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『ダブドリ Vol.9』インタビュー03 伊佐勉(サンロッカーズ渋谷)

2020年5月9日刊行(現在も発売中)の『ダブドリ Vol.9』(ダブドリ:旧旺史社)より、伊佐勉ヘッドコーチのインタビューの冒頭部分を無料公開いたします。インタビュアーはマササ・イトウ氏。なお、所属等は刊行当時のものです。

サクレの突然の引退もきっかけとなり、やりたいバスケットをやろう、機動力がある選手を集めようということに繋がった。

―― まずはチームを大幅に変えたところから聞かせてください。メディアのインタビューではロバート・サクレ選手の引退(サンロッカーズ渋谷と契約を締結していたが、シーズン開幕前に突然引退を発表した)があって、大きくチームを変えなければいけなかったと話されていましたが、それだけでこういうチームになるとは思えなくてですね。
伊佐 はい。
―― 大きな存在が抜けて穴が開くと、普通は同じような選手で埋めると思うんですよ。でも渋谷の場合はそうではなく、まったく違うチームになりました。
伊佐 ライアン(ケリー)は契約が決まっていたので、仰るように、サクレと同じタイプの選手を連れてくるのも、もちろん一つの方法でした。でも、僕の中では機動力のあるバスケットをしたいということが根底にありました。去年の途中からヘッドコーチをやらせてもらいましたが、結果的には、やりたいことが半分もできてないようなイメージでした。
―― 元々やりたいことですね。
伊佐 そう、元々やりたかったことです。去年は、僕のやりたいバスケット、プラス、選手達に合っていることを探しながらやっていました。それが、サクレが引退したこともあって、やりたいバスケットをやろう、機動力がある選手を集めようということに繋がった。
―― 選択肢としてはいろいろあったけど、思い切ってやってしまおうと決断するきっかけができたということですね。
伊佐 そうですね、きっかけは確かにその引退です。
―― 理想である機動力のあるバスケとは、琉球(ゴールデンキングス)時代から引き継がれたものですか。それとも、この渋谷というチームでやりたいと思われたことですか。
伊佐 その引き継いだ部分、根本の僕のバスケットボールの考え方の部分です。人とボールが動く、機動力があるバスケットがあって、それに対して今の選手に合うシステムが理想なんです。琉球にいた選手達も渋谷とは違うタイプで、違うバスケットに見えますけど、システムが少し違うだけで、やろうとしていることの考え方は同じなんです。
―― ディフェンスでもオフェンスでもしっかり走って、機動力を生かして、それを強みに戦っていく。
伊佐 そうですね、はい。
―― オフェンスでは、オンボールだけではなく、オフボールでも積極的に動いて、かき乱していく形ですよね。コーチもNBAのウォリアーズの話をされていましたが、かなりそれが生かされているように見えます。スクリーンでシューターが外に出て、そのままクイックにインサイドにカットしたり。
伊佐 そうです。
―― 去年もそういったプレー自体はありましたよね。それが今年は更に加速した。選手の補強も引退をきっかけに変更したのですか。
伊佐 いや、補強自体はサクレの引退で変えたのではないですね。新しく来てくれた選手を加えたチームメンバーを生かすためのシステムを考えながら今のバスケットになっているイメージです。
―― 選手の選定では、シュート力だけではなくて、走り切ってディフェンスできることも重要な基準になっていたかと思います。
伊佐 そうですね。特にディフェンスを頑張れる選手、メンタル的にもフィジカル的にも。
―― 試合のビデオを見てそれを判断されたのですか。
伊佐 ビデオを見るのもそうですが、対戦していても、プレーしている姿はもちろん、練習前のアップであったり、ベンチでの立ち居振る舞いもチェックできます。もちろん話したときの印象もありますね。
―― 実は、今シーズン、秋田ノーザンハピネッツの前田コーチにお話を伺ったんですね。前田コーチもがらっと違う戦力を追加しようとされていて、契約したい選手に秋田の試合のビデオを見せて「君ならここにこうはまる。やりたいと思わないかい?」という勧誘をされたそうなんですね。選手自身がやってみたい、やりたいと思ってくれるような納得感を作る工夫をされていたんです。
伊佐 なるほど。
―― 渋谷でも「こういうシステムでやる」とか「こういうことをやりたい」といった伝え方はされたんですか。
伊佐 もちろん、その選手に対する僕のイメージをクラブに伝えて、特に、シュート力のある田渡(修人)君と石井(講祐)君には、彼らがいることによって、コートが広くなることを期待してると伝えました。それにプラスして、ボールをクイックに使ったり、スリーポイント以外のところもできると伝えましたね。
―― 渋谷に来ると役割が増えるということですね。
伊佐 そうです。彼らにはシューターというより、スコアラーになって欲しいという言い方をしました。

どの道フルコートで当たるのだから、オフェンスリバウンドには5人で行こうと決めた。

―― 全く違うチームになったことは、数字からも明らかで、スリーポイントが大幅に増えています。もちろんディフェンスも大きく変わったと思うんですが、オフェンスも大幅に変わっている。特に抜本的に変えられた部分はどこになりますか。
伊佐 サクレというインサイドの選手がいて、彼のポストアップは、去年のうちの得点源でした。今年はポストプレーをしない、(バスケットに)背を向けてプレーしないようなバスケットをめざしました。ライアンはもちろん、そういう選手じゃないですが、セバスチャン・サイズと、チャールズ・ジャクソンは、ハイパーセントでペイントのスコアを出せるんですが、かといって、去年のサクレみたいに、背を向けてというバスケットではなかった。ポストアップをするとボールが止まりますし。
―― ボールを入れるまでも止まってしまいます。
伊佐 そうです。それをしないバスケットをしようということで、今季のビッグマンが加わりました。なので、がらっと変わったイメージはあるのかなと思います。
―― オフェンスの数字について、もう一つ凄いのがオフェンスリバウンドです。リーグトップクラスまで上昇しました。ポストプレーヤーではなく、飛び込んでいくような選手を獲得したこともありますが、大きくチームの戦術で変えた部分はありますか。
伊佐 機動力のあるメンバーが揃いましたが、ディフェンスの強度を上げないと東地区では戦えないので、まずはフィジカルでしっかりやっていこうと決めました。僕は元々タイムシェアをしたかったので、それもあって、フルコートでディフェンスして、疲れたら交代するようなバスケットにしよう。その延長なんですが「ならオフェンスリバウンドに5人で行くのはどうか」という提案がアシスタントコーチからありました。どういうことかというと、どっちみちフルコートでピックアップ(ディフェンスプレーヤーがオフェンスプレーヤーにつくこと)するんだから、リバウンドに行って、取れなかったらそのままそこにいる、という発想なんです。
―― やっぱり、そういうことをやられてたんですね!
伊佐 「あ、そうだな」っていう感じになって(笑)。
―― ハハハハ。
伊佐 夏から5人でオフェンスリバウンドに行くことにして、その理由は、行かなくてもフルコートで前から当たらないといけないからです。ただ、みんな下がる癖があるので、下がってから当たりに行く。夏の間はそれをひたすら止めさせて「下がるな、前に行け。下がるな、前に行け」って。
―― 相手も動きにくくなりますし、そういう発想ですか。
伊佐 そういう発想で始めて、それから機動力があるので、やっぱり5人で行けば取れる確率が断然に増える。

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