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地下鉄の男子の話

通勤のため地下鉄に揺られていると、駅に着くやいなや制服を着た中学生くらいの男子が大勢乗り込んできた。その中の一人が、座席につくなりiPadを広げて、つり革につかまって立っている同じ制服を着た男子とおしゃべりを始める。マスクはちゃんとしてるし、座席もひと席空けて座っていたので、まぁちょっと騒がしいけどいいか、くらいの気持ちで私はスマホを見つめていた。集中してスマホを見ているわけでもなく、自然と隣の男子たちの会話が耳に入ってくる。何やら「徳川家康」の再生数が凄いらしい。スマホのギガがやばいときはiPadに避難するらしい。しばらくすると、つり革につかまって立っていた男子が、網棚の上にのせたバッグを引っ張って小脇に抱えた。次の駅で降りるんだな、そう思った瞬間、座ってiPadを広げていた方の男子が「それじゃぁな、気をつけてな」と言った。そして、地下鉄が駅に停まりドアが開くとふたたび、「じゃぁな、気をつけてな」と彼はiPadを見つめながら言った。ドアが閉まり、地下鉄は動き出す。座っている男子は何事もなかったかのようにまだiPadを見つめている。私は彼が発した「気をつけてな」という言葉に少し戸惑った。なんて思いやりのある言葉だろう。自分は友人に「気をつけてな」という言葉をかけたことがあっただろうか。もしかしたら、自分の息子や娘に対しては言ったことはあるかもしれない。でも、見るからに彼らは同級生で、友人同士に見えた。ご両親がよく使う言葉だから自然と出てきたのだろうか。はたまた彼らは同じ部活のキャプテンと部員のような関係で、普段からそういう言葉をかけているのだろうか。真相はわからないけれど、そのとても自然な「気をつけてな」を発する彼が妙にカッコよくて、「その言葉と気持ちをこれからも大切にするんだぞ」とおせっかいなおじさんは心の中で思った。

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