進化する秋田を紐解く ~ 秋田ノーザンハピネッツ 前田顕蔵ヘッドコーチ interview vol.1 ~
2番としての長谷川暢を止めるのは難しい
宮本 今シーズンは個人的に小栗選手に注目していました。1月20日、21日の長崎ヴェルカ戦で小栗選手、あとは王選手と長谷川選手がステップアップしたことで、今回のインタビューを依頼させてもらったんです。まずは小栗選手について伺いたいのですが、彼のステップアップによって、熊谷選手とのコントラストが生まれて得点力のあるウイング陣をより活かすことができ始めてきたと感じています。
前田 そうですね。今シーズンから熊谷選手が加入して、まずは熊谷選手自身が12月あたりからチームにフィットしてきたことが大きなポイントとなりました。そこからの積み上げがあり、長崎戦ではベンチから出てきた小栗選手、長谷川選手、王選手の活躍で勝利することができた。ゲームの流れを変えてくれたし、本当に素晴らしい活躍でした。彼に必要なものはゲームの中での経験値だったので、それを自分の力で勝ち取ったことは彼の自信になったと思います。本当に頑張っていますね。
宮本 もう1人あげたい選手が長谷川暢選手です。熊谷選手が合ってくるまでの期間は、長谷川選手がベンチから出てくることでチームのテンポを作っていました。一方で、今回のバイウィーク前あたりからポイントガードは熊谷選手が1番手、小栗選手が2番手で固まった印象もあります。そうなった場合、長谷川選手は2番として使うんですか?
前田 そうですね。長谷川選手は2番が一番いいと思っています。
宮本 2シーズン前に長谷川選手が前田HCと話をして、「このサイズだと1番もできた方がいい」ということで1番にトライし始めましたよね?
前田 そうです。彼に関しては、僕自身も正直、試行錯誤なところがありました。すごくユニークな選手だと思っていて、ディフェンスが素晴らしいのは誰もがわかるところですけど、あのスピードを持っていてペイントに入っていける。シュート力もあり、得点力の高い選手です。ただサイズは大きくないので、ポイントガードができないとマッチアップ的に難しい場面が絶対にあると思っていました。そういうことを踏まえて試行錯誤する中で、これも長崎戦がわかりやすいですけど、彼には2番としてディフェンスとゴールへのアタックに特化してもらった。相手の目線に立つと、やっぱりその時の長谷川暢を止めるのは難しいと感じました。そこに関しても小栗の成長があって、より明確に見えてきたところではあります。
小栗瑛哉はチャンスをしっかりと掴み取った
宮本 シーズンが開幕した頃の僕のイメージは、1番は熊谷選手、長谷川選手、小栗選手。場面によっては中山選手を絡ませる。中山選手のユーティリティ性が秋田の強みであることは間違いありません。ヘッドコーチとして、最初のイメージはどのようなものだったんでしょうか?
前田 シーズンが始まる前は継続の長谷川選手、新加入の熊谷選手と藤永選手が競争するイメージを持っていて、小栗選手はまだ若いのでどうやってチャンスを与えられるかなと考えていました。もちろんサイズを考えると中山選手という選択肢が必要な場面もあります。ただシーズンが始まって、藤永選手がプレーできないとなった時に小栗選手には、「ものすごいチャンスだよ」という話をしました。そして、彼がそのチャンスをものにしたという流れです。なので、今の状況は正直に言うとあまり想定していなかったですね(笑)。
宮本 ハハハ。11月のバイウィークには外国籍選手の入れ替えもあり、大きくチームが変化した印象を持った方が多いと思います。ライスナー選手は得点力も高くて、チームへのアジャストも早かったので、ファン・ブースターの心を一気に掴みました。ただ、僕はカーター選手をすごく評価をしていて、見えないところというか、プレー面でもライスナー選手が秋田にフィットするサポートができていました。たとえばピックからポップアウトのタイミングが素晴らしくて、それによってライスナー選手のドライブスペース、タイミングが作れていると感じています。ヘッドコーチから見た2人の評価はどうでしょうか?
前田 おっしゃる通り、ライスナー選手はすぐにフィットしてくれました。彼自身のプレースタイルも、ボールを渡して1対1をしてくださいというスタイルではない。チームの流れの中でスコアをしてくれて、気づいたら得点を重ねてくれるタイプです。それが秋田にはすごくフィットしていますし、泥臭いところを頑張ってくれています。カーター選手は秋田で一緒にやっていた経験があり、そもそも秋田のことを理解していくれていたことも大きかったですし、日本のバスケに対する経験値をすごく高めてきてくれました。外国籍選手は基本的にはザック選手とライスナー選手がスタートで出ている中で、3番手としてしっかりとプレーをしてくれています。何よりもめちゃくちゃ性格がいいですね!
