存在しているパターンもあります。2つの場合は、2つのフォーカルポイントを分断しないような工夫がされるのが定石です。

これはラファエロの「ガラテアの勝利」です。この絵の主役はどこかわかりますでしょうか?それは言わずもがな、真ん中の彼女です。

この絵では感覚的にわかりますが、どの絵でも適応できるような理解が本著に書かれています。

②経路の探し方

絵画には「リーディングライン」が存在しています。それはいわば、「道しるべ」です。

作者には見てほしいポイントがあります。そこに注目してもらうために、1枚の絵の中に様々な工夫が凝らされています。

先ほどの「ガラテアの勝利」では、真ん中の彼女に注目してもらうために、上空の天使による弓矢が彼女に向けられていたり、両隣にいる人物の腕の動線が彼女に向いていたりと工夫されています。

また、人の目線は「角」「左右の辺」に集中してしまう特徴があることから、どのような絵画でも、その様な箇所から人の目をそらすようなモノが書かれていることが多いです。

(「ガラテアの勝利」を見ると、人物の配置が円形にみえると思います。これにより人の目線は周回型となり、角への視線を防ぐことができます。)

③バランスの見方について

絵画には「構造線」という柱となる線が存在しています。しかしながらその線は、描かれたモノの中に内在しているため、直接見ることはできません。

しかしながらその構造線を多くの人は自然に読み取っていることが多いのです。

例えば、縦の構造線は「立っている」、また横の構造線は「横たわっている」、斜めの構造線は「動いている」、このように感じ取ります。

下の、上村松園の「娘深雪」は斜めの構造線を有しており、「恥じらう可憐なさま」を感じ取ることができます。

④絵具と色の秘密

絵画の色合いで、好き嫌いを判断することもあると思います。それについては著者も否定していません。

しかしそれによって1つの絵画を見る機会を失ってしまうことはもったいない!ということで、直感や好みに惑わされない「色の見方」について書かれています。

現代ではイメージしにくいですが、昔は絵具は色によっては高級品であり、作製するのが容易くなかったという歴史があります。

特に「青い色は高価」であり、絵画の中の青も、主役に使われることが多かったようです。

また、「同系色」でまとめたり、「補色」を隣り合わせに意図的に配置したり、細かい絵でも色を「観察」して見えてくる意図があると、著者は言います。

⑤構図と比例

この章では、「構図によって絵画の意味が語られる」ということを教えてくれます。特に有名なのは「黄金比」かもしれません。

黄金比を緻密に意図して作ったと語られている絵画はそんなに多くない上に、その様に語られる絵画であっても微妙な感じ、らしいです。

上は、ほぼ黄金長方形のキャンパスで書かれた、ローレンス・アルマ=ダテマの「ヘリオガバルスの薔薇」という作品です。

なんとなくしっかりとした構図だと感じれると思いますが、見えない構造線を理解すると、「黄金比」の導入と、「幾何学的性質を活かした秩序(多くの正方形が隠れている)」を観察することができます。

⑥統一感

絵画の表面的なインパクトは、かなり大きいものです。そのような視点に支配されないように、輪郭線、書き込み具合、質感といった特徴の効果をとらえて、構造と見分ける技術が書かれています。

分かりやすいのが「形の反復」があります。同じ形のものがサイズを変えて描かれる手法です。

上は、アルフォンス・ミュシャの「ダンス」です。ダンスするさまが、反復する円の動きで表現されています。至る所に弧のような曲線を感じさせる部分が多いことからもわかります。

自分も「絵画の観察」にチャレンジしてみた

まだ読み終わったばかりですが、本著に掲載されている絵で気になった「ぶらんこ」という絵の観察にチャレンジしてみます!

以下、ジャン・オレノ・フレゴナールの「ぶらんこ」です。

青が気軽に使えるようになった時代の、青(どちらかといえば青緑)がふんだんに使われた1枚です。
とにかく、「綺麗で、物語があって、素敵だなぁ」と、直感的に惹かれた1枚です。

以下のように、構造線を引いてみました。

(説明は省きます。本著の「構造と比例」の部分を読んでください!)

僕「きれいだな〜。奥行があって青緑で、光もたくさん降り注いでる。ブランコ遊ぶ女の子は目線の先の男の子とどういう関係なのかな?女の子の靴脱げちゃってるけど、これその先の像に当たっちゃいそうだな。後ろで縄を持つおじさんは執事さんかな?」
僕「長方形のキャンパスだからまず、下辺はそのままで正方形を作ってみよう(青い線)。その正方形の対角線(赤い線)の交点に女の子がいる。やっぱりこの絵の主役はこの女の子で間違いない。あ、あと青い線の上にぶらんこの紐が結われた枝があるじゃん!
僕「長方形の対角線と、それぞれの頂点から引ける垂直線(黄色の線)も重要だったから引いてみるか…。2本の垂直線の間に、森の奥の背景がすっぽり収まった!それ以外は、草木や森とかの暗い部分が多い……」

簡単ですが、こんな感じで気づくことができました。

この作業が「観察」であり、なぜ自分がこの絵に惹かれたのか、惹かれた部分がどのような構造上の意味を持って存在しているのかが分かるようになります。

そうすると、この絵の事を「好きだ!」と語る上でのフレームを得ることができ、いろんな人に伝えることができるようになります。

美術館に行こう!

絵画は、それ自体の小難しさ、そして、リアル(写実)との乖離的な表現で、多くの人は絵画を見よう、と美術館に行くことは少ないと思います。

本著には、最大限に絵画を楽しむための、そして絵画を向かい合うための技術が分かりやすく書かれています。

ちょうど「芸術の秋」だと思いますので、本著を読み、その後美術館に行ってみるのはいかがでしょうか。

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