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【ニーチェ入門】ジル・ドゥルーズ『ニーチェ』をわかりやすく解説【文系レポート対策】

ジル・ドゥルーズが著した『ニーチェ』について具体例をまじえてわかり易く解説します。これにより、ニーチェの主要概念を理解することができます。また【おまけ】としてレポート執筆における論点も簡単に提示します。単位を取りたい大学生だけでなく、ニーチェについて知りたい方にもおすすめです。

■ 『ニーチェ』はどのような著作か

『ニーチェ』はフランスの哲学者・ジル・ドゥルーズ(1925-1995)によって1965年に出版されたニーチェ(独、1844-1900)の入門書になります。

この『ニーチェ』の著者ドゥルーズは、クロソウスキーやバタイユなどとともにフランスを代表するニーチェ研究の第一人者であり、他の20世紀の思想家たちと同様にニーチェを糧に自らの哲学を練り上げていった思想家です。

主著には『差異と反復』(1968)やフェリックス・ガタリと共著した『アンチ・オイディプス』(1972)『千のプラトー』(1980)などがあります。

ドゥルーズはニーチェに関する本を2冊書いており、一冊が今回取り上げる入門書としての『ニーチェ』であり、もう一冊が研究書である『ニーチェと哲学』(1964)になります。

『ニーチェと哲学』は研究書だけあって分量も非常に多く、難解なのに対して、『ニーチェ』は入門書だけあって非常にコンパクトにまとまっており、それでいてニーチェ哲学のエッセンスがわかりやすく解説されています。

この『ニーチェ』は、ニーチェの基本概念が解説されており、大学生のレポートでも参考文献として使用しやすく、また社会人の方でニーチェについて学んでみたいという方にもうってつけの本になっています。

また大学のレポート対策としてニーチェを取り上げる理由としては、多くの哲学系の授業において、哲学史上の影響力の大きさからしばしば取り上げられるため、ニーチェをレポートで引用することにより、レポートの点数を格段に伸ばすことにつながるからです。

よって今回の note ではニーチェについて、ドゥルーズが著した『ニーチェ』の内容を解説しながら、レポートで使えそうな論点や引用などをまとめていこうと思います。

さて、この『ニーチェ』は大きく分けて4つの部から構成されており、1/ニーチェの生涯について、2/ニーチェの哲学について、3/ニーチェの著作に登場する主要な登場人物辞典、4/ニーチェの著作からの抜粋集となっています。

今回はドゥルーズがニーチェ哲学について解説している1/ニーチェの生涯についてと、2/ニーチェの哲学についてを取り扱いたいと思います。

しかしながら、3/ニーチェの著作に登場する主要人物辞典の使い勝手がよく、ニーチェの著作を読む際には読解の手助けとなること間違いありませんし、4/の抜粋集も一流の哲学者が引用している箇所だけあって非常に面白いです。

是非1/と2/の解説をご覧になったあと、ご自身でお読みになることをおすすめします。

それでは1/ニーチェの生涯から解説していきたいと思います。


■ニーチェの生涯

・三様の変化

ニーチェの主要概念の一つに「三様の変化」というものがあります。

ドゥルーズはまずこの概念を取っ掛かりに難解なニーチェの思想に切り込んでいくのです。

では「三様の変化」とはなんでしょうか。

「三様の変化」とは3つの各段階、つまり、駱駝(らくだ)からライオンとなり、ライオンから赤子(=小児)へと変化していくことです。

「駱駝とは荷を担ぐ動物である。駱駝は既成の諸価値を担い、また教育の重荷を、道徳とか文化・教養の重荷を担いでいる。駱駝はそうした重荷を担いで砂漠へと向かい、そしてそこでライオンに変身する。ライオンは諸々の彫像を壊し、重荷を踏みにじり、あらゆる既成の価値の批判を断行する。そしてそのライオンの役目はついに赤子となること、すなわち<戯れ>と新たなる始まりになること、新しい価値および新しい価値評価の原理の創造者となることである」(ジル・ドゥルーズ『ニーチェ』ちくま学芸文庫、1998年、邦訳9頁)

駱駝は重い荷物のように既存の価値(≒道徳や常識など)を担いますが、ライオンになるとそうした既存の価値を批判して打ち破り、最後、赤子になると新しい価値を創造します。

私たちは生まれたばかりの赤子のときは、既存の価値や常識をなにも知りませんが、大人になるにつれて様々な価値を内面化していきます。

つまり、大人になるにつれて、他の人と共生するために既存の価値である常識や道徳を疑うことなく身に着けていくのです。

まさに駱駝のように背中にどんどんと既存の価値を背負い込み、どんどんと重くなっていくのです。

しかし、中には道徳や常識を疑って批判にかけ、既存の価値を打ち破ろうとするライオンに変化する人がいます。

そしてドゥルーズによればライオンの役目は、既存の価値を批判し、新しい価値を創造する赤子へと変化させることなのです。

ではなぜ赤子への変化が新しい価値を創造することになるのでしょうか。

それは赤子が純粋無垢だからであり、世界で当たり前とされている常識や道徳を一切持たないからにほかなりません。

既存の価値を一切持たない赤子こそ新しい価値を担う存在なのです。

ここにニーチェ哲学における最大の意義があるのです。

つまり、「既存の価値」を批判して「新たな価値」を創造することです。

そしてドゥルーズはこの価値創造としての三様の変化が、ニーチェの著作、生涯、健康のそれぞれの段階に表れているとします。

若くして大学の教授に任命されたニーチェは、有名人であるワーグナーとの出会いに心躍らせるなど、既存の諸価値を担う「駱駝」でありました。

そんな既存の諸価値を担っていたニーチェでしたが、1870年のプロシア-フランス戦争に従軍すると、そこで最後の既存の価値であったナショナリズムという「重荷」を下ろします。

さらに『反時代的考察』においては、これまでニーチェが全面的に肯定しつづけていたワーグナーに対しても留保の態度を表明するに至ります。

その時、まさにニーチェは既存の諸価値を打ち破る「ライオン」へと生成変化しようとしていたのです。

その変化は現実の肉体にも表れ、激しい頭痛や言語困難などニーチェはどんどんと「健康」を失っていきます。

既存の価値から脱却しつつあったニーチェは大学をやめて各地を放浪し、1878年に出版された『人間的な、あまりに人間的な』において価値批判を断行するのです。

ここに「ライオン」の時代が開始されるのです。

かつての友人たちからは理解されず、ワーグナーからは批判され、どんどんと病がひどくなっていくニーチェ。

孤独へと没落していく最中、ニーチェは健康に対する新たなパースペクティブ(=視点)を作り出すに至ります。


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