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それでも夢を追いかける ―猪狩渉挑戦記#2

「NBA選手になりたい」その思いだけを胸に猪狩渉は当時所属していたBリーグのチームを退団し、海を渡った。しかし、それと同時に社会状況は一変し、思うようにいかない時間を過ごすことになった。それでも、信念を曲げずに進み続け、猪狩渉は次の章へ向かう。

#1 はこちらから)

チームを勝利に導けるかどうかだと思っています。

宮本 今はステフ・カリーであったり、ジェームズ・ハーデンであったり、どちらかというとフィニッシャーとしてボールをショットまで持ち込むガードが注目されています。少し前に長谷川暢選手(秋田ノーザンハピネッツ)と3人で話した時も、ガードがどれだけゲームを作れるかがこれからすごく大切になるという話題で盛り上がりました。今の猪狩渉のガード論を聞いてみたいです。
猪狩 今はスコアリング型のポイントガードであったり、コンバートが進んでサイズアップされたりしていますけど、あくまでガードは勝敗をコントロールする部分、そこの駆け引きが醍醐味だと思っています。速いクロスオーバーを持っていても、スリーポイントを持っていたとしても、それは1つの武器でしかなくて、それを使ってチームを勝利に導けるかどうかだと思っています。例えば、調子がいいから自分でボールを持ってプレーするのか、自分は今日はいつでも点数がとれるから、先に周りにやりやすい環境を作りつつ、自分以外に調子のいい選手を探しておくのか。後者のようなチームコントロールをできるガードが減ってきたように思います。あえて周りに点数
を取らせた方がチームとしての点数が伸びるということは、能代工業の時に信長先生から常々言われていて、能代工業時代のチームメイトには長谷川暢、盛實海翔(サンロッカーズ渋谷)というスコアできる選手がいたので、どうやって彼らに1on1をさせるか、いいスペーシングを作れるか、ノーマークにできるか。チームメイト、時間、点数の全てを把握した上でコントロールしていく。それはワークアウトでは身につかない部分なんですよね。
宮本 確かにね。
猪狩 これはすごく感じていて、日本は分解練習がすごく多くて、それ自体は試合のための分解練習なんですけど、試合でのスキルは試合じゃないと身につかない部分もたくさんあるんですよ。アメリカに行って感じた日本との違いは圧倒的なゲーム量の差なんですよね。
宮本 それは僕もコーチを経験した中で感じていて、分解練習をたくさんしてもそれがゲームで表現されないことが多々あります。日本は個人の練習をして、ゲームで発揮しましょうというのが多くて、僕もその考えだったんだけど......(笑)。
猪狩 NBA選手のワークアウトを見ればわかると思うんですけど、新しいことなんて何ひとつしていないんですよね。ゲームで多く使う反復練習、ゲームで多く使う動きの派生であったり、あくまで僕のレベルの話ですけど、プロ選手でも相手をやっつける時に使うムーブは2つか3つなんですよね。自分が試合で自信を持って相手をやっつけに行ける技を「Go to move」というんですけど、それを1つか2つ、できれば3つ持っているだけで大丈夫なんです。今、色んなYouTubeや媒体でスキルワークアウトを見ますけど、はっきり言えば全部「タフショットじゃん」と思います。コーチからすれば、そんな選手は使わないですよね。どこか趣旨が間違っているというか、自分のスキル、知識のお披露目会のように選手を使わないで欲しいなと思うことはあります。
宮本 今の話はすごく面白くて、これを踏まえて考えると高校も大学もBリーグも、結局タフショットを決め切っている選手がいい評価をされている傾向が強いと思っていて、秋田の古川(孝敏)選手とかは「そんなシュート打つ?」っていうシュートを決めるじゃないですか。それはすごいんですけど、だから、他の選手がそればかり練習しても古川選手になれるわけではないですよね。
猪狩 そうですね。それを決めるから古川さんだと思うんですよね。古川さんとかコービー・ブライアントになりたいのもわかるんですけど、誰もがなれるわけではないので、本来はもっとシンプルにショットを決めたり、味方にパスをしたりというディシジョンの部分の練習が必要だと思いますね。
宮本 それはバランスもあるんだろうけど、基本的にはゲームをやるしかないよねっていう……。
猪狩 はい。それはワークアウトでは身につかないですよ。試合で身につくものだと思うんです。

猪狩中編締め

子供達にもそのシンプルなフィニッシュの部分も見て欲しいんですよね。

宮本 逆に猪狩選手は海外に挑戦することで、高いレベルでのゲームに参加する機会がかなり減ったと思うんですけど、その中で取り組んだこととかありますか?
猪狩 フルゲームを見ることですね。
宮本 あー、なるほど。それもゲームの中でどういう展開があって、どういうディフェンスのポジションで、そのプレーを作ったかということですよね?
猪狩 そうです。確かにハイライトではカイリー・アービングもステフ・カリーもすごいプレーをしているんですけど、48分間を見るとシンプルにレイアップにいく場面やシンプルなスリーポイントが半分以上なんですよ。難しいレッグスルー、ビハインド、スピンムーブ、ダブルクラッチ、フローターとかは48分間の中で1回か2回なんです。その1回か2回出るかどうかのプレーを、今の日本の子供達は一生懸命練習しているんですよね。だから、子供達にもそのシンプルなフィニッシュの部分も見て欲しいんですよね。
宮本 それこそシカゴ・ブルズが好きだと言っていたけど、当時マイケル・ジョーダンがオフボールスクリーンをもらって、アドバンテージを作って、ワンドリからのプルアップ、ボールをもらって押し込んで、ピボットしてスペースを作ってからの右ドライブなどがめちゃめちゃ強みでした。
猪狩 本当にそれなんですよね。マイケル・ジョーダンというとイメージするのがダブルクラッチやダンクシュートなんですけど、例えば69点取ったキャバリアーズとの試合なんて、ほとんどワンドリプルアップ、ベースラインからのツードリプルアップなんです。NBA選手がどれだけ簡単に得点を取っているか。そこに大事な要素が詰め込まれているから、そこを見て欲しいんですね。

#3に続く)

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