宮本 そこってめちゃくちゃ大事ですよね?
前田 めちゃくちゃ大事ですね!
宮本 Bリーグができる以前であれば、外国籍選手はとりあえず点数を取ってきてください。それ以外は二の次なんてこともありましたけど。
前田 そうですね。彼のチームファーストな考えは本当に助かっていて、ザック選手が怪我をしてからはペイントの中でも仕事をしてくれています。そういう意味でもチームにとっては本当に大きなピースですね。
勝つためには簡単に得点をクリエイトすること
宮本 少しバスケットのことに踏み込んでいきたいと思います。今シーズン、Bリーグ公式が出しているショットチャートを見ると、秋田はバランスよくショットに持っていけています。前田HC体制でいろんなコーチ陣と積み上げてきたオフェンスの形がこのショットチャートには現れていることを、今回は読者の皆さんにも伝えたいなという僕のエゴがありまして(笑)!
前田 ハハハ。ありがとうございます!
宮本 ただ、秋田にとってオフェンスはまだまだ課題が多いことも事実だと思います。今シーズンからクラブ公式のYouTubeにて、試合後の会見がすべて公開されていますが、そこでもオフェンスについての質問が飛ぶこともあります。僕の感覚では、チームで作り出したいショットまでは行けている。それを決めるのは選手の個の部分。ざっくりいうと個人の決め切る力だと考えているんです。
前田 あー、なるほど。
宮本 覚えているかわかりませんが、開幕戦の対北海道GAME2の会見で、そこについて質問をさせていただきました。選手が個としてやらないといけない部分もあるし、HCとして責任を持たないといけない部分もある。僕はその両面があると思っていて、このショットチャートが出ているということは、ある意味HCとしての責任は果たしていると考えています。そこはどうでしょうか?
前田 選手のところは一旦置いといて、オフェンスレーティングを見ると僕たちは下位にいます。今だとオフェンスは21位とかで、ディフェンスは4位だったと思います。これは昨シーズンも似たような順位で、オフェンスが17位ぐらい。それこそ今日もチームスタッフで話していたんですけど、直近の20試合で換算するとオフェンスレーティングが14位、ディフェンスレーティングが4位だったかな。シーズン後半から向上してきているんです。あとはシーズンを通して、日本人選手が得点を取る割合が秋田は上位なんですね。
宮本 そうですね。そこはクラブカルチャーというか、アイデンティティだと僕は思っています。
前田 そうです。僕がHCに就任してからは、ずっと日本人選手が起点となって欲しいと考えています。そこに関してはこの2、3年は常にリーグ内で3位には入っていると思います。ただ得点自体が少ないので、オフェンスレーティングとして算出すると下位になってしまう。プラスしてフィニッシュ力が低いというところも影響があります。理由はわかっているんです。それを踏まえて、僕の責任としてはそこを改善する以上にまずは「勝てよ!」という話だと思うんですよね。
宮本 そうですね。極論を言えば、HCの責任はチームの勝利ですからね。
前田 そう、極論を言えばね。だから、僕の考えとしては、ここから勝つためにどうやって簡単に得点をクリエイトできるかだと思っています。先の話をすれば編成なども関わってきますけど、今シーズンに目を向けると、ここから21試合。スケジュール的にはかなりタフなカーディングです。それらをどうやって勝ち切るのか。どうやったらより簡単に得点を取れるのか。それがディフェンスからなのか、オフェンスからなのかということを考えながら、このバイウィークはアプローチをしています。もちろん選手たちは宮本さんが仰ったように、「決め切る」というところを意識して、個人のワークアウトにも取り組んでくれていますけど、それ以上に僕の責任として、勝つためにより簡単に得点をクリエイトすることがひとつのポイントになると思っています。このバイウィークで藤永選手も練習に入ってきたので、チーム内でさらに競争が生まれていて、すごくいい循環が作れていると感じています。だからこそ、僕がそこにしっかりとアプローチできるかが大事だと思っているので、もちろん選手たちには期待しつつ、僕自身も整理してバイウィーク明けの名古屋戦に向かいたいなと思っています。
シーズンラストも目が離せない!!
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