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『ダブドリ Vol.7』インタビュー04 勝久マイケル(信州ブレイブウォリアーズ)

2019年9月28日刊行(現在も発売中)の『ダブドリ Vol.7』(ダブドリ:旧旺史社)より、勝久マイケルHCのインタビューの冒頭部分を無料公開いたします。インタビュアーはマササ・イトウ氏。なお、所属等は刊行当時のものです。

自分はとにかくバスケが好きな「バスケバカ」。バスケをリスペクトしている人たちと働きたかった。

―― 今日最初にお聞きしたかったのは、信州ブレイブウォリアーズのコーチという選択をされた経緯です。15-16シーズンから島根スサノオマジックでヘッドコーチ、17-18シーズンから栃木(現宇都宮ブレックス)でアシスタントコーチを務められましたが、信州に来るにあたってどんな決断があったのですか。
勝久 やはり家族の存在が大きいですね。島根時代、私はいわゆる単身赴任状態で、妻は飛行機に乗って応援しに来てくれていました。妻は私の好きなようにやらせてくれていましたからね。しかし17年1月に息子が生まれることになり、「息子が生まれる年には一緒に住める場所にいたい」という希望から、すごく悩んだ末に栃木に行きました。栃木はグレイト・チームですし、色んな素晴らしい人たちに出会えました。希望通り家族とも一緒に過ごすことができ、本当に感謝しています。
でも自分にはやりたいことがありました。去年のオフに決断をするに当たって、また悩んだんですけど、「家族のために」というシーズンを終えた後、考え方と決断の方法を変えてみたのです。東京で仕事をする妻にわがままを言いまして、自分はとにかくバスケが大好きな「バスケバカ」なので、今回はピュアにバスケットボールだけの理由で物事を決めました。
まず、信州にはアンソニー・マクヘンリーがいて、彼のような本当にスペシャルなプレーヤーと働く機会はなかなかありません。そして、自分がどのチームに行っても連れて行っている、自分の中では世界一の選手だと思っているウェイン・マーシャル。この二人を一緒にプレーさせたい思いも強かった。こうした編成面を含めて、自分のビジョンを遂行できる可能性のあるチームを作り、「プレジデント・オブ・バスケットボール・オペレーション」というポジションで働く―そうした自分の「ピュアなバスケットボールだけの理由」に基づく条件を呑んでくれたのが信州だったのです。このチームに来ることを決断したのには色々な理由がありましたが、アンソニーとウェインの存在は大きかったです。
―― その前のシーズンからの戦力、武井(弘明)選手や三ツ井(利也)選手のことも考えられていたかと思いますが、編成をコントロールできるようになって、どういうステップでチームを作っていったのですか。
勝久 最初はウェインとマックを軸にしました。その他の選手はビデオを見ていて特徴は掴んでいたんですけど、編成が全部終わってから、どういうシステムでやるかというのを考えました。オフェンスのシステム、ディフェンスのシステムをどうするかの前に、やっぱり人間性、闘争心、バスケ好き、ハードワーキング、こういうところがX's and O's(戦術)を別として一番大事になってきますからね。
―― なるほど。
勝久 例えば「武井はめちゃくちゃ良い奴だよ」とか聞いてて、本当にその通りだったんですけど、トレーニングキャンプで「ああ、こういう感じの選手なんだな」ってわかってから、使い方とかも少し考えたり。
―― プレジデント・オブ・バスケットボール・オペレーションということはチームから予算をもらって選手を決定する権利がある。つまり、選手の決定について、フロントオフィスへの説得が不要ということですか?
勝久 そうなんですが、社長に自分の考えを伝えながら、チームで決定しています。
―― ああ、それはすごいですね。
勝久 それが条件でしたが、そのような環境を与えてくれたチームに感謝しています。
―― お伺いした感じだと順番としてはまず選手が決まってから戦術を練っていく。それは島根でも一緒でしたか。
勝久 島根でも一緒でしたね。
―― それぞれの選手の強いところ、弱いところがある中で、オフェンス、ディフェンスをどうしていくのかというのを決めていくんですね。
勝久 そうですね。例えば島根の時と今シーズンの信州とシステムはまるっきり違います。違う選手たちがいたので。
―― オフェンスもディフェンスも。
勝久 ディフェンスはそこまで変わってないですが、オフェンスはかなり違います。
―― ディフェンスはノーミドル(コートの中央からボールを遠ざけ、ベースラインに追い込む守り方)に見えましたが。
勝久 必ずしもそうではないですね。例えば大げさに言えばプリンストンオフェンスを相手にしたり、高い位置にツーガード、フリースローライン上にウィング2人、ネイルに1人いる。こういうバスケであればノーミドルには守らない。
―― 確かにそうですね。ただピックアンドロールの対応としては。
勝久 サイドをアイスする(前述のノーミドルのために、ボールハンドラーにスクリーンを使わせずにベースライン側に追い込む守り方)のは基本的にはウェインではそうしていて。マクヘンリーはピックアンドポップ(スクリナーがバスケット方向にロールせずに外に広がるオフェンス)からのシュートがあるかどうかなど、ショウしたり、しなかったり、アイスしたり試合によって変わります。
―― 試合での対応という意味では、例えば、コーチもよく話されている「遂行力」。「ちゃんとやれ」ということだとは思いますが、先ほどのノーミドルの話であったり、本当に詳細な指示であれば、動きのアングル、声を出すタイミング、声を聞いて動くタイミングとかいろいろあると思うんですが、「遂行力」という意味でどういうことをチームに伝えていったのですか。
勝久 ディフェンスでもオフェンスでもすべてですね。オフェンスだったら、スペーシング、一歩一歩の大切さ。一歩でもずれていたら、ビデオミーティングで話す対象になります。ディープコーナーって言ったらディープコーナーを徹底する。ピックアンドロールも、スクリーナーの角度も、タイミングも、読みも。どんなカバレージがきても「チームでこういう風に対応する」というのを徹底的にドリルしようとしていました。ディフェンスでも、スカウティングレポートのディフェンスをやること、アサインメントをミスらないこと、シューターが誰で、ドライバーが誰で(チームは)こういうことがしたい。ピックアンドロールのカバレージ、ポストのカバレージ、それ以前のファンダメンタルな部分、常にビジョン、ヘルプも正しい位置に、オーバーヘルプでもなくアンダーヘルプでもなく正しい場所に行くこと、もう全て「遂行力」だと思っています。
―― 例えば、栃木とのカルチャーの違いというのはありましたか。
勝久 栃木の素晴らしいところは、激しさとかエナジーとか、インテンシティ、そういった部分は本当に素晴らしいと思いますし、そういうカルチャーが出来ている。自分が感じたのは、ハイライトプレーよりはルーズボールを追ったとき、泥臭い仕事をしたとき、体を張った時にブレックスファンも本当に喜んでいて、そういうカルチャーが浸透している。ファンまでもが、コーチ達が求めるそういったプレーで盛り上がるのは本当に素晴らしいと思いますね。バスケットボールのスタイルはあまり似ていないですが、そういったカルチャーの部分は本当に素晴らしいと常々感じていました。

やりたいことを全部やろうとすると全部が中途半端になってしまう。今シーズンは判断のドリルを徹底的にやったつもりです。

―― 戦術という意味では、スペインピックアンドロールとかスプリットカットとか新しいこともすごく取り入れてますよね。インプットとしてはNBA、ユーロリーグと色々あるのだと思うのですが。
勝久 もちろん試合は見ます。
―― 海外のコーチから話を聞いたりとかされてますか。
勝久 シーズン中は滅多にできないですけど、例えばユーロリーグチームの練習を見学に行かせてもらったり、サマーリーグのウォリアーズの練習を見学させてもらったりしていましたが、もっともっとやっていきたいです。もちろんビデオはたくさん見ますし、試合はたくさん見ますけど、そこに、自分の考えや経験をベースにしています。そういういろんなところから、自分たちの選手たちにフィットすると思うものを取り入れていますね。もちろん見たり、話を聞きに行くことも大事ですけど、結局は自分のベースがないといけない、と思います。「コーチは泥棒」ってよく言います。でも、何かの戦術を盗んで使うことは簡単ですけど、自分のベースがあって、そこからどういう教え方をするのか。「何をやるか」じゃなくて「どうやるか」の方が遥かに大事だと思っています。
―― どう伝えるか、というのも大事ですよね。
勝久 「こういうセットプレーがあります」じゃなくて「どうやってバスケットをやるか」ということの方が大事だと思うんですよね。例えば、スペインピックアンドロールだったり、その一つのアクションをただやるんじゃなくて、それをやって、相手にどういう対応をされても、カウンターをちゃんとチームで準備できているかだと思います。
―― 例えばコーチの頭の中には、すごく詳細に、戦術はこう、カウンターはこう、こうきたらこう、という形で全部入っている。でも、試合では、それ以外の部分、選手たちが判断して動く部分もすごく大きいじゃないですか。
勝久 はい。
―― 予め決めておいたことが、どうしてもうまくいかなかったときに、その選手がどういう判断をするのか。そこもコーチングしていく部分だと思いますが、その点についてはどういう風にお考えですか。
勝久 まずは、その判断をより良くできるように、かなりデシジョンメイキング(意思決定)のドリルをやって、レップ(反復回数)を多くやろうとしています。
―― はい。
勝久 やりたいことは色々あるけど、それやったら全部、中途半端になる。特にわれわれは1年目。だから、先ほど話した判断を少しでも上手くできるように何か一つのものをグレイトにするなら、まずスプレッド・ピックアンドロールを、何がきても正しい読みができるっていうところまで磨こうとはしていました。今シーズンいろんなカバレージのチームと対戦して、理解は結構深まったかなと思っています。
しかし、プレーするのは選手達です。彼らがクリエイティブなプレーをしたり、ショットクロックの終わりでタフショットを決めたり、良い選手達に恵まれていました。それ以外の面、例えばトランジションでは、役割とか、走るレーンとか、状況によってやることは決まってはいるんですけど、よりフリーダム(自由)があるのはトランジションなので、そこで選手たちが良い判断をできればいい。プレーオフで、例えば(石川)海斗がプッシュしてから、相手のビッグマンを一回、相手の前に入って背負って、マックとずれができるようにしてからロブパスを投げたりとか。そういうフリーダムもオープンコートではあります。全ての判断をドリルするわけではない。タフな状況になって、タフショットを決めたり、選手が打破した場面はたくさんあります。

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この後も、選手のメンタリティの育て方、「プロセスに集中する」ワケ、コーチングスタイルの原点をお話しいただきました。続きは本書をご覧ください。

